鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第2話

2-15

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 床帳の外で控えていた玲玉が、起きあがった気配を察して声をかけてくる。
「紗琰様、肌香を抑える薬湯をご用意してあります」
「ああ」
 頷けば、嫣寧が床帳の向こうから碗を受け取ってくれた。
 これから父帝と母后のもとへ挨拶に行くというのに、肌香をまき散らすわけにはいかない。苦い薬湯を一息に飲み終えると、玲玉が再び問うてきた。
「避妊薬はどういたしますか」
 伽のあと、皇帝は相手を務めた妃嬪の胎にたねを残すかどうか判ずる。帝君が是と言えば孕むことができ、否と言えば胤は掻き出され、妃嬪は避妊薬を服用させられるのだ。
 尤も、このしきたりは皇胤こういんが生まれやすかった大昔の名残であり、現在では形だけの質問となっている。
 さりながら、紗琰は鳳花帝君である。天陽種の皇帝のように、妃嬪の胎に胤をまけばそれで終わりではない。
 后妃から胤をもらい、おのれの胎で子を育てる紗琰にとって、懐妊は国政にも関わってくる。
 前世では、嫣寧に政権を奪われるのを恐れて懐妊を拒んでいた。雨嫻と肌を重ねても、避妊薬の服用は怠らなかった。
 けれど今は、嫣寧がずっと紗琰を想っていてくれたことを知っている。懐妊すれば嫣寧は喜ぶだろうし、紗琰自身も嫣寧との子を望んでいた。
(……だけど、今懐妊すれば、腹の子まで叔父に害されるかもしれない)
 安全が保障されない以上、安易な懐妊は避けねばならない。
 口籠った紗琰をどう思ったのか、嫣寧がそっと抱き寄せてきた。あたたかな腕に身を預けながら、紗琰は「すまない」と呟く。
「あなたとの子がほしくないのではありません。だけど、今はまだ……」
「わかっております」
 やわらかな声音とともに、こめかみにくちづけられる。なだめるように頭を撫でられると、胸の奥が罪悪感でいっぱいになった。
 紗琰は必死で言い募る。
「ごめんなさい、沈郎。果たすべきことが終わったら、必ずあなたの子を産みます。一番最初に産むのは、絶対にあなたとの子だと約束しますから、……っ」
 言い訳がましいとわかっていても、言葉を紡ぐのをやめられない。
 嫣寧はそんな紗琰の内情を見透かしたかのように、くちびるをそっと重ねてきた。
「大丈夫ですよ。琰児のお気持ちはちゃんとわかっておりますから、ご心配なさらないで」
「……沈郎」
「それに、子ができたら琰児を独り占めできなくなってしまいますもの。琰児が望んでもよいと思うまでは、子の分までわたくしを愛してくださいませ」
 こちらを見つめる藍玉瞳が甘やかな色を湛える。
 嫣寧が気遣ってくれているのだとわかるから、紗琰は小さく頷いた。
「ありがとう」
 すがりついて礼を述べれば、嫣寧は花容をほころばせる。
「琰児はわたくしのわがままを聞いてくださっただけなのですから、お礼など不要です」
 軽いくちづけを交わし、紗琰は玲玉に避妊薬も持ってくるよう頼んだ。
 甘苦い味の丸薬を飲み終えると、次は胎のなかの精を搔き出さねばならない。湯浴みの準備をさせた紗琰は、無論玲玉に任せるつもりだったのだが、嫣寧が赦さなかった。
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