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博愛主義!ヤンデレンジャー!!

フィランスイエローになるまで(2)

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 その日の夜、僕はいつものように連絡帳に今日の出来事を書いた。連絡帳って言うのは担任の先生との交換日記みたいなもので、低学年のクラスは全員やっているんだけど高学年のクラスは先生によってやったりやらなかったり、時々やったりする。僕の担任の先生は特別子供が大好きで明るい先生なので六年生のくせに毎週連絡帳をやりとりする。

『今週は、僕の誕生日だったので駅前のお店でパフェを食べに行きました。僕は本当はチーズケーキの方が好きだけど、子供の頃に誕生日はパフェを食べるとお兄ちゃんと約束をしたので毎年決まって誕生日はお兄ちゃんとパフェを食べに行きます。』

『向日葵さん誕生日おめでとう!優しいお兄さんですね、向日葵さんのところは兄妹の仲が良くて素敵!』

 僕がお兄ちゃんとパフェを食べに行ったのは僕が小学校二年生の頃、確かお兄ちゃんもまだ小学生だった。何のアニメか忘れたけどパフェを食べるシーンを見てどうしても食べたくなったとわがままを言う僕を近くのファミリーレストランに連れて行ってくれた。
 お母さんにお金をもらって、お兄ちゃんと手を繋いで出掛けた。僕は初めて子供だけでご飯を食べに行ったからドキドキしたのをよく覚えている。
 その日は丁度僕の誕生日で、お兄ちゃんは来年も再来年もこれからずっと僕の誕生日は一緒にパフェを食べに行こうって言ってくれた。大人になったら食べ切れるか心配なくらいに大きなジャンボパフェも食べさせてくれると約束してくれた。

 でも、お兄ちゃんと二人でパフェを食べに行ったのはその年が最初で最後になった。
 中学生になって変わってしまったお兄ちゃん、多分僕との約束も誕生日も忘れてしまうくらいに毎日大変なんだとおもう。でも、いつかあの時の優しいお兄ちゃんに戻ってもう一度僕とパフェを食べに行ってくれるって信じてる。

 だから今はただ、お兄ちゃんに嫌われないように頑張る。



 そんな僕の毎日が終わったのは小学六年生の梅雨の時期だった。夏休みまであと一か月半くらいかな、とか思いながらお休みの日を過ごしていると突然辺りがぐにゃりと歪んだ。
 多分それは普段なら眠っている夜のことで、その日は特別お兄ちゃんがイライラしていたから僕はお腹の痛みでなかなか眠りにつくことが出来なかった。明日も学校だからはやく眠らないとって思いながら過ごしていたら、急に家の中がおかしくなった。
 何がおかしいのかわからないけど、どこかから変な声が聞こえるし、部屋の中がモノクロテレビみたいに色がなくなってしまったようだった。
「ど、どろぼう?」
 家の様子がおかしいというだけで僕は勝手に泥棒だと勘違いし、布団の中にいるのが怖くなって自分の部屋のクローゼットに身を潜めた。本当に泥棒ならこれが安全な行動なのかわからないけど、とにかく混乱している僕は隠れようとしたんだと思う。
「・・・・・・」
 僕が隠れてから三十分くらい経ったところで、再び世界がぐにゃりと歪んだ感じがした。クローゼットの中にいる間ずっと眼を瞑って両手で耳を塞いで丸まっていたから何が起きたのか全然わからないけど、なんとなくそろそろ安全そうだなって思い、僕は外に出た。
「お、お兄ちゃん・・・」
 当然まだ夜遅い時間だから、こんな時間に起こしたら怒られるのはわかっていたけど。
 もし本当に泥棒が入っていたのだったら何か盗まれているかもしれないし、とにかく僕は怖くて不安で、誰かと話がしたくてしょうがなかった。
「起きてる?ごめんね、僕だよ、向日葵」
 すぐ隣の部屋をノックして外から声をかける。けど、返事は無い。
「ごめんね、入るよ」
 無断で部屋に入るなんてどれだけ怒られるかわからないことだけど、お兄ちゃんへの恐怖と泥棒への恐怖がごちゃごちゃになって、いつもはしないような事ができた。僕は初めて自分の意思で兄の部屋に入り、ベッドで眠る兄に近づく。
「・・・っ!!!?」

 布団から顔を覗かせている筈のお兄ちゃんの頭は綺麗になくなっていた。

 首から上が綺麗にすっぱりと切り取られているみたいに、壊れたマネキンのように頭から上がなくなっている。
「ひぃっ・・・!」
 思わず声を上げて一歩後ずさると、足元にゴツ、と動物の毛のような触感の重たい何かがぶつかる。
「・・・」
 足元を見ると、大きな目を白黒に濁らせてだらんと舌を出した兄が無様に此方を仰いでいた。
「うわあああああああああ!!」
 僕はショックのあまりその場で気を失ったらしい。



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