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第35話 有村家当主 有村正宗(兄)
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目を覚ますと地下牢。目前に現れた男に
「兄上……」
景虎はそう呼んだ。
なるほど、両者を並べてみたらよく似ている。確かに兄弟なのだろう。
牢の前に立って男は、有村景虎に数年ほどの年齢を重ねた容姿。
まだ、20代ほどだろう。ただ髪の色が白く染まっている。
有村景虎の兄、つまり有村家の長男――――
名前は有村正宗《ありむらまさむね》。
「兄上が、ここにいるという事は――――通りで懐かしさと感じるはずでござった。ここは、拙者の家にある地下牢でござったか。しかし、なぜ拙者がここに? 父上の判断でござるか?」
「いや、俺の判断だ。父上は引退した。今は俺が家を継いで当主になっている」
「なるほど、合点がいった。父上ならば、拙者を地下に閉じ込める程度で許さなかったでござるな」
「……まだやっているのか、景虎?」
「? 何の事でござる?」
「その話し方だ。 跡継ぎになれずとも、それでも侍らしくあろうとする喋り方だ」
「……拙者は、いや、俺は――――」
「頭を冷やすには良い場所だろう。暫く、ここで身を隠せ」
「――――兄上は俺をどうするつもりですか? 『尾張将軍』からも俺を匿うつもりで?」
「我が家に、幕府から何も連絡はない。ならば自由にさせてもらう」
正宗は、小刀を取り出した。 思わず構える景虎だったが――――
「これを使え。最近、この地下にも小型の魔物がでるようになった。ダンジョン化が進んでいるのかもしれない」
「ダンジョン化が? 確かに、幼少期の記憶よりも奥行が広がっている。ひょっとして、ここがダンジョンの入り口になっている?」
景虎は地下牢の奥を見る。暗くてわからなかったが、確かに通路らしきものがぼんやりと見える気がする。
「さて、俺は入った事がないのでな。生き延びてみろ」
それから、正宗はこう続けた。
「いざとなれば、当主とした景虎を島送りの代わりにダンジョンに閉じ込めた。そう幕府に言えば、言い訳はできる。ダンジョン大名の家柄ならば……な?」
そう言うと、牢越しに小刀を景虎に手渡して来た。
「これで責任を取って自害せよと言われるのかと思った」
「俺にだって家族のへの慈悲くらい持ち合わせているさ。もしも――――その先で相応しい刀を見つけたることができたなら」
「牢を斬り、ここから出ろと?」
「みなまで言わすな」とだけ正宗を言って地下牢から去って行った。
1人残された景虎は――――
「さて、兄上も未知の道具に気づかなかったのか、見逃されったのか?」
自身の背後に浮かぶ、小型ドローンのカメラに触れた。
「さて、配信の前にサムネを――――」
(兄上……兄上は勘違いしている。俺はサムライであろうとしているのではない。拙者は――――サムライになったのでござるよ!)
『サムライの国!? 特別ダンジョン攻略配信』
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
配信予定と共にサムネが写る。
余程、急いでいたのだろう。そのサムネは黒一色の上に白文字で書かれた簡素なものだったが……彼の熱狂的な視聴者《リスナー》たちは湧き上がった!
『行方不明だった景虎の配信予定が更新されたぞ!』
『やっぱ、俺たちの景虎は死んでなかった!』
『サムライの国だって? じゃ、やっぱり織田信長に連れ去られたって……コト!?』
『サムライの国とかマジで信じてる奴おりゅ? ヤラセに決まってるだろ? SFじゃあるまいし……』
『あれを見てヤラセって、ニワカかよ』
『私、女だけど景虎さんの配信をヤラセって言うような男子は、ちょっと……』
『うっせぇわ!』
そして、その時間は来た。 配信が始まると――――
「さて、配信を始めるでござるよ! みんな、これをご覧あれ!」
『牢屋だ』
『地下牢……』
『閉じ込められていたのか』
『やっぱり、逮捕されていたのか』
ずいぶんと久々のコメントのような気がして、景虎は気が高ぶる感覚がした。
「実は、ここ……拙者の実家なのでござるよ」
『実家! 岩穴で暮らしていたのか、通りで……』
「いやいや、実家の当主が配信活動に怒って、閉じ込められたのでござるよ!」
それから、彼はこの配信の趣旨を簡単に説明した。
「そこで拙者は、牢屋から脱出するためにこの奥にあるダンジョンに潜って必要なアイテムを手に入れていく予定でござる!」
「兄上……」
景虎はそう呼んだ。
なるほど、両者を並べてみたらよく似ている。確かに兄弟なのだろう。
牢の前に立って男は、有村景虎に数年ほどの年齢を重ねた容姿。
まだ、20代ほどだろう。ただ髪の色が白く染まっている。
有村景虎の兄、つまり有村家の長男――――
名前は有村正宗《ありむらまさむね》。
「兄上が、ここにいるという事は――――通りで懐かしさと感じるはずでござった。ここは、拙者の家にある地下牢でござったか。しかし、なぜ拙者がここに? 父上の判断でござるか?」
「いや、俺の判断だ。父上は引退した。今は俺が家を継いで当主になっている」
「なるほど、合点がいった。父上ならば、拙者を地下に閉じ込める程度で許さなかったでござるな」
「……まだやっているのか、景虎?」
「? 何の事でござる?」
「その話し方だ。 跡継ぎになれずとも、それでも侍らしくあろうとする喋り方だ」
「……拙者は、いや、俺は――――」
「頭を冷やすには良い場所だろう。暫く、ここで身を隠せ」
「――――兄上は俺をどうするつもりですか? 『尾張将軍』からも俺を匿うつもりで?」
「我が家に、幕府から何も連絡はない。ならば自由にさせてもらう」
正宗は、小刀を取り出した。 思わず構える景虎だったが――――
「これを使え。最近、この地下にも小型の魔物がでるようになった。ダンジョン化が進んでいるのかもしれない」
「ダンジョン化が? 確かに、幼少期の記憶よりも奥行が広がっている。ひょっとして、ここがダンジョンの入り口になっている?」
景虎は地下牢の奥を見る。暗くてわからなかったが、確かに通路らしきものがぼんやりと見える気がする。
「さて、俺は入った事がないのでな。生き延びてみろ」
それから、正宗はこう続けた。
「いざとなれば、当主とした景虎を島送りの代わりにダンジョンに閉じ込めた。そう幕府に言えば、言い訳はできる。ダンジョン大名の家柄ならば……な?」
そう言うと、牢越しに小刀を景虎に手渡して来た。
「これで責任を取って自害せよと言われるのかと思った」
「俺にだって家族のへの慈悲くらい持ち合わせているさ。もしも――――その先で相応しい刀を見つけたることができたなら」
「牢を斬り、ここから出ろと?」
「みなまで言わすな」とだけ正宗を言って地下牢から去って行った。
1人残された景虎は――――
「さて、兄上も未知の道具に気づかなかったのか、見逃されったのか?」
自身の背後に浮かぶ、小型ドローンのカメラに触れた。
「さて、配信の前にサムネを――――」
(兄上……兄上は勘違いしている。俺はサムライであろうとしているのではない。拙者は――――サムライになったのでござるよ!)
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・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
配信予定と共にサムネが写る。
余程、急いでいたのだろう。そのサムネは黒一色の上に白文字で書かれた簡素なものだったが……彼の熱狂的な視聴者《リスナー》たちは湧き上がった!
『行方不明だった景虎の配信予定が更新されたぞ!』
『やっぱ、俺たちの景虎は死んでなかった!』
『サムライの国だって? じゃ、やっぱり織田信長に連れ去られたって……コト!?』
『サムライの国とかマジで信じてる奴おりゅ? ヤラセに決まってるだろ? SFじゃあるまいし……』
『あれを見てヤラセって、ニワカかよ』
『私、女だけど景虎さんの配信をヤラセって言うような男子は、ちょっと……』
『うっせぇわ!』
そして、その時間は来た。 配信が始まると――――
「さて、配信を始めるでござるよ! みんな、これをご覧あれ!」
『牢屋だ』
『地下牢……』
『閉じ込められていたのか』
『やっぱり、逮捕されていたのか』
ずいぶんと久々のコメントのような気がして、景虎は気が高ぶる感覚がした。
「実は、ここ……拙者の実家なのでござるよ」
『実家! 岩穴で暮らしていたのか、通りで……』
「いやいや、実家の当主が配信活動に怒って、閉じ込められたのでござるよ!」
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「そこで拙者は、牢屋から脱出するためにこの奥にあるダンジョンに潜って必要なアイテムを手に入れていく予定でござる!」
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