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苦い恋心の記憶(楷said)
1
腹這いになりながら、煙草の煙を燻らせ櫂理人は深い溜息をついた。
繁華街にあるラブホテルのキングサイズほどのだだっ広いベッドで情事後、寝息をたてて眠る男を余所にタブレットで資料を眺める。
寝タバコなんて行儀の悪い行為だと分かっていながらも止めないのは、資料に記載されていた名前に見覚えがあり、動揺したからだった。
クリスマス間近の来月半ばから始まる、櫂が務めているデパートの物産展の出店者の代表者名簿にかつて恋情を抱いていた男の名前があった。
『やぎた農場 代表責任者 矢木田慎文』
今まで関わってきた奴には特別な感情を抱くことはなかった櫂が唯一惚れてしまった男。
人違いだと思いたかったが、道東の地元から出店してきてこの姓の奴なんて一人しかいない。
あれから十三年経つだろうか。苦い思い出と共にノスタルジックな気持ちになりながらも、同時に今の奴がどんな男になっているのか想像しては身体の芯が熱くなった。
当時、一つ下だった中学二年のあいつの体つきは悪くなかった。
農場の手伝いをしていたからか、筋張った筋肉はあの時の櫂を興奮させる要素のひとつだった。
その癖、幼い顔立ちをしていた奴は大人になって男前になっているに違いない。周りからモテはやされていたくせに、憎たらしいほど一途な男。
「理人さん、何見ているんですか?」
左肩に重身を感じて慌ててサイドテーブルの灰皿に煙草を押し付けるとタブレットの画面を落とし、サイドテーブルに置く。
「仕事の資料」
櫂は重みを感じる肩口を見遣ると先程まで隣で熟睡していた筈の情事の相手、栗山徹史が物欲しげに顎を乗せてきていた。
「プライベートに仕事を持ち込まないでくださいよ。そんなのいいから俺のこと考えてください」
甘え上手なのか、顔を向けた途端に唇に軽くキスをされる。
「ただのセフレだろーが」
櫂は栗山のおでこを人差し指で弾いては、肩口の顎を振り払うように上体を起こしてベッドから降りた。
栗山とは恋人関係はなく、唯のセフレ。
今年二十八になったばかりである櫂より四つ年の離れた二十四歳だったと思う。
如何せん栗山が出会ったのは一年半ほど前に行きつけのバーで声を掛けられてからだ。
当時、セフレに見限られてむしゃくしゃしていた櫂は男に話し掛けられ、速攻でホテルに誘い、行為に及んでからお互いのプライベートを詮索しない条件で成り立っている関係が続いている。
同年代の奴らだと将来を見据えた付き合いをしたがる奴が多くてうんざりしていた櫂には若くて、生涯のパートナー探しとは無念そうな栗山は優良物件であった。
「どこ行くんですか?」
「シャワーに決まってんだろ」
ベッド付近の床に脱ぎ捨てたダウンを拾い上げるとベッドの上で寝転がったままの栗山に「俺もいいですか?」と問われる。
欲を満たしたのであれば、一緒にお風呂場で恋人のようにイチャつく行為は櫂にとっては面倒であった。
栗山とは下手な情など持たずに淡泊な関係でありたい。それは情を持てば持つだけ、自身の傷が深くなることを知っているからだ。
人は学習する生き物だ。
己の浅はかさで恋愛弱者となり、痛い目を見た経験を繰り返したいなどと思わない。
なのに頭からシャワーを被り、考えることは先ほど名前を見てしまった慎文のことであった。
繁華街にあるラブホテルのキングサイズほどのだだっ広いベッドで情事後、寝息をたてて眠る男を余所にタブレットで資料を眺める。
寝タバコなんて行儀の悪い行為だと分かっていながらも止めないのは、資料に記載されていた名前に見覚えがあり、動揺したからだった。
クリスマス間近の来月半ばから始まる、櫂が務めているデパートの物産展の出店者の代表者名簿にかつて恋情を抱いていた男の名前があった。
『やぎた農場 代表責任者 矢木田慎文』
今まで関わってきた奴には特別な感情を抱くことはなかった櫂が唯一惚れてしまった男。
人違いだと思いたかったが、道東の地元から出店してきてこの姓の奴なんて一人しかいない。
あれから十三年経つだろうか。苦い思い出と共にノスタルジックな気持ちになりながらも、同時に今の奴がどんな男になっているのか想像しては身体の芯が熱くなった。
当時、一つ下だった中学二年のあいつの体つきは悪くなかった。
農場の手伝いをしていたからか、筋張った筋肉はあの時の櫂を興奮させる要素のひとつだった。
その癖、幼い顔立ちをしていた奴は大人になって男前になっているに違いない。周りからモテはやされていたくせに、憎たらしいほど一途な男。
「理人さん、何見ているんですか?」
左肩に重身を感じて慌ててサイドテーブルの灰皿に煙草を押し付けるとタブレットの画面を落とし、サイドテーブルに置く。
「仕事の資料」
櫂は重みを感じる肩口を見遣ると先程まで隣で熟睡していた筈の情事の相手、栗山徹史が物欲しげに顎を乗せてきていた。
「プライベートに仕事を持ち込まないでくださいよ。そんなのいいから俺のこと考えてください」
甘え上手なのか、顔を向けた途端に唇に軽くキスをされる。
「ただのセフレだろーが」
櫂は栗山のおでこを人差し指で弾いては、肩口の顎を振り払うように上体を起こしてベッドから降りた。
栗山とは恋人関係はなく、唯のセフレ。
今年二十八になったばかりである櫂より四つ年の離れた二十四歳だったと思う。
如何せん栗山が出会ったのは一年半ほど前に行きつけのバーで声を掛けられてからだ。
当時、セフレに見限られてむしゃくしゃしていた櫂は男に話し掛けられ、速攻でホテルに誘い、行為に及んでからお互いのプライベートを詮索しない条件で成り立っている関係が続いている。
同年代の奴らだと将来を見据えた付き合いをしたがる奴が多くてうんざりしていた櫂には若くて、生涯のパートナー探しとは無念そうな栗山は優良物件であった。
「どこ行くんですか?」
「シャワーに決まってんだろ」
ベッド付近の床に脱ぎ捨てたダウンを拾い上げるとベッドの上で寝転がったままの栗山に「俺もいいですか?」と問われる。
欲を満たしたのであれば、一緒にお風呂場で恋人のようにイチャつく行為は櫂にとっては面倒であった。
栗山とは下手な情など持たずに淡泊な関係でありたい。それは情を持てば持つだけ、自身の傷が深くなることを知っているからだ。
人は学習する生き物だ。
己の浅はかさで恋愛弱者となり、痛い目を見た経験を繰り返したいなどと思わない。
なのに頭からシャワーを被り、考えることは先ほど名前を見てしまった慎文のことであった。
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