それでも好きな人

なめめ

文字の大きさ
21 / 30
叶わないもの


深く関わるべきではない。
自分の中で警鐘を鳴らしていても慎文を見かければ、自然と足が彼の元へ向いてしまう。週の初めにも拘わらず、珍しく栗山から「今日、会えたりしませんか?」と連絡があったのを無視して、閉店後の従業員専用玄関先で慎文が出てくるのを待っていた。

「おい、慎文」

 足早に自分には見向きもせずに通り過ぎていく、嬉しそうな表情の慎文を呼び止める。
彼は櫂の声で振り返ってくるなり、気まずそうに目を逸らしてきた。慎文の態度が露骨すぎて、一周廻って開き直りたくなる。

「先輩……」
「嬉しそうじゃん?なに?この後愛しのカズくんとでもデートすんの?」

 ゆっくり歩み寄ると、慎文は手提げ鞄を両腕に抱えて俯いた。
まるでいじめっ子に詰め寄られているみたいな光景は気分が
いいものではない。

確かに先輩の権力を使って半ば強引に誘った過去があるとはいえ、カズくんに振られてからは完全に合意の上だったはずだ。

 慎文は櫂の問いに大きく首を振った。目を泳がせているところから明らかに嘘だと分かる。昔から慎文はそういう奴だった。素直だから嘘がつけなくて、嘘ついても直ぐに行動や仕草にでてしまう。

「じゃあさ、呑みに行かない?久しぶりに積もる話もあるだろ?」
「嫌です……」
「なんでだよ。デートじゃないんだろ?なら俺に付き合えよ?」

 心の中では止めておけと警鐘を鳴らしていても、慎文に詰め寄ろうとするのを止められない。心のどこかで拒絶されてもなお、慎文のその一途さに好かれたいと思ってしまう。

「デートじゃないけど、カズくんと待ち合わせしてるから……」

 交際しているのだから仕事のあとで恋人と落ち合うなどごく自然のことだと分かっていても、動揺が大きい。

「へぇ、ちゃんと付き合ってんだ。良かったじゃん」

 今更だとしてもいい先輩面をしたくてただの強がりで虚勢を張る。すると、慎文が唇を強く噛みしめて自身なさげに頷いたのを見逃さなかった。

「先輩……。俺、急いでるから……。じゃあ」

 何か不味いことでも隠すように青い顔をしながら櫂を横切っていく。物産展で二人の関係を問うた時も奴はどこか浮かない表情で返事をしていた。

 そして、櫂が感じた二人の間の温度差。もしかして、交際しているのは嘘なのではないかと櫂は疑念を抱いた。それくらいわかりやすい男なのだから好きな人と付き合えていたら、もっとこう、嬉しそうにしている筈だった。

「お前さぁ、本当に相手がお前のことを好きになったと思ってんの?」

 意地悪のつもりで問うてみると、慎文の背中がビクリと跳ねてゆっくりと振り返ってくる。

「な、なってるよ……」


 その割には弱々しくなる声音。

「じゃあ、お前の望んでいたカズくんとのキスやセックスは出来たか?」

 更に小突いてやると、慎文は顔を真っ赤にさせ、俯きながら首を横に振る。
その気になれば嘘だってつけるはずなのに慎文の馬鹿正直な所が可愛かった。

 この調子じゃクロだな·····。なんて思いながらも、慎文は意地を張っているのか「それだけが全てじゃないから·····」と苦し紛れの言い訳をしてくる。

「じゃあさ、ちゃんと俺にあいつ紹介しろよ。ちゃんと見定めてやるからさ」

 慎文がカズくんの関係をぶち壊したくて何かをしようとは企んでいるわけではない。
唯、慎文を拒絶していたカズくんが本当に慎文のことを受け入れたのか知りたかった。

 結局ノンケが此方に寝返るなんてことはないと経験上から知っているからこそ、慎文には望むだけ無駄だと教えてやりたかった。



駅前通りにある居酒屋で櫂はひとりで酒を飲んでは酔い潰れる寸前だった。ひとりで呑みに来ていた訳ではない。正確にはひとりになってしまった。

 あの後カズくんこと、井波(いなみ)和幸(かずゆき)の真意を確かめるために嫌がる慎文を連れ、彼が勤めている会社で本人を捕まえた。

半ば強引に呑み屋に連れてきたはいいが、和幸はおろか慎文も黙り込んでいて、櫂はどうにかして場を盛り上げるのに必死だった。

自分がこの二人に嫌われていることが、ヒシヒシと伝わる。

和幸を揺さぶるために慎文と下世話な話しで煽っても自分は関係ないと言いたげにそっぽを向いていた。

それが気に食わず、櫂はしつこく慎文に問い詰めたことで彼の逆鱗に触れたのか、慎文の手を引いて店を出てしまったのが数十分前。

 見定めるどころか、あんなのを見せられたら完全に二人が相思相愛であることは一目瞭然だった。

 櫂は二人がいなくなってから途端に寂しくなり、酒を浴びるように呑んでは現在に至る。
 気だるげにスマホを弄っていると、ふと栗山の無視したメッセージが目について既読にした。

 こんな自分を本気で愛してくれるやつなんかいない。このまま家に帰ったら寂しくて、きっと二人の姿を想像しては悲しくなる気がした。

 櫂はスマホの通信アプリの通話ボタンをタップすると耳に押し当てる。

二コール目で電話の奥から『もしもし、理人さん?』と栗山の声が聞こえてきて安堵した。栗山はいい。セフレということもあって情に流されず気楽に接することができるし、櫂がほしいときに必ず連絡を返してくれる。

「くりやまぁー。どこにいんだよ」
『どこって家ですけど』

 寂しさからセフレに頼るなんて虚しさが増すが、高校や大学なんて拗ねらせ過ぎて腹を割って話せる友人はいなかった。

 そんな浅い人間関係しか築いていなかったせいか、セフレ以外作ったことがないし、そのセフレでさえも今は栗山しかいない。

「今から来いよ」
『来いって、どこにですか』
「駅前通りの居酒屋」
『駅前通りって言われても困ります。そもそも今日は俺、理人さんのこと誘ったのに返事してくれなかったじゃないですか』

 いつもは素直に「分かりました」と返事をくれる栗山が珍しく怒気のこもった口調だった。

「ごちゃごちゃ、うるせーな。早く来い。馬鹿」

 言い訳をしてくる栗山が鬱陶しくて趣旨だけ伝えて電話を切るとテーブルにスマホを乱暴に置く。
 あの様子だと栗山は来ないかもしれない。

奴には奴の予定があるだろうし。もともと肉体だけの淡泊な関係であるから、相応の同意がなければ来なくて当然だった。けれど櫂自身、誰かに縋りたくてたまらなかった。





感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。