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第4話
4-3
しおりを挟む夜半、皇帝の居処たる龍宮殿で嫣寧とともに休んでいた紗琰を、玲玉がそっと起こす。
眼差しで臥室の扉の向こうを示され、紗琰は無言のまま頷いた。玲玉に上衣をかけてもらい、嫣寧を起こしてしまわぬよう気をつけながら牀榻を降りる。
玲玉に手を引かれて居室へ向かうと、夜陰にまぎれるようにして、困惑した様子の蕭陽朔が跪いていた。傍には東廠督主の許月虹も控えており、周囲をはばかるような小さな灯燭を頼りに、紗琰は羅漢牀へ腰を下ろす。
「帝君へご挨拶いたします」
すかさず蕭陽朔が述べ、紗琰は顔をあげるよう促した。
寝ていたところを月虹の手下に起こされたのだろう。陽朔の髪には乱れがあり、急いでひっかけてきたらしい上衣が肩からずり落ちそうになっていた。
「遅くに呼びたててすまないな。余と会っていたことを、おまえ以外の者には知られたくないゆえ、手荒な真似をした」
「……とんでもございません。帝君が、私めにどのようなご用でしょうか。皇后娘娘の治療のことでしたら――」
言いさした陽朔を目顔で制す。
紗琰は月虹に手招きし、彼が持っていた盆を陽朔の前へ置くよう指示した。
盆の上には、紅杏仙と黄仁果の実がそれぞれ皿に盛られている。
「これがなんだかわかるか?」
尋ねれば、陽朔は二つをじっと見つめてから口をひらいた。
「紅杏仙と黄仁果です」
「では、これらを食べた時の効果は?」
「どちらも滋養強壮によいものです。食材として使う場合も、生薬として使う場合も、効果に変わりはございません。ただ、この二つを同時に摂取するのはおやめになったほうがよいでしょう。紅杏仙も黄仁果も、どちらも滋養強壮に長けた植物でございます。二つとも口にした場合、過剰摂取と申しまして、人体に与えられる作用が強すぎて毒となってしまうのです。少量であれば体調を崩す程度で収まる可能性もございますが、腎臓の弱いかたや持病をお持ちのかた、または高齢のかたなどですと、臓腑が害され死に至ることがあるので注意が必要です」
よどみのない返答がいっそ清々しい。
笑みを浮かべていると、陽朔が気遣わしげに紗琰を見あげてきた。
「もしや、帝君はこれらを長期間お召しあがりになられたのでしょうか。でしたら、すぐに効果を中和させる薬湯をお作りいたします」
「おまえが治せるのか?」
「はい、師父から教えていただいたことがございますので。よろしければ、脈を取らせていただけますでしょうか。玉体の状態を確認し、ご負担のない量で薬材を調合いたします」
赦しがあれば今にも立ちあがりそうな陽朔からは、患者に真摯な姿勢が感じられた。
(どうなることかと思ったが、この者ならば信じてもよさそうだ)
紗琰はゆるく首を振り、陽朔を見やる。
「薬が必要なのは余ではない。……陽朔、おまえは余の頼みを聞いてくれるだろうか?」
陽朔は寸の間目をまるくした。意味を図りかねたように、双眸が混乱の色を宿す。
「それは、……どういうことでしょう」
「余に手を貸してくれるなら、おまえに次期太医令の地位を約束しよう。他にもほしい褒美があるのなら、余ができる限り叶えてやる」
働きには対価が必要だ。それゆえの提案だったのだが、陽朔は驚いたふうに両手を振った。
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