スキトヲルヲモイ

幻中六花

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待ってるから

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 それから毎日、玲奈は夏弥の身体にくっ憑イテ過ごした。あまり力いっぱいしがみつくと、夏弥が身体に異変を感じることがわかってから、そっと、力を入れずにくっ憑イテイル。

「夏弥、あの日、どうしてあの場所に来てくれたの?」
「私との、本当のお別れを言いに来たの?」

 玲奈の言葉は相変わらず夏弥に伝わらないけれど、玲奈は毎日問いかけた。そのうち、今まで玲奈だけには見えていた自分の身体が、透明になってきていることに気づいた。
「あれ……?」
「そろそろ限界だな」
 玲奈が後ろを見ると、いつの間にか鬼のようだけど優しそうな、角が似合わない赤くて小さな少年のような人が立っていた。
「誰……?」
「地獄から迎えに来た遣い」
「地獄……」
 自ら命を放り投げた玲奈の行く場所は、その時点で地獄と決まっていた。でも、玲奈には夏弥を恨む気持ちも、相手の女を恨む気持ちもなく、自分を責める心が強くあったため、この遣いによって、もうしばらくこの世で夏弥のそばにいさせてもらえたのだ。
「少しは幸せになれたか」
「……はい……。もう……大丈夫です……」

 玲奈は夏弥に巻き付いていた身体をシュルリと抜き、遣いの方へ歩み寄る。そして夏弥を振り返る。
「あの場所で再開できたこと、嬉しかったよ。幸せに……なってね」
 玲奈の目から思わず涙が溢れる。その涙が床に落ちた瞬間、夏弥が玲奈の方を振り向いた。

 ──「夏弥……っ!」
「……ん?」
 夏弥は玲奈の方に近寄り、床に落ちた水滴を拭った。玲奈の声に反応したわけではなく、落ちた水滴の音が聞こえただけだったけれど、玲奈にとってはそれも嬉しかった。涙が幻想ではなく、物体としてこの世に存在したこと、それを夏弥が拭ってくれたことが嬉しかった。
 夏弥はそこで、今まで数日間取れなかった腰の重みが消えていることに気づく。
「ん?」
 腰をさすり、今自分が拭った水滴を見て、
「……玲奈……?」
と呟いた。

 ──「夏弥っ」
 玲奈の目からまた、嬉し涙が1粒こぼれてしまった。夏弥が玲奈の名を呼んだ瞬間、目の前に水滴が降ってきたので、夏弥は玲奈がそこにいることを確信した。
「玲奈、ごめんな。俺は玲奈に何もしてあげられないんだ……。酷いことをしたんだから、取り憑いてくれても構わない」
 ──「……いよ……」
「玲奈……?」
 もう届かないとわかっていながら、玲奈が思わず口にした「そんなことしないよ」という言葉に、夏弥は反応を示した。もうこれが最期だ……。夏弥に伝えられる最期の言葉。
 ──「そんなことしないよ」
「玲奈……」

 玲奈の身体はもうほぼ消えていて、空気の流れでしか感じることができなかったけれど、夏弥にはそれを感じることができた。
「玲奈……ありが……」
 ──「地獄で待ってるから……」

「え……?」
という夏弥の言葉は、夏弥以外に誰もいないその部屋の中に木霊こだまして、空気の流れも止まった。

「地獄で……待ってるから……」


『スキトヲルヲモイ』
──完──
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