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意外です! 狂剣の剣技!
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本来、魔法使いという者は後衛職。 仲間たちに守られ、遠距離から強力な攻撃を放つのが基本とされている。
しかし、ミゲール・コットは――――
『世界最強の魔法使い』
自ら前衛として、最前線に飛び込んで超火力の魔法を叩き込む。
だから、ミゲールは既にソレを開始していた。
腕に光る紋章は『獣』 元より強靭で規格外の肉体を、さらに強固な怪物へ変える変身魔法。
この日、彼女が選択した魔物はミノタウロス。
雄々しいツノが頭部から生え、強靭に変化した肉体はシンプルに、そして文字通りの腕力を手にする。
しかし――――
「遅い――――いや、遅すぎると言える」
狂剣のサンピエールは十分に離れていた間合いを瞬時に踏破してみせた。
あり得ないことではない。
たとえ童であっても、健脚ならば5メートルを駆け抜けるのに1秒かからない。
無論、それは全力疾走のトップスピードであればの話。 通常では不可能。
しかし、それを限りなく再現するのが武術の体術である。
「なっ!」と驚くミゲールに対して、
「今から反応しても、もう遅い」と無慈悲にサンピエールは剣を振るう。
だが、その手ごたえは異常だった。
「むっ……剣が弾かれる。何を仕込んでいる?」
彼の剣は、胴の直前で止まった。 それは防御魔法。しかも、ミゲールの魔力によるものではない。
「――――っ。弟子に防御させているのか?」
「1対1って決めてなかったよな? いまさら、卑怯なんて――――」
「馬鹿め! 魔法如き、斬れないと思ったか!」
アリスの魔法によって止めらていたはずのサンピエールの剣。 それが徐々にミゲールに向かい、動き始める。
その感覚、アリスは知っている。 かつてのミゲールの弟子になる時の試験で感じたソレ……
ミゲールの拳によって、防御魔法を消し飛ばれた記憶が蘇り、それが再現された。
「ま、魔法切断か!」
「その通り――――ここで死ぬがいい。ミゲール・コット!」
死を直前とした集中力は、ミゲールの感覚を鋭くさせる。
胴体…… そこの剣が触れる感覚。
皮膚が切り裂かれ―――― 血肉が切断されていく感覚。
そして、人体の生存機能として重要な箇所に届きかけた――――その次の瞬間。
勝利を確信していた狂剣のサンピエールの顔面に向かって、急加速したミゲールの拳が叩き込まれた。
「――――え?」
「――――な、なに?」
戦いを見ていた全員、何が起きたか理解できなかった。
もっとも、この中でまるで理解ができなかった人間は狂剣のサンピエールだっただろう。
勝利確信から、虚を突かれた打撃。 意識の外――――拳を認識できなかった。
それは意識への不意打ちである。 無謀に打撃を受けた人間は、いとも簡単に意識の手綱を手放す。
「ふっ……」とため息のように見えるミゲールの残心。
「紙一重だったぜ。変身魔法で肉体を堅くしておかないと、体が切断させられる所だったぜ」
彼女が見下ろすとサンピエールは倒れ込んでいる。
その様子、意識は散漫になって、立ち上がれなくなっている。
「さて、これは私の勝ちでいいのだよな? それじゃ、安全のために――――」
ミゲールはサンピエールが手放している剣、長巻を取り上げると――――地面に転がして、踵で――――踏み折る。
明らかな値打ち物。 金属音と同時に、真っ二つに破損させられた。
「私を二つに切断するつもりだったんだろ? それじゃ、お前の相棒を真っ二つにされても文句はないよな?」
「……くっ、負けたのか? この俺が?」
意識を取り戻したらしい。 狂剣のサンピエールは立ち上がろうとして、うまくいかないみたいだ。
「どう見ても、てめぇの負けだ。これで私らは無罪放免でいいんだよね?」
「――――」と無言のサンピエール。
「おい!」
「よく考えてみたが――――勝ち負けを決めるのはミゲール。お前じゃない! 俺だ!」
「――――ッ! まだやるってのかい? てめぇの武器は破壊させて貰ったぞ。流石に素手じゃ勝てねぇだろ?」
「いいや、まだ剣はあるさ!」を狂剣のサンピエールは、ふところから何かと取り出す。
筒状の何か。 先端に伸びている紐。
サンピエールは、簡易的な魔法で種火を生み出し、紐を燃やす。
その正体にミゲールは気づいた。
「おま――――それ、爆弾だろ!」
「いや、剣だ。 剣がなければ剣は振れない――――剣とは、そんな不自由ではない。我が手の内にあるもの――――それ全て剣なり!」
「そんな禅門みたいなことで、爆弾を武器にするのを正当化するんじゃねぇ! 普通に卑怯だろ!」
「黙れ! 剣士が剣以外を使ってはならないと決まりはない!」
狂剣のサンピエールは、剣だと言い切る爆弾を投げると――――
「受けるがいい! 私の斬撃を!」
しかし、ミゲール・コットは――――
『世界最強の魔法使い』
自ら前衛として、最前線に飛び込んで超火力の魔法を叩き込む。
だから、ミゲールは既にソレを開始していた。
腕に光る紋章は『獣』 元より強靭で規格外の肉体を、さらに強固な怪物へ変える変身魔法。
この日、彼女が選択した魔物はミノタウロス。
雄々しいツノが頭部から生え、強靭に変化した肉体はシンプルに、そして文字通りの腕力を手にする。
しかし――――
「遅い――――いや、遅すぎると言える」
狂剣のサンピエールは十分に離れていた間合いを瞬時に踏破してみせた。
あり得ないことではない。
たとえ童であっても、健脚ならば5メートルを駆け抜けるのに1秒かからない。
無論、それは全力疾走のトップスピードであればの話。 通常では不可能。
しかし、それを限りなく再現するのが武術の体術である。
「なっ!」と驚くミゲールに対して、
「今から反応しても、もう遅い」と無慈悲にサンピエールは剣を振るう。
だが、その手ごたえは異常だった。
「むっ……剣が弾かれる。何を仕込んでいる?」
彼の剣は、胴の直前で止まった。 それは防御魔法。しかも、ミゲールの魔力によるものではない。
「――――っ。弟子に防御させているのか?」
「1対1って決めてなかったよな? いまさら、卑怯なんて――――」
「馬鹿め! 魔法如き、斬れないと思ったか!」
アリスの魔法によって止めらていたはずのサンピエールの剣。 それが徐々にミゲールに向かい、動き始める。
その感覚、アリスは知っている。 かつてのミゲールの弟子になる時の試験で感じたソレ……
ミゲールの拳によって、防御魔法を消し飛ばれた記憶が蘇り、それが再現された。
「ま、魔法切断か!」
「その通り――――ここで死ぬがいい。ミゲール・コット!」
死を直前とした集中力は、ミゲールの感覚を鋭くさせる。
胴体…… そこの剣が触れる感覚。
皮膚が切り裂かれ―――― 血肉が切断されていく感覚。
そして、人体の生存機能として重要な箇所に届きかけた――――その次の瞬間。
勝利を確信していた狂剣のサンピエールの顔面に向かって、急加速したミゲールの拳が叩き込まれた。
「――――え?」
「――――な、なに?」
戦いを見ていた全員、何が起きたか理解できなかった。
もっとも、この中でまるで理解ができなかった人間は狂剣のサンピエールだっただろう。
勝利確信から、虚を突かれた打撃。 意識の外――――拳を認識できなかった。
それは意識への不意打ちである。 無謀に打撃を受けた人間は、いとも簡単に意識の手綱を手放す。
「ふっ……」とため息のように見えるミゲールの残心。
「紙一重だったぜ。変身魔法で肉体を堅くしておかないと、体が切断させられる所だったぜ」
彼女が見下ろすとサンピエールは倒れ込んでいる。
その様子、意識は散漫になって、立ち上がれなくなっている。
「さて、これは私の勝ちでいいのだよな? それじゃ、安全のために――――」
ミゲールはサンピエールが手放している剣、長巻を取り上げると――――地面に転がして、踵で――――踏み折る。
明らかな値打ち物。 金属音と同時に、真っ二つに破損させられた。
「私を二つに切断するつもりだったんだろ? それじゃ、お前の相棒を真っ二つにされても文句はないよな?」
「……くっ、負けたのか? この俺が?」
意識を取り戻したらしい。 狂剣のサンピエールは立ち上がろうとして、うまくいかないみたいだ。
「どう見ても、てめぇの負けだ。これで私らは無罪放免でいいんだよね?」
「――――」と無言のサンピエール。
「おい!」
「よく考えてみたが――――勝ち負けを決めるのはミゲール。お前じゃない! 俺だ!」
「――――ッ! まだやるってのかい? てめぇの武器は破壊させて貰ったぞ。流石に素手じゃ勝てねぇだろ?」
「いいや、まだ剣はあるさ!」を狂剣のサンピエールは、ふところから何かと取り出す。
筒状の何か。 先端に伸びている紐。
サンピエールは、簡易的な魔法で種火を生み出し、紐を燃やす。
その正体にミゲールは気づいた。
「おま――――それ、爆弾だろ!」
「いや、剣だ。 剣がなければ剣は振れない――――剣とは、そんな不自由ではない。我が手の内にあるもの――――それ全て剣なり!」
「そんな禅門みたいなことで、爆弾を武器にするのを正当化するんじゃねぇ! 普通に卑怯だろ!」
「黙れ! 剣士が剣以外を使ってはならないと決まりはない!」
狂剣のサンピエールは、剣だと言い切る爆弾を投げると――――
「受けるがいい! 私の斬撃を!」
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