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本当の自由
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車が停まったのはお馴染みの駐車場だ。オレがかつて散歩されていた駐車場。あの日逃げ回った駐車場。
夜だけど車はたくさん停まっていた。
外に繋がっている入り口の前にえっちゃんが立つと、ドアが開いた。
「えっちゃん! どうしたの……シロー!?」
出迎えてくれたのはトリマーの八木英莉、通称ヤギさん。少し太っているベテランのトリマーで、えっちゃんの先輩。
──ワンワンワンワン!
──キャンキャン!
──クーン!
「シロー!?」
「どこ行ってたんだよ!」
「えっちゃんこんばんは!」
……ダダはえっちゃんへの挨拶かよ!
それはともかく、みんなオレのことを歓迎してくれてるみたいで安心した。
見た感じ、チッチとペンちゃんがいなかった。家族が見つかったんだな……。
「シロー、何だその色! ハスキーじゃん!」
そういって腹を抱えて笑うアム。
「お前はまだここにいたのかよ」
「じゃーん! 見ろよ、ショーケース!」
アムの入っているショーケースのガラスには、『新しい家族が決まりました♡』とえっちゃんの可愛い文字で書かれたカードが貼ってあった。
「えっ!?」
「ば・い・や・く・ず・み・なのだ~!」
「マジかよ」
「シロー、お風呂準備できたよ」
「えっちゃん今日非番でしょ? 私やろうか?」
そう言う八木さんにえっちゃんは言った。
「いやぁ、八木さん店からいなくなったら誰もいなくなりますよ! 暇なので、私やります」
ラッキー☆
えっちゃんにお風呂入れてもらえる!
えっちゃんのシャンプーは極上だ。お湯がどんどん黒くなって、オレがどんなに汚かったかがわかる。
「シロー、きったなー!」
えっちゃんが笑ってるからいいや。
「チッチとペンちゃんはね、最近家族が決まったんだよ」
ここで一緒に寝泊まりする仲間全員と一緒にいられることなんて、1日か2日かわからない。ひとり、またひとりと家族が決まって、減って、また新入りが増えるんだ。
「アムも決まったんだよ」
オレはえっちゃんと会話することはできないから、黙ってニコニコとえっちゃんの極上シャンプーを受け入れていた。
やがて、ゴシゴシッと少し雑な感じでタオルドライされたオレ。えっちゃんはタオルドライがいつも雑。
そしてぬるめのドライヤー。これがまた気持ちいいし、いい匂いするし、最高なんだ。
この店にシャンプーしにくるヤツらの気持ちもわかる。
オレの白い毛は元に戻り、ふわふわに仕上がった。自慢の巻き尾もその下の肛門も綺麗さっぱり。
胸を張ってお風呂から出て、えっちゃんに連れられて懐かしのオリに戻ると、その入り口の少し上に紙が貼ってあった。
──ばい、やく、ずみ……?
「八木さん、支払いカードでお願いします」
えっちゃんが財布からカードを出して支払いをしている。オレのシャンプーなんて店の金だろ?
「成長割引と社割ね。7万円ね」
──成長割引?
それは店でいつも聞いていた言葉だ。成長して売れにくくなったイヌは値段を割り引いて売られるってヤツ。社割ってのはあまり聞いたことないからわかんねぇ。
「シロー、いいよなお前。えっちゃんに買われたんだぞ」
「え!?」
アムに言われてやっと理解した。
「えへへ、シローは今日から私の相棒。見つかったら飼うって決めてたの。ビシバシ躾するからね!」
──う……。なんか怖い……。
じゃあ、アムともダダとも他のヤツらとももう会えねぇってこと?
オレはしょっちゅう連れてきてもらえそうだけど、普通の家に飼われたヤツなんてあまり来ねぇし、シャンプーだって予約制だからかぶることねぇし……。
「実質、さよなら、だな」
アムが言う。
「どっかで会えねぇかな?」
「さぁ? 会ったら声かけろよ」
「おう」
アムとそんな話をしているうちに、えっちゃんの会計が終わり、オレは7万円で買われた。
前にえっちゃんは飼ってたイヌを亡くしてる。だから道具はほぼ揃っているのだろう。
オレはお下がりでもいいよ。あんな外での生活に比べたら、全然いい。
ご飯とおやつとおもちゃだけ買って、オレをオリの中から出した。
「このケージ、明日片付けるのでそのままにしてていいですからね」
「そう? じゃ、お願いするわ。腰痛くてさ」
「オッケーです。じゃあ、今日は失礼します」
「気をつけてね。シロー、またシャンプーに来なよ」
ヤギさんはそう言って、せっかくセットしてもらったオレの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。パワーがすごい……。
──ワンワン!
──クンクン!
「元気でな!」
「えっちゃんまた明日ね!」
……だから! ダダはえっちゃんへの挨拶かって!
「みんな、またな! いい家族と巡り逢えよ!」
オレはえっちゃんに引かれて車に乗り込み、えっちゃんの家へ向かった。
えっちゃんごめんな。オレもう心配かけねぇから。死ぬまでずっとえっちゃんの味方だからな。
オレは、いい子になろうと誓った──
『本当の自由は外なのか中なのか』
──完──
夜だけど車はたくさん停まっていた。
外に繋がっている入り口の前にえっちゃんが立つと、ドアが開いた。
「えっちゃん! どうしたの……シロー!?」
出迎えてくれたのはトリマーの八木英莉、通称ヤギさん。少し太っているベテランのトリマーで、えっちゃんの先輩。
──ワンワンワンワン!
──キャンキャン!
──クーン!
「シロー!?」
「どこ行ってたんだよ!」
「えっちゃんこんばんは!」
……ダダはえっちゃんへの挨拶かよ!
それはともかく、みんなオレのことを歓迎してくれてるみたいで安心した。
見た感じ、チッチとペンちゃんがいなかった。家族が見つかったんだな……。
「シロー、何だその色! ハスキーじゃん!」
そういって腹を抱えて笑うアム。
「お前はまだここにいたのかよ」
「じゃーん! 見ろよ、ショーケース!」
アムの入っているショーケースのガラスには、『新しい家族が決まりました♡』とえっちゃんの可愛い文字で書かれたカードが貼ってあった。
「えっ!?」
「ば・い・や・く・ず・み・なのだ~!」
「マジかよ」
「シロー、お風呂準備できたよ」
「えっちゃん今日非番でしょ? 私やろうか?」
そう言う八木さんにえっちゃんは言った。
「いやぁ、八木さん店からいなくなったら誰もいなくなりますよ! 暇なので、私やります」
ラッキー☆
えっちゃんにお風呂入れてもらえる!
えっちゃんのシャンプーは極上だ。お湯がどんどん黒くなって、オレがどんなに汚かったかがわかる。
「シロー、きったなー!」
えっちゃんが笑ってるからいいや。
「チッチとペンちゃんはね、最近家族が決まったんだよ」
ここで一緒に寝泊まりする仲間全員と一緒にいられることなんて、1日か2日かわからない。ひとり、またひとりと家族が決まって、減って、また新入りが増えるんだ。
「アムも決まったんだよ」
オレはえっちゃんと会話することはできないから、黙ってニコニコとえっちゃんの極上シャンプーを受け入れていた。
やがて、ゴシゴシッと少し雑な感じでタオルドライされたオレ。えっちゃんはタオルドライがいつも雑。
そしてぬるめのドライヤー。これがまた気持ちいいし、いい匂いするし、最高なんだ。
この店にシャンプーしにくるヤツらの気持ちもわかる。
オレの白い毛は元に戻り、ふわふわに仕上がった。自慢の巻き尾もその下の肛門も綺麗さっぱり。
胸を張ってお風呂から出て、えっちゃんに連れられて懐かしのオリに戻ると、その入り口の少し上に紙が貼ってあった。
──ばい、やく、ずみ……?
「八木さん、支払いカードでお願いします」
えっちゃんが財布からカードを出して支払いをしている。オレのシャンプーなんて店の金だろ?
「成長割引と社割ね。7万円ね」
──成長割引?
それは店でいつも聞いていた言葉だ。成長して売れにくくなったイヌは値段を割り引いて売られるってヤツ。社割ってのはあまり聞いたことないからわかんねぇ。
「シロー、いいよなお前。えっちゃんに買われたんだぞ」
「え!?」
アムに言われてやっと理解した。
「えへへ、シローは今日から私の相棒。見つかったら飼うって決めてたの。ビシバシ躾するからね!」
──う……。なんか怖い……。
じゃあ、アムともダダとも他のヤツらとももう会えねぇってこと?
オレはしょっちゅう連れてきてもらえそうだけど、普通の家に飼われたヤツなんてあまり来ねぇし、シャンプーだって予約制だからかぶることねぇし……。
「実質、さよなら、だな」
アムが言う。
「どっかで会えねぇかな?」
「さぁ? 会ったら声かけろよ」
「おう」
アムとそんな話をしているうちに、えっちゃんの会計が終わり、オレは7万円で買われた。
前にえっちゃんは飼ってたイヌを亡くしてる。だから道具はほぼ揃っているのだろう。
オレはお下がりでもいいよ。あんな外での生活に比べたら、全然いい。
ご飯とおやつとおもちゃだけ買って、オレをオリの中から出した。
「このケージ、明日片付けるのでそのままにしてていいですからね」
「そう? じゃ、お願いするわ。腰痛くてさ」
「オッケーです。じゃあ、今日は失礼します」
「気をつけてね。シロー、またシャンプーに来なよ」
ヤギさんはそう言って、せっかくセットしてもらったオレの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。パワーがすごい……。
──ワンワン!
──クンクン!
「元気でな!」
「えっちゃんまた明日ね!」
……だから! ダダはえっちゃんへの挨拶かって!
「みんな、またな! いい家族と巡り逢えよ!」
オレはえっちゃんに引かれて車に乗り込み、えっちゃんの家へ向かった。
えっちゃんごめんな。オレもう心配かけねぇから。死ぬまでずっとえっちゃんの味方だからな。
オレは、いい子になろうと誓った──
『本当の自由は外なのか中なのか』
──完──
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