それでも好きな人

なめめ

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愛して……




怒りに任せて和幸の会社で待ち伏せをする。別に説教などするつもりは無いが、真意を確かめたかった。

腹が立つけど居酒屋で見たときの和幸の様子から慎文を振るようには見えなかったからだ。

 慎文と和幸、両方に自分はいい印象は受けてないと感じてはいたが、案の定露骨に嫌がられながらも近くの喫茶店へと入る。

 話を聞いて終始苛立ちしかなかった。「男同士だから」といい訳をしては、櫂が慎文を突き放したことを話すと急に感情的に怒り出す。

 デートの日が慎文の誕生日だったことを知らなかったのは呆れ返った。そうやって慎文の気持ちから逃げては中途半端にアイツに優しくするから、アイツは和幸を想うことをやめられずにここまできた。

 もしあの日、和幸が逃げずに慎文のことを振ってやっていたら、慎文は自分のことを見てくれていたかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。

 過去に縋る気もないし、昔のことをとやかく言ったところで現状は変わらない。 

 慎文はこんな男のどこがいいのか。

 悲鳴をあげている心を和幸に悟られたくなくて、櫂は冷めた目で彼を見遣ると自分の珈琲代を置いては早々に喫茶店を出た。

 そのまま真っ直ぐ帰りたくもなくて、少しだけ頭を冷やそうと駅から少し離れた公園のベンチに座っては、深く頭を下ろす。

「優しいんですね」

 頭上から聞き覚えのある声がして顔を上げた。姿を目にした瞬間に塞ぎ込んで逼迫していた心が少しだけ冷静を取り戻していた。

 クリスマスの日から会いたいと願っていた栗山がそこに立っていた。目の前に栗山が現れて嬉しい。 
 会いたかったのに顔を合わせたくなかったという矛盾の原因は数日前に奴が約束を破ったからだ。

「すみません、ストーカーみたいなことして。会社出たら、理人さんと井波さんがいるのを見かけたので後をつけてました」

 約束を破っておいて今更、現れるなんてどういう風の吹き回しだろう。栗山が縋ってきたところで許す気は無い。
 もう誰かに感情を揺さぶられるのは沢山だった。

 栗山が何を言ってきても動揺しないつもりで、ポケットから煙草を出しては火をつける。

「ああ……喫茶店まで付いてきてたのか?」

 煙草を持つ手が、煙を吐く息が震える。

「理人さんの事情は分からないです。でも、恋敵に助言しているように見えたから」
「誰があんな奴に助言なんかするか。叶わない恋に縋っている俺を笑いに来たのかよ」

 助言なんかじゃない。唯、腹が立って何処にもやり場がなくなって、和幸にあたり散らかすように皮肉を交わらせて吐いていただけ。栗山は哀れな三十路間近の男が、ざまあなんて思っているのだろう。

 クリスマス日だって真面目に栗山に期待して行った俺が馬鹿だった。これ以上目の前の男と話すことも無い。
気持ちを落ち着かせるために吸い始めた煙草も奴の前で吸ったところで落ち着くわけなんかなかった。
 携帯灰皿に煙草を押し付けてコートの胸ポケットにしまうと櫂はベンチから立ち上がる。

「待って下さい。そういうことを話に来たんじゃなくて……。俺、理人さんに謝りたくてきたんです」
 
 栗山を避けるように通り過ぎようとした時、手首を掴まれ引き止められる。ここから先の栗山の言葉を聞きたくない……。
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