憧れはすぐ側に

なめめ

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あの人のこと

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このままこの話を続けてしまうと大樹先輩の前で浮かれて表情に出てしまうような気がした。律仁さんには意図も簡単に見透かされてしまったから尚更警戒する。平穏な空気を自分の表情ひとつで相手を不快にさせるようなことはしたくない。

「あの·····律仁さんって先輩と同級生なんですか?」

話題を変えるために頭の片隅程度に置かれていた律仁さんと大樹先輩の関係への疑問を投げかけてみた。
大樹先輩は少し考えながらも「まーそうだね。渉太なら·····」と呟いては話を続けた。
この間も感じたが二人の関係の話になると何処か歯切れが悪いのが少し突っかかるところだが、
あまり気にせずに話を聞くことにした。

「年齢的には俺の3個上。でも、律仁は通教生だから滅多に学校に来ることは無いよ。仕事しながらだから」

大樹先輩の3個上ってことは25歳·····?
大樹先輩より上·····?
ただの学生ではない雰囲気はホテルのロビーにいた時に感じてはいた。忙しなくしていた姿からデザイン系のフリーランスな仕事かなんかをしているのだろうかと朧気に思っていた。
謎が多い男に気になりはしたが、そこまで踏み入った話を大樹先輩に聴くのも悪い気がして喉元まできては飲み込んだ。

「渉太が良かったらまた、会ったら仲良くしてやってよ。意外と渉太と気が合いそうに話してただろ?」
「は、はあ·····」

大樹先輩に肩を叩かれる。
そんなに第三者から見て、律仁さんと自分は気が合ってそうに見えただろうか。自分としては性格が真逆に近いから到底合いそうにない人物だった。あの時だって、会話をしていると言うよりは律仁さんの一方的に話しかけてきているに過ぎなかった。その人物に気に入られてるのも不思議な話だが·····。

大樹先輩は腕時計を見やると「バイトだから、行くな」と手を振ってきては、「サークル。渉太、たまには顔を出して来いよ?」と付け足され、渉太に背を向けて来た道を歩き出した。

大学の先輩に変わりはなかったが、通教生なら尚更、あの人には会うこともない。渉太は大樹先輩の背中を見送りながらどこか腑に落ちないものを感じていた。


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