それでも好きな人

なめめ

文字の大きさ
11 / 30
愛しているのに……

3

理人さんとのデート当日。

いつもはホテル街で待ち合わせをするが、今日はお互いの会社から近い駅方面で落ち合った。


 徹史はこの日の為に初めて新調した三つ揃いの紺色のスーツに、水玉で朱色のネクタイを合わせて、少しでも理人さんと並んで恥ずかしくないように、身なりから気合を入れた。

 ホテルの上階にある夜景が映えるレストランに到着してコートを脱ぐと、早々にスーツがいつもと違うことを突っ込まれたが適当にはぐらかしてやり過ごしす。


 理人さんは自分の身体以外には興味がないと思っていただけに、徹史の服装など逐一気にしてなどいないと思っていた。思わぬところで彼に気づいて貰えて嬉しくなり、心の中でガッツポーズをする。

我ながらかなり奮発して新調した甲斐があった。

 しかし、身なりで背伸びをしていても、実際に畏まった食事が初めての徹史は終始緊張していた。予習はしてきたものの所作の自信はない。

 一方でテーブルの向かいに座る理人さんは、運ばれたコース料理をナイフとフォークを使って慣れた手つきで口へと運んでいたので経験の差を見せつけられる。

「お前を見ていると、背伸びしている感出ていて面白いよな」
「背伸びしてる感って……。去年まで大学生だったんですから仕方がないじゃないですか……」

 明らかに揶揄われていると分かる言動に躍起になるが、不思議と嫌な感じがしないのは初めて彼とベッドの上以外で真面に会話ができている高揚感からだった。    

 窓際の席で街を一望できる夜景と高価なディナー、それに目の前には好きな人。

理人さんと関係を結んでからこんな日が来るとは半年前の自分は思わなかっただろう。

「ムキになるなって。俺からしたら初々しくて新鮮だなって思っただけだよ」

 徹史が普段見ている彼とは違う、表情の柔らかさを感じた。

いつもは一文字に引かれている口元が綻んでいる姿は徹史の胸を燻る。

「それって、俺のこと可愛いってことですか?」

 単なる戯れだと分かっていても、レストランの雰囲気がそうさせるのか、理人さんの一つ一つの仕草に浮かれてしまう。

「たかがセフレにそんなこと思う訳ないだろ。調子に乗るな」
 
 浮かれた徹史を冷たく突き放してくる彼は通常通りであるが、黙っているだけじゃいられない。

「調子に乗ってなんかいないですよ。そんな理人さんだって、お澄まし顔で食事してますけど、その信念じゃ誰かをこういう所に誘ったことなんかないでしょ?」

 理人さんの鋭い言葉に心が折れそうになることもあるが、そんな彼の心無い一言を頻繁に受けていたせいで耐性がついたのか、今や言い返して小突くくらいの余裕はあった。

「誘ったことはないな……」

 てっきり言い返してくると思った理人さんが、目を逸らして呟いてきたことに違和感を覚えながらもチャンスだと思った。

「じゃあ、なんでそんなに慣れているんですか?」

 踏み込んだことだと分かっていても訊かずにはいられない。
理人さんの雰囲気から俺の知らない、普段では教えて貰うことのできない彼のことを今日は聞きだせるような気がした。

「十九とか二十代前半は、社長クラスの男によく連れてきてもらっていたから……」

 彼から社長クラスの相手と聞いて思い当たる関係といえばひとつしかない。仕事の付き合いでレストランなんて行くことは滅多にないだろうし……。

「その社長クラスの男も身体だけの関係だったんですか」
「もちろん、向こうは妻子もいたし」

 ナイフとフォークでメインの牛肉のステーキを切りながら、淡々と話しては口に運んでいく理人さんは今まで見た以上に冷めた瞳をしていた。

 理人さんが処女ではないと分かってはいたが、セフレの自分と食事を頑なに断る彼が過去に食事をする仲の男が居たことに虫の居所が悪くなる。

 おまけに妻子持ちだったなんて……。


「それってアウトじゃないですか」
「アウトだけど、そこに恋愛感情はなかったからセーフだろ」
「セーフって……。でも食事までしていたってことは理人さん自身、少しは情が湧いていたりしたんじゃないんですか?」
「割り切っていたからそれはない」

 眉を顰めて少しだけ鬱陶しそうに返してくる。どんなに怪訝な顔をされようとも徹史は彼のことをもっと知りたい一心だった。 

 勿論嫉妬心からもあるが、少しでも可能性を探したかった。理人さんにも誰かを好きになる感情があることを……。

「じゃあ、なんで続かなかったんですか」
「賞味期限切れになったから切り捨てられた」
「期限切れって……。ひどい」

 まるで食材のようなものぐさ。

徹史の経験だけでは到底理解できないような世界を理人さんは見てきている気がした。

「じゃあ、理人さんは今まで人を好きになったことはないんですか?」

 彼にとってこの質問が地雷だと分かっていても聞きたい。その凍てついた心を溶かせる手段を少しでも見つけられるのであれば……。

感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。