下賜される王子

シオ

文字の大きさ
25 / 183
◆ 第一章 黒の姫宮

25

しおりを挟む
 嬉しそうな顔をしながら男の耳元で甘く囁いてはいけないと、吉乃様に教えなければと思いながら、俺は胸が詰まるような悶えを味わっていた。今からもう一度吉乃様と、体が汚れるようなことをしたくなったが、ぐっと抑えて吉乃様を抱き上げて湯殿を目指す。

 肌と肌が直に触れあって、その温かさに己の中心が反応しかけていた。先程随分と吐き出したのに、もうそんなことになるとは。最近ではこんなこともなく、枯れてきたのかなと切なくなったのだが、そうではなかった。真に愛し合った人とでなかったからだった。

「……この大きさで二人で入ったら窮屈ではないか……?」

 湯殿に入り、吉乃様が心配そうにそんな声を上げる。きっと、黒珠宮の湯殿に比べれば小さいのだろう。だが、市民感覚からすれば随分と大きく感じた。二人で入ることを予め設計されていると感じる程の大きさだ。

「大丈夫ですよ。これくらいの大きさだからこそ、二人で引っ付いて湯に入れるのです」
「なるほど、引っ付いて、か。それは素敵だな」

 嬉しそうに微笑んだ吉乃様を湯殿に下ろし、浴槽から木桶で掬ったお湯を掛ける。そっと触れて汚れを落としていく。吉乃様の体は子供のように柔らかかった。

 筋肉はあまりついていないが、贅肉が多いわけでもない。ふよふよとした柔らかい体に触れていると、くすぐったい、と吉乃様が笑いながら身をよじった。

「すみません……つい、肌触りがあまりにも心地よくて」
「清玖にそう言ってもらえて、悪い気はしない。私の肌が好きか?」
「好きです……吉乃様の体はどこも好きです」

 恍惚とした思いで、吉乃様の前で跪く。俺の手は吉乃様の腰に添えていた。男とは思えない細い腰。けれど女のものとも違う。まさに天上の存在だと、心がそう感じた。吉乃様の両手が俺の顔の両側に添えられ、俺の顔を覗き込む。

「好きなのは体だけか?」
「そんな、まさか。吉乃様の全てを愛しております。お姿、お心、その全てを」
「……ありがとう、清玖」

 そうして額に齎された口付け。その後に見せられた笑み。吉乃様がどんどんと妖艶になっていく。この宿に入る前と今では随分と異なる。ふいに思い知った。嗚呼、天はこの方を本当に姫宮様になさるのだな、と。

 離れていく吉乃様を抱き寄せて口付ける。唇を奪って、呼吸を奪って、抱き締めることによって自由も奪って。湯殿に立ち込める蒸気で、吉乃様の首筋に黒髪が貼り付いている。その様が何よりも淫靡に見えた。

「……ふぁ…っ……、しん、待っ……ぅ、ん……っ」

 何度か息を吸うために唇を離したが、そのたびに俺と吉乃様の間には銀の糸が垂れた。それに驚いたり恥ずかしがる姿がたまらない。初心な心は未だにあって、それがいちいち可愛らしいのだ。

 吉乃様が俺の胸を強くと叩くまで、俺は口付けを止められなかった。それが無ければ、吉乃様の唾液全てを絡め取るまできっと俺は止まらなかっただろう。

「苦しかった……、やりすぎだ。清玖」
「申し訳ありません」
「……でも、とても気持ち良かった」

 顔を赤らめながらそう告げた吉乃様は、少し落ち着かないように身をよじって、唇に指先を当ててもじもじとする。どうしたのだろうと、俺は心配になったが、その理由はすぐに分かった。

「しん……、これは、……どうすればいい?」

 内股になっている吉乃様の中心には、緩やかに立ち上がっているものが。膨張したとしても、俺のもののような威圧的な外観にはならない。熟れた果実のようだ。

 吉乃様は先程の口付けで感じて下さったのだ、と喜んでいる俺とは対照的に、吉乃様は恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いていた。ばつが悪そうな顔。そんな表情を見たくはなくて、俺は柔らかい頬をそっと撫でた。

「ご安心を。お任せ下さい」

 そう言って、吉乃様を浴槽の縁に座らせる。何が始まるのか全く分かっていない吉乃様は、不安そうな顔を見せながらも諾々と俺に従った。俺はといえば、縁に腰掛けた吉乃様の前で膝をつき、その足に手をかける。そして、その閉ざされた両足を開いた。

「しっ、清玖……っ、何をするんだ!」
「大丈夫ですよ、俺は吉乃様が嫌がることはしません」
「こ、これは、嫌だ」
「すぐに良くなります」
「嫌なことはしないって言ったのに……っ、……ぁっ」

 有無を言わせず、俺は吉乃様のものを口に含んだ。吉乃様が声を上げて鳴いている。嫌がってはいない、驚いているのだ。その証拠に、口で吸ったり軽く甘噛みすると、腰を小さく揺らしている。

 男のものを口に入れている。現実味がなかった。今までさせたことはある。男にも、女にも。だが、その逆は無い。そんなことを自分がするなんて、想像もしていなかった。それなのに今の俺は、とても自然に吉乃様のものを咥えている。

「やっ、やだっ、しん、……ぃ、あっ! しんっ、しん、はなして……っ、やぁ……っ!」

 口内に吉乃様の放ったものが溢れてくる。それを受け止め、嚥下する。吉乃様が浴槽に落ちてしまわないように腰を支えた。脱力した吉乃様は、俺に体を預けている。

「こんな……こんな、こと……なんで」
「したかったので、つい」
「つい、ではない……。……驚いたし、恥ずかしかった」
「すみません」

 ぐったりとしたままの吉乃様に手桶ですくった湯を掛け、そのまま抱き上げて浴槽に下ろす。丁度吉乃様の肩が浸かるほどの湯量だった。吉乃様の隣に俺も座り込む。二人で並んで湯船に浸った。

「……今の、私も清玖にしたい」
「それはちょっと……」
「ちょっと、なんだ」
「流石にまずいような」
「何もまずくはない。私だってやりたい。自分はしてくれたのに、私には駄目というのはどういう了見だ」
「……了見、と言われましても……。では、また今度機会があれば」
「今度とはいつだ?」

 吉乃様は俺に詰め寄ってそう尋ねる。こういう頑固なところはとても王族らしい。蛍星にもこういうところがある。湯の中で密着するというの、それはそれでまた良いものだが、疾しい気持ちが芽生えそうで俺は少し吉乃様から距離を取った。

「そのようになる時は、そのようになるのです。そういうものが恋人というものですよ」
「……恋人」

 そう告げると、吉乃様は驚いたように目を見開いて俺を見た。恋人などというのは、あまりにも僭越だっただろうか。そんな焦りにも似た緊張を抱いた直後、吉乃様は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「恋人、そうか……恋人とは、そういうものなのか。なるほど。であるならば、次の機会にしておこう」

 満足そうにそう呟いて、せっかく距離を取ったというのにそれを詰めて、俺の肩に頭を乗せ、気持ち良さそうに目を閉じた。

 本当に、何もかもが信じられない。吉乃様の肌にこんな風に触れる時が来るなんて。怒涛のように過ぎ去ったあらゆること。全てが一瞬の出来事のように感じた。

 気持ち良さそうに目を閉じている吉乃様が、湯冷めせぬようにしなければ。体を清めたら湯から上がって、体をしっかりと拭いて、髪も乾かして。きっと疲れているであろう吉乃様が本格的に眠りに入ってしまう前にそれをこなして、さっと寝台へお連れしよう。

 そんな算段を立てながら、俺は寄りかかってくる吉乃様をそっと抱き寄せた。ふって沸いたような身に余る僥倖を噛み締める。いずれ訪れるであろう絶望の影に、今だけは気付かぬふりをして。

「次は、私の事を抱いてくれるな?」

 有無を言わせぬ問い。それは命令に近い。俺は小さく頷く。命令されるまでもない。俺はきっと我慢をすることが出来ないだろう。理性が欲望に負けるのは目に見えている。遠からず、俺は吉乃様を抱いてしまうのだ。

「御心のままに」


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】 踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。 一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。 第11回BL小説大賞エントリー中です。 この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります! 「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します! ************** 公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。 弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー! 過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載 → https://twitter.com/karoito2 → @karoito2

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta
BL
【嗅覚を失った美食家α×親に勝手に婚約者を決められたΩのすれ違いグルメオメガバース】 会社員の夕希はブログを書きながら美食コラムニストを目指すスイーツ男子。αが嫌いで、Ωなのを隠しβのフリをして生きてきた。 最近グルメ仲間に恋人ができてしまい一人寂しくホテルでケーキを食べていると、憧れの美食評論家鷲尾隼一と出会う。彼は超美形な上にα嫌いの夕希でもつい心が揺れてしまうほどいい香りのフェロモンを漂わせていた。 夕希は彼が現在嗅覚を失っていること、それなのになぜか夕希の匂いだけがわかることを聞かされる。そして隼一は自分の代わりに夕希に食レポのゴーストライターをしてほしいと依頼してきた。 協力すれば美味しいものを食べさせてくれると言う隼一。しかも出版関係者に紹介しても良いと言われて舞い上がった夕希は彼の依頼を受ける。 そんな中、母からアルファ男性の見合い写真が送られてきて気分は急降下。 見合い=28歳の誕生日までというタイムリミットがある状況で夕希は隼一のゴーストライターを務める。 一緒に過ごしているうちにαにしては優しく誠実な隼一に心を開いていく夕希。そして隼一の家でヒートを起こしてしまい、体の関係を結んでしまう。見合いを控えているため隼一と決別しようと思う夕希に対し、逆に猛烈に甘くなる隼一。 しかしあるきっかけから隼一には最初からΩと寝る目的があったと知ってしまい――? 【受】早瀬夕希(27歳)…βと偽るΩ、コラムニストを目指すスイーツ男子。α嫌いなのに母親にαとの見合いを決められている。 【攻】鷲尾準一(32歳)…黒髪美形α、クールで辛口な美食評論家兼コラムニスト。現在嗅覚異常に悩まされている。 ※東京のデートスポットでスパダリに美味しいもの食べさせてもらっていちゃつく話です♡ ※第10回BL小説大賞に参加しています

処理中です...