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痛みの慰め合い
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溜息に混じって白い息を吐く朝方。薄暗く人通りのない静かな街は信じていたやつに裏切られ、クリスマスを終えた櫂を一層、虚しくさせる。
一晩中考えていたのは栗山のことで、自分が思っている以上に奴を必要としていたことに、今更どうしようもない現状に泣きたくなった。
奴は結局、来なかった。「好きだ」なんだとほざいていたが、あれは嘘だったのだろう。
虚無感を引きずりながら街の駅の方へと歩く。ふとバス停のベンチに人影を見つけた。こんなまだ夜も明けきれてない朝から、ぽつんと頭を項垂れさせて男が座っている。
この世の終わりのように街頭に照らされ、目立つ男。よく目を凝らして見てみると座っている男に見覚えがあった。ここ一週間程、見慣れていた明るめの茶短髪。まさか……と近づいてみると確信した。慎文だ……。
確か昨日は愛しの和幸とデートだったはず。
「お前、なにやってんの」
人が近づいても気配に気づいていないのか、声を掛けてみても反応がない。
「……」
「おい」
身体を大きく揺すると彼は漸く顔を上げたかと思えば、直ぐに俯いてしまった。慎文の表情を見て、櫂は嫌な予感がした。一瞬だけ見せた焦点が合っていなく、色を失くした瞳。慎文のこんな表情は過去にも見たことがあった。和幸にキスを拒絶され、避けられて「寂しい」と訴えてきた慎文のあの頃と同じ瞳をしている。
こいつが同様にして正気を失くすまで落ち込むことといえばひとつしかない。
「まさかお前、カズくんに振られたの?」
一昨日、あんなに嬉しそうにデートをすると話していた慎文がだ。
「最初からカズくんと恋人になんかなれるわけないの分かってたんだ……」
慎文がボソっと耳をすまさないと聞こえないほどの声量で呟く。
その言葉で諭した。やはり、自分が感じた二人の間の違和感は間違いではなかったのだ。結局、一度拒絶した奴が
寝返るなんてことはない。ノンケは一生ノンケのままだ。
でも、居酒屋で見た和幸は櫂から慎文のことを守っていたように見えた。あれは何だったのだろうか。
それに和幸から提案してきたというデート。和幸もまた、慎文のことを思わせぶりの態度で揶揄っていたのだろうか。
「何でだ?」と聞いても、それ以上は話したくないのか慎文は俯いたまま返事がない。たかだか昔、傷を慰め合っただけの関係。慎文と自分は同じ境遇。
けれどこいつは櫂に興味が無くて、頼りにだってされてない。憎みたくても憎めないのは慎文がどうしようもないくらい一途な奴だと知っているからだ。
苦しそうな慎文を見ると自分も心を抉られる。
自分じゃダメだと分かっていても、手を差し伸べてやりたくなってしまう。
だから「じゃあさ、またあの時みたいにお前を慰めてやろうか?」なんて言葉が口をついて出た。
傷つくのは自分だと分かっていても……。
「うん」と頷いた慎文の返事には驚きはしなかった。まともに判断が出来ないほど傷を負っているやつに、こんなことを聞いてしまった自分が意地悪いだけ。
自分が傷ついて誰かの身体を求めたように、慎文も忘れたくなるほど愛している奴に振られて、誰かに縋りたくなる程のしんどさは痛いほど分かる。
けれど、いざ言われると無性に腹の居所が悪くなった。あっさり同意しといていざヤッたら、黒歴史だったなんてまた慎文の中で闇に葬られてしまうんだろうか。
冗談じゃない。
だからって俺は優しくなんかない。
過去の未練に縋ったって未来は変わらない。自分はこいつと交わる未来はないと分かっているから尚更。
櫂は慎文の脛を蹴っては、「先輩、いたい」と涙目になった彼を睨みつけるように見下ろした。
「お前馬鹿じゃねーの。誰がそんな身代わりみたいなことするかよ。お前いちいち、ねちっこかったし、ヤるだけでも重いんだよ。俺の事嫌なくせに何俺に縋ってこようとしてんだよ。振られたくらいで甘えんな。お前もいい加減、執着してないで他のやつ探す努力しろよ」
ああ、そのまま自分にそっくり返したい。自分だって別に目の前の男や栗山になんか執着する必要なんかない。他に探せばいい話。腹が立つ。慎文のことも昨日呼び出しといて来なかった栗山のことも。
けれど、今一番腹が立つのはぬか喜びさせて振っては好きだった人を不幸にした和幸のことだった。
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