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第26話 どうやら、私の家にボスがいるみたいです

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 ぜぇ……ぜぇ……と珍しく息が途切れ途切れになっているミゲール。

「流石ですね、先生。まさか、動く鎧リビングアーマーの軍勢を1人で壊滅させるとは思ってもませんでした」

「さ、さすが300体を越えた所で数えるのを止めたが、何体倒せた」

「約3500体でしたね」

「多すぎだろ。流石の私も10メートル以上の動く鎧が出現してきたのは無理かと思ったぜ」

「同時に5体を相手にするのは大変そうでした」

「……そう思うなら手伝えよ。師匠の後ろに隠れやがって」

「え? でも、何が起きるかわからないから、魔法は使うなって……」

「言ってねぇよ。聖の紋章は秘密にしておけって言ったんだ」

「あれ? そうでしたか?」と舌を出して誤魔化そうとするアリスだった。

「しかし……この場所は、どうしてここまで呪われた場所みたいになったのでしょう?」

「なぜって、そりゃ……今まで説明してきただろ? お前のご先祖さまが地下で秘密裏に軍勢を使って企んでいた過去。 貴族特有の怨み妬みが魔力に変換されて、ここに集まってきた。それをお前が言うところの初代さまが聖の紋章で制御していた」

「それはわかるのですが……3500体も魔物が出現しますか? 巨人みたいな個体も複数体出てくるほど……ですか? それって、呪われた迷宮とかのレベルなのでは?」

「うるせぇ! どんなに御託を言ったって事実、そうなってるから仕方ねぇだろ!」

「先生、それ宮廷魔法使いとして、魔法を研究している者の言葉とは思えないのですが……」

「脳にエネルギーが回らねぇくらいの運動したんだ。暫く頭を使わせるな! 糖分をくれ、糖分を!」

「軍勢との戦争レベルの戦いを運動で済ませるなんて、相変わらず規模がズレてますね。はい、飴です。飲み物にも砂糖入れます?」

「おう、頼むぜ」と飴と水筒を受け取ったミゲール。

 飴を口に含んだ瞬間、ガリガリとかみ砕く。 その直後、大量の砂糖を入れたお茶が入った水筒を口に付けると、一気に飲み干した。

「おし! 少し回復!」

 気づけば、彼女の体から滝のように流れていた汗は止まり、戦いで負っていたはずの流血は自然と止血されていた。

「糖分で全回復するなんて、すごい便利な体ですね」

「伊達や酔狂で『世界最強の魔法使い』を名乗らせて貰ってるわけじゃねぇからな!」

 それから、ミゲールは深呼吸をする。 しかし、それは人間が行う深呼吸とは別物だった。

 乱れた呼吸を整えるよう、大量な新鮮な空気を取り込む。

 重度の疲労で鈍った脳の処理速度が回復を感じたた彼女は、

 白い息を吐いた。 なぜ、息が白いのか? 

 確かに地下は肌寒い。しかし、冬の温度ではない。

 単純に、彼女の体内に宿った熱を排出した水蒸気であった。

「よし、完全回復だぜ」

「ミゲール先生……本当に人間なんですか?」

 そんなやり取りを行いながら――――

「う~ん」とミゲールは考え始めた。

「どうしたんですか、先生?」

「知力が回復した今、1つだけ疑問が浮かんだ」

「なんです? その疑問って?」

「死後の身でありながら、聖属性の魔法を身に付けて守護神とまでなったお前のご先祖さま……本当に、この程度の悪鬼羅刹を浄化しきれなかったのか?」

「え?」

「確かに軍勢とも言える悪霊集団には、さすがの私も疲労の色を隠せないが……」

「今は、隠すところか完全回復してるように見えますが?」

「……話を遮るな。照れちまうだろ? ともかく、何百年も聖属性をばら撒いていたら、ここまで劣悪な環境にはならないだろ?」

「それは確かに、そうですね」とアリスも頷いた。

 そもそも、跳梁跋扈《ちょうりょうがばっこ》する魑魅魍魎《ちみもうりょう》たち。

 それを殴り合いで退治してきたミゲールが異常なだけだ。

「聖属性なら簡単そうですね。浄化するだけなら……」

「そうだ。現に私っていう豪傑が1日で蹂躙したレベルだぞ?」

「それって、つまりどういうことでしょうか?」

「つまり――――厄介な主《ボス》がいるってことだぜ」

「主……まるでダンジョンですね。私の家、物騒すぎじゃありませんか?」

「貴族様の地下室なんて、そんなもんだ。今度、没貴族の屋敷が解体されるの見学にいこうぜ!」

「そんな、新しい料理屋さんに行こうみたいな誘い方しないでください。でも……」

 アリスは不安そうに言う。

「聖属性魔法を持つ初代さまが何百年も浄化できない相手。どんな主なのでしょうか」

「そいつは考える必要なさそうだぜ? これだけ住み家を荒らされたわけだ……どうやら、怒り心頭って感じだぜ」

 そう言うとミゲールは地面を指した。

「なんの事でしょうか?」とアリスには意味がわからなかったが、暫くすると――――

「地面が揺れてます。これって!」

「あぁ主さまの登場だ。 果して、どんな怪物がお前の家を牛耳ってるのだろうな」
 
「嫌な言い方を――――」

 しないでください」と最後までアリスは口にできなかった。

 地面が揺れが激しくなり、立っていれなくなったからだ。

「どうやら……敵はダンジョン最深部で、敵を構えて待つタイプの主じゃないみたいだな。意識低いじゃねぇの?」

 そのミゲールの挑発を受けて出現を急いだわけじゃないだろうが……

 ソイツは出現した。 
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