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終わる関係
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仕事が終わりタイムカードを切っては従業員出口から出ると建物の柱に人影を見つけてギョッとする。
暗くてよく分からないが背丈はそれなりにある男に違いない。こんな暗い場所に男が立っているなんて、不気味でしかない。
櫂は何か良からぬ事件に巻き込まれるのではと警戒心を抱きながら不審な人物と距離を取るようにして目を合わせずに横切る。
通り過ぎてホッしたのは束の間、「理人さん」と呼び止められて心臓が凍りついた。
一瞬だけ驚いたものの、声の主に聞き覚えがある。
振り返ってみると、仕事帰りのスーツを着た栗山がそこには立っていた。今日はよく会いたくない奴に出くわす日らしい……。
しつこい奴だから何か仕掛けてくるのではないかと身構えてはいたが……。
ゆっくりと近づいてこようとする栗山に櫂も間を詰められぬように、その分の距離をとる。
数歩歩いて一向に縮まらない距離に気がついたのか、足を踏み出すのを止めた栗山を見て胸を撫で下ろした。
「何でブロックしたんですか」
「何でって……。理由は話しただろ」
「俺、納得してないです。何回も連絡したのに無視された挙句にブロックですか」
眉間に皺を寄せて憤りを露わにしてくる。
「俺たちは終わっただろ。まぁもともと始まってもなかったけど……」
「終わってません。俺は理人さんと出会う前の赤の他人になんか戻りたくありません。理人さん。理人さんは体の関係だけでも俺自身のこともいいなって思ってくれていたんじゃないんですか?」
こんなことを道端で話す内容じゃない。しかし、栗山は櫂しか眼中に無いのか鎮まる気配はなかった。
「思ってないって言ってるだろ」
「そんな訳ないです」
「はぁ?勝手な思い込みも大概にしろよ」
「じゃあなんで、俺を助けたんですか。理人さんは初めて俺が店にきたときに、知らない男に眠剤飲まされそうになったのを助けてくれたじゃないですか」
栗山を助けた日のことは覚えていた。前のセフレに振られた後、珍しく見慣れない若い顔が店に入って行った。店に入り、カウンターの離れた席で様子を伺っていると栗山が相手の男に押し負かされて嫌そうな表情をしていたのが、自分と慎文の姿を見ているみたいで不愉快だった。
唯それだけの話。他意があった訳じゃない……。
なのに、言葉が出てこなかった。僅かにでも好意がなければきっと助けていないような気がしたからだ。
「あの後、和美さんに聞いたんです。まーくんがあんなことするのは珍しいって。理人さんは一見強そうな人に見えるけど、本当は寂しい人ですよね。この前の電話だって単なるセフレに弱っているとき助け求めますか?理人さんは上手く装っているつもりでも俺にはわかります。本心では俺に救って欲しいと思ってるんじゃないんですか」
追いかけても来なかったくせに。下手に出てきたと思ったら今度は強気でくる男。
違うのであればはっきりと言えばいいのに、栗山の言葉は自分の心を見透かしているようで怖くなる。
慎文のことを忘れられないながらも、心の何処かで一途に特定の奴だけ想い続けて、幸せそうな慎文を見て羨ましがっていたのも本心。
深い関係にはなりたくないくせに……。
目の前の男が欲しい……。
再び歩み寄ろうとしてくる栗山。両腕を広げられて、櫂は全身が強ばり、瞼に力を入れては目を瞑った。
この身体に抱きしめられてしまったら自分はもうダメになってしまう。なのに、それを望んでいるかのように足は鉛のように重く動かなかった。
このままこいつに……。
「えっ……」
数秒経っても人が触れる感触がせずに、ゆっくりと瞼を開く。栗山は冷たい目をし、手を広げたまま此方を見ていた。
「俺に抱きしめて欲しいなら、俺が……。栗山徹史が良いって言ってください」
「はっ?」
「じゃなきゃ、抱けません。俺は、理人さんの身体だけじゃなくて心も欲しいんです」
まるで自分が栗山に抱かれることを望んでいたかとのような言い草に羞恥と憤りが織り交ざる。
「ふざけるなっ。切ったのはこっちだ。だからお前にようなんかなっ……」
不意に腕を掴まれ、クイッと栗山の元へと引き寄せられる。至近距離まで顔が近づいてきて不覚にも胸がドクンと波打ってしまった。
「このままだと理人さん、クリスマスに独りですよ?」
「別にお前じゃなくても他を探す」
櫂も栗山の挑発に負けずに睨み返すと、奴はあっさり腕を離してきた。
「二十五日の夜。出会った場所で待ってます。理人さんが俺の事、真剣に考えてくれるって信じてますから」
櫂の耳元でそう言い残してはその場から去っていく。他を探すと宣言したのに約束を取り付けてくる栗山が憎たらしい。
でも、コイツとなら……なんて甘い考えをしてしまう自分に身震いした。
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