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愛して……
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櫂は反射的に手を振りほどくと、栗山と距離を置いた。動揺を相手に見せてはいけないと自分に言い聞かせては、次の栗山の行動を待つ。
すると栗山は、櫂に向き合うなり深々と頭を下げてきた。
「二十五日の日はすみませんでした。言い訳に聞こえるかもしれないんですけど、あの日仕事でトラブってしまって店に到着するのが遅れてしまったんです……。ちゃんと理人さんの為にプレゼントも用意していて……」
栗山は手提げ鞄の中に手を入れて何かをごそごそと探る動作を始めると、中から長方形の赤と緑のクリスマスカラーに身を包んだ箱を出してきた。一歩だけ櫂に近づくとその箱を差し出される。
櫂は目の前に差し出された箱を受け取らずに、黙って見つめていた。
形あるものを押し付けないで欲しい。櫂自身の中の栗山の株が上がっていく度に胸が苦しくなる。
これを受け取ってしまえば自分は栗山を求めていることを認めてしまうことになる。
そんな恋愛弱者になるようなことはしたくなかった。あの日、彼が来ることを微かに期待していたことも、来なくてガッカリしたことも絶対に口にしたくない。
「別に、最初からあの日は行ってなかったし。モノを受け取る気なんてない」
冷たく突っぱねたが、栗山はガッカリした様子を見せずに真っすぐに見つめてくる。
「嘘です。和美さんに聞いたら、理人さんが少し前に来ていたと言っていました。それ聞いたとき、意地でも仕事終えてくれば良かったって後悔しました。自分で誘っておきながら遅れるなんて……。謝ります」
意図も簡単に嘘を見抜かれてしまい、櫂は恥ずかしさで俯くことしかできなかった。
「理人さん、受け取って貰えますか?」
念を押しているように、箱を差し出してくるのを止めない。
優しく降り注ぐ言葉。
その言葉に縋りたくなる·····
栗山に優しく触れてもらいたい。
彼の優しい声に負けてはプレゼントに右手を伸ばしかけようとした時、ふと我に返っては手を引っ込めると小包を手の甲で弾いた。
「いらない、お前となんか恋人になるつもりも無いし元の関係に戻るつもりもないっ」
薄らと白く雪の層を作っている地面に小包が落ちた。少しやり過ぎただろうかと気負いしたが、栗山はゆっくり包みを拾うと雪を払い溜息を吐く。
そうだ、そうやって呆れればいい……。
自分は噓つきのどうしようもない奴だと離れてくれたほうが楽だ……。
栗山のことを本気で好きになってしまう前に早くこの場から去ってくれないだろうか……。
「理人さん。いい加減素直になってくれませんか」
「はぁ⁉」
諦めの溜息かと思えば、思いもよらない栗山の発言に大声が出る。
「確信はないですけど。理人さんは俺のこと、好きだと思います。だから……」
「好きじゃないって言っているだろ。栗山のことはセフレ以上に思ったことな……」
「じゃあ俺の事、少しずつでいいので好きになるところから始めてみませんか?唯の欲を満たす関係じゃなくて、ひとりの人として交際してくれませんか?」
櫂の言葉を遮り、栗山は必死の形相で訴えかけてくる。どれだけ遠ざけて逃げ回っても、自分を追いかけてくる栗山の本気。
「なんで……。なんでお前はそんなに必死なんだよ……」
今まで必死になって自分を追って来るものはいなかった。
端から割り切った関係でいたこともあるが、垣根を越えてまで自分のことがいいと言って来るものは居なかった。
自分は唯の繋ぎにすぎない。自分もそれで納得し、ひとりの奴に愛されることを諦めていた。
「貴方のことが好きだからです。俺はあなたが泣いていたらすぐに飛んでいきます。貴方が寂しいならずっと傍に居てあげたい。それくらい俺は理人さんに陶酔してるんですよ。セフレだなんて悲しいこと言わないで下さい。
俺は貴方を真剣に愛したい……だから俺を恋人にしてください」
冗談めかしたように笑いかけてくる栗山が憎らしいけどかわいくて、こんなに懸命に素直に自分のことを思ってくれているやつを信じたいと思えてきてしまう。
「俺は、心狭いからお前に裏切られたと思ったらすぐ捨てるぞ」
けれど、自分は今更素直になんかなれない。本当の愛なんて知らずに生きて来たから、栗山の手を素直に取る事なんか容易くできない。
「俺は裏切りません。理人さんだけです」
それでも動揺せずに自分を見据えたまま、櫂に誓うようにして返してくる栗山に櫂自身が動揺していた。
「お前に対して酷いこと言って傷つけるかもしれないんだぞ」
「構わないです。理人さんに傷つけられるなら」
「慎文のことだって、忘れきれてないんだぞ」
「まるごと受け止めます。忘れるくらい俺の方がいいって言わせますんで」
離れて欲しいからわざと自分の株を下げる発言をするが、自分がどんなに否定しても栗山の愛の言葉を聞いて嬉しく思ってしまうのを止められなかった。
「お前はまだ若いから俺なんか……」
「若いとか若くないとか関係ありません。俺は理人さんが好きなんです」
どんなに性格が悪いと言われてもいい、栗山だけは、もっと自分に夢中になって一生俺だけを見ていて欲しい。
俺と言う人間を好きでいて欲しい……。
「頼むから俺を捨てないで……。誰かの身代わりなんて嫌だ……。お前がいい、お前じゃなきゃ嫌だ……」
膝から笑うように崩れ落ちては、その場に座り込んだ。冷たい地面を伝ってじわじわと脛の部分が濡れていく。
気づいたら栗山の居心地の良さにハマっていた。
誰かに期待などしていなかったのに……。
栗山となら……なんて思うようになっていた。
「理人さんこそ、俺のこと信じて、捨てないでください。辛かったこと忘れるくらいの幸せ、俺が理人さんに作ってあげますから。約束します」
栗山は自分と同じ目線にしゃがむと、櫂の頬をその大きな手で覆ってきた。
手袋などしていないはずなのに自分の体温よりもずっと暖かい手……。
厚い男の腕に抱きしめられては漠然としていた。
自分は栗山との未来を信じてみたい。
一時の寂しさだけ埋めるような関係じゃなくて一生を添い遂げるようなそんな関係を自分は栗山と歩んでいいのだろうか。
誰かとの幸せを自分は素直に受け入れることができるだろうか……。
不安と希望が入り交じる中、櫂はそっと男の背中に手を回した。
END
すると栗山は、櫂に向き合うなり深々と頭を下げてきた。
「二十五日の日はすみませんでした。言い訳に聞こえるかもしれないんですけど、あの日仕事でトラブってしまって店に到着するのが遅れてしまったんです……。ちゃんと理人さんの為にプレゼントも用意していて……」
栗山は手提げ鞄の中に手を入れて何かをごそごそと探る動作を始めると、中から長方形の赤と緑のクリスマスカラーに身を包んだ箱を出してきた。一歩だけ櫂に近づくとその箱を差し出される。
櫂は目の前に差し出された箱を受け取らずに、黙って見つめていた。
形あるものを押し付けないで欲しい。櫂自身の中の栗山の株が上がっていく度に胸が苦しくなる。
これを受け取ってしまえば自分は栗山を求めていることを認めてしまうことになる。
そんな恋愛弱者になるようなことはしたくなかった。あの日、彼が来ることを微かに期待していたことも、来なくてガッカリしたことも絶対に口にしたくない。
「別に、最初からあの日は行ってなかったし。モノを受け取る気なんてない」
冷たく突っぱねたが、栗山はガッカリした様子を見せずに真っすぐに見つめてくる。
「嘘です。和美さんに聞いたら、理人さんが少し前に来ていたと言っていました。それ聞いたとき、意地でも仕事終えてくれば良かったって後悔しました。自分で誘っておきながら遅れるなんて……。謝ります」
意図も簡単に嘘を見抜かれてしまい、櫂は恥ずかしさで俯くことしかできなかった。
「理人さん、受け取って貰えますか?」
念を押しているように、箱を差し出してくるのを止めない。
優しく降り注ぐ言葉。
その言葉に縋りたくなる·····
栗山に優しく触れてもらいたい。
彼の優しい声に負けてはプレゼントに右手を伸ばしかけようとした時、ふと我に返っては手を引っ込めると小包を手の甲で弾いた。
「いらない、お前となんか恋人になるつもりも無いし元の関係に戻るつもりもないっ」
薄らと白く雪の層を作っている地面に小包が落ちた。少しやり過ぎただろうかと気負いしたが、栗山はゆっくり包みを拾うと雪を払い溜息を吐く。
そうだ、そうやって呆れればいい……。
自分は噓つきのどうしようもない奴だと離れてくれたほうが楽だ……。
栗山のことを本気で好きになってしまう前に早くこの場から去ってくれないだろうか……。
「理人さん。いい加減素直になってくれませんか」
「はぁ⁉」
諦めの溜息かと思えば、思いもよらない栗山の発言に大声が出る。
「確信はないですけど。理人さんは俺のこと、好きだと思います。だから……」
「好きじゃないって言っているだろ。栗山のことはセフレ以上に思ったことな……」
「じゃあ俺の事、少しずつでいいので好きになるところから始めてみませんか?唯の欲を満たす関係じゃなくて、ひとりの人として交際してくれませんか?」
櫂の言葉を遮り、栗山は必死の形相で訴えかけてくる。どれだけ遠ざけて逃げ回っても、自分を追いかけてくる栗山の本気。
「なんで……。なんでお前はそんなに必死なんだよ……」
今まで必死になって自分を追って来るものはいなかった。
端から割り切った関係でいたこともあるが、垣根を越えてまで自分のことがいいと言って来るものは居なかった。
自分は唯の繋ぎにすぎない。自分もそれで納得し、ひとりの奴に愛されることを諦めていた。
「貴方のことが好きだからです。俺はあなたが泣いていたらすぐに飛んでいきます。貴方が寂しいならずっと傍に居てあげたい。それくらい俺は理人さんに陶酔してるんですよ。セフレだなんて悲しいこと言わないで下さい。
俺は貴方を真剣に愛したい……だから俺を恋人にしてください」
冗談めかしたように笑いかけてくる栗山が憎らしいけどかわいくて、こんなに懸命に素直に自分のことを思ってくれているやつを信じたいと思えてきてしまう。
「俺は、心狭いからお前に裏切られたと思ったらすぐ捨てるぞ」
けれど、自分は今更素直になんかなれない。本当の愛なんて知らずに生きて来たから、栗山の手を素直に取る事なんか容易くできない。
「俺は裏切りません。理人さんだけです」
それでも動揺せずに自分を見据えたまま、櫂に誓うようにして返してくる栗山に櫂自身が動揺していた。
「お前に対して酷いこと言って傷つけるかもしれないんだぞ」
「構わないです。理人さんに傷つけられるなら」
「慎文のことだって、忘れきれてないんだぞ」
「まるごと受け止めます。忘れるくらい俺の方がいいって言わせますんで」
離れて欲しいからわざと自分の株を下げる発言をするが、自分がどんなに否定しても栗山の愛の言葉を聞いて嬉しく思ってしまうのを止められなかった。
「お前はまだ若いから俺なんか……」
「若いとか若くないとか関係ありません。俺は理人さんが好きなんです」
どんなに性格が悪いと言われてもいい、栗山だけは、もっと自分に夢中になって一生俺だけを見ていて欲しい。
俺と言う人間を好きでいて欲しい……。
「頼むから俺を捨てないで……。誰かの身代わりなんて嫌だ……。お前がいい、お前じゃなきゃ嫌だ……」
膝から笑うように崩れ落ちては、その場に座り込んだ。冷たい地面を伝ってじわじわと脛の部分が濡れていく。
気づいたら栗山の居心地の良さにハマっていた。
誰かに期待などしていなかったのに……。
栗山となら……なんて思うようになっていた。
「理人さんこそ、俺のこと信じて、捨てないでください。辛かったこと忘れるくらいの幸せ、俺が理人さんに作ってあげますから。約束します」
栗山は自分と同じ目線にしゃがむと、櫂の頬をその大きな手で覆ってきた。
手袋などしていないはずなのに自分の体温よりもずっと暖かい手……。
厚い男の腕に抱きしめられては漠然としていた。
自分は栗山との未来を信じてみたい。
一時の寂しさだけ埋めるような関係じゃなくて一生を添い遂げるようなそんな関係を自分は栗山と歩んでいいのだろうか。
誰かとの幸せを自分は素直に受け入れることができるだろうか……。
不安と希望が入り交じる中、櫂はそっと男の背中に手を回した。
END
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