レンズ越しの彼は……

なめめ

文字の大きさ
8 / 33
気まぐれ不機嫌王子

気まぐれ不機嫌王子⑥

しおりを挟む
僅かな寂しさと遼人との別れの後味の悪さを引きずりながら帰路につく。
一軒家やアパートが建ち並ぶ住宅街。そこの二階建ての緑の屋根が特徴的な家が旭の住んでいる佐野夫婦の家だ。

 旭は自宅の合鍵で玄関先へと入ると「ただいまー」と奥のリビングに向かって声を掛ける。
しばらくして、花柄のエプロンを身に付けたまま現れたのが旭の義母である佐野文子さのふみこさんだ。

顔の輪郭が少し丸み帯びていて、ショートカットの優しい笑顔だけではなく人柄も温厚な彼女。
彼女の笑顔は旭が此処に居ることを許されている証明のようで、帰ってくるたびに安心できた。

「旭、おかえりなさい」
「ただいま、文子さん」
「今日は部活お休みだったのね」
「うん、今日は顧問の先生がお休みだったから……。ちゃんと連絡入れてなくてごめんなさい」
「いいのよ、気にしないで。旭が無事に帰ってきたらそれでいいか
ら。晩御飯、できてるから着替えておいで」

 文子さんに言われて、玄関すぐの二階へ繋がる階段に足を踏み出
したところで、旭は急に思い立ち、彼女を呼び止める。

「あ、そうだ。文子さん、今年も施設で縁日やるんだ。僕も行こうと
思うんだけど……」
「旭の育った場所だものね、もちろん。いってらっしゃい。遼人くん
も星杏ちゃんも喜ぶわよ」
「うん。それで、星杏ちゃんがその日、浴衣着たいって言ってたんだ
けど……。文子さんに着付けとか頼みたいなって思って……。浴衣
は園で用意してくれると思うんだけど……」

 文子さんなら『ダメ』なんてことは言わないと分かっていても、遠
慮による後ろめたさから伏し目がちになる。

「もちろん、いいわよ。そうよ、確か箪笥に私が着てた朝顔の浴衣があったはず。探しておくわね。当日、星杏ちゃん連れてきていらっしゃい」

「ありがとう。星杏ちゃん、喜ぶよ」

 着付けどころか自分の浴衣を探してくれる文子さんに驚きながら
も、旭も自分のことのように嬉しくなった。園が用意してくれる浴衣は、きっと誰かからの貰い物だ。同じおさがりだったとしても、那月兄妹共々親交の深い、文子さんが着ていた浴衣を着る方が何倍
も星杏ちゃんは喜んでくれるような気がした。

「遼人くんは?浴衣いいの?どうせなら旭も着て三人で御祭り行っ
たらいいじゃない」
「僕はいいよ……。遼は……どうだろう。浴衣は乗り気じゃないみ
たいだから……」
「そう?旭、遠慮しなくていいのよ?」
「うん、ありがとう。僕は大丈夫だから星杏ちゃんのだけで充分」

 心配そうに眉を下げて問うてくる文子さんにそう返事をすると、旭は静かに二階へと上った。三人で浴衣を着て園の夏祭りを歩く姿を想像して、少しだけアリかもと思ったが先程の遼人のやり取りを
思い出しては気持ちが萎んだ。

『あさひの部屋』と札のかかった扉を開けて部屋の中に入るなり深く息を吐く。
最近、遼人と上手く関係を築けていない気がする。

 元々遼人の性格は気分屋で何考えているか長年一緒にいる旭です
ら分からなかったが、高校に上がるまではもっと楽しく過ごせてい
た気がする。

 少なくとも今みたいに常に不機嫌な表情ではなく、笑った顔の方が多かった。

今まで通り、接しているつもりでも、自分の言動で遼人に不快な思いをさせている時が多くなった気がする。
  
星杏ちゃんは思春期だからだと言っていたけど、本当にそうなのだろうか……。

やはり遼とクラスが離れて寂しくさせているからか……。

 それとも遼は僕のことを嫌いになってしまったんだろうか……。

 けれど、今朝は遼から連絡してきたしその線はない気がするけど……。

 家に帰ればそんな答えの出ないことを考えることが増えた。
旭は机に通学鞄を置くと、鞄の内ポケットから和柄の小さい手のひらサイズの巾着を取り出す。紐を解いて中のものを摘まみ出すと澄んだ水色のビー玉を取り出して、部屋の明かりに照らす。

 旭がまだ園で暮らしていた頃に遼人から貰ったもの。御守りのように大事に仕舞って持ち歩いていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】恋い慕うは、指先から〜ビジネス仲良しの義弟に振り回されています〜

紬木莉音
BL
〈策士なギャップ王子×天然たらし優等生〉 学園の名物コンビ『日南兄弟』は、実はビジネス仲良し関係。どんなに冷たくされても初めてできた弟が可愛くて仕方がない兄・沙也は、堪え切れない弟への愛をSNSに吐き出す日々を送っていた。 ある日、沙也のアカウントに一通のリプライが届く。送り主である謎のアカウントは、なぜか現実の沙也を知っているようで──? 隠れ執着攻め×鈍感受けのもだキュンストーリー♡ いつもいいねやお気に入り等ありがとうございます!

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

処理中です...