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第2話
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しおりを挟む淡い花灯で照らされた室内へ足を踏み入れれば、牀榻に腰かけていた嫣寧がはっとしたふうに顔をあげる。
紅蓋頭越しに見つめられ、紗琰はぎこちない手つきで持っていた花朶を差し出した。
「遅くなってしまって、申し訳ない。詫びにもならないが、これを……」
咲き初めの木蓮の花が匂いやかに揺れる。龍華宮へ向かう途中、紗琰は御花園に寄り、木蓮の枝を数本手折ってきたのだった。
紅蓋頭越しに、嫣寧が微笑う気配がする。
「とんでもございません。むしろ、お心遣いいただき嬉しゅうございます」
嫣寧は大切そうに木蓮を受け取り、白い花びらに頬を寄せた。
瑞々しい甘い香りが牀榻の中に広がっていく。嫣寧は控えていた女官を呼ぶと、木蓮を花瓶に飾っておくよう命じた。
「紗琰様、冷えてしまわれたのではございませんか? もしよろしければ、当帰鶏湯を召しあがりませんか」
「……あなたが作ったのですか?」
「はい。お口に合うかどうかわかりませんが」
紗琰は暫し口籠る。
前世では、こんな会話をする前に「さっさとうなじを咬んでくれ」と告げた。もしかしたら、あの時も嫣寧は清湯を作って待っていてくれたのかもしれない。
返す返すもおのれの浅慮が悔やまれる。
紗琰は口の端に微苦笑を浮かべ、立ちあがりかけていた嫣寧の肩にそっと触れた。
「それなら、一緒に食べましょう。だけどまずは、紅蓋頭を外させてください。……私の沈郎の顔が見たいのです」
躊躇いがちに紡ぐ。
沈郎――それは妻が夫に対して用いる呼び方だ。
性種の如何に関わらず、至尊の君たる紗琰が夫君であり、嫣寧ら妃嬪は妻妾の立場となる。名前や愛称で呼ぶならまだしも、紗琰の口から〝旦那様〟の意を含んだ呼称が出るとは思ってもいなかったのだろう。
嫣寧は小さく息を呑み、うつむいた頬にほんのりと朱がさしたように見えた。
手を伸ばしてゆっくりと紅蓋頭を持ちあげると、清艶な木蓮を思わせる白皙の美貌がやわらかな紅に染まっている。
「こんなに美しい木蓮花神が嫁いでくださったなんて、私は幸せ者だ」
後悔と恋慕がないまぜになった心地で、紗琰は目の前の伴侶を見つめた。
嫣寧は含羞したように長い睫毛を伏せる。
「わたくしも、……紗琰様にそんなふうに仰っていただけて、とても幸せです」
手を取って牀榻から立ちあがらせると、壊れ物に触れるかのように抱きしめられた。背の高い嫣寧の胸に顔をうずめるような恰好で、腕の中に閉じ込められる。
「これからずっと、生涯あなたさまのものにしてくださいませ」
甘い香りがして、こめかみにくちづけられたのを感じた。
前世でもこんなふうに愛されたはずだったのだと思えば、やわらかな愛撫が悲しくて、嬉しい。
抱きしめられたまま手を伸ばして頬に触れると、嫣寧はどこか緊張した面持ちで紗琰を見返してきた。
「……沈郎」
「はい」
呼べば、すぐに返事が返ってくる。
「私もあなたが好きだ。……あなたの、番になりたい」
今度こそ、本当の伴侶になりたい。
鼓動がうるさいほど鳴っていた。
嫣寧は花容をほころばせ、少しだけ強く抱きすくめられる。
「嬉しゅうございます」
囁きが響いて、額に、頬に、甘やかなくちづけが降ってきた。
やさしいくすぐったさにたまらず身をふるわせれば、嫣寧はほんのりと笑みを浮かべて腕をほどく。
それから女官を呼んで清湯を運ばせると、嫣寧は手ずから給仕してくれた。
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