異世界転生しか勝たん

shiyushiyu

文字の大きさ
6 / 17

第五稿 炭鉱の町

しおりを挟む
翌朝には私たちは、星が降る街を出発した。

次の目的地は炭鉱の町。

そこまで到着すれば漁港が盛んな街まであと少しになるんだよね。

漁港が盛んな街の次は、魔王が支配する都市だっけ。

「大丈夫か?アヤメ。」

丘を下ると足場が悪い岩場が延々と続く道だった。

運動音痴の私を見かねたナポリタンが手を差し伸べてくれる。

「ありがと。」

ちょっと無愛想だったかな?

何だかんだ助けてくれるし。もう少し気持ちを込めて礼を言ってもいいのかもしれない。

でも、どうしても私自身が作り出したこの世界で、私自身が作り出したキャラクター、しかもNPCで現実には存在しないキャラクター。ましてや適当に作った名前と設定。

感情を込めろと言う方が無理な話でしょ。

まぁ2人とも最初の頃よりは印象は良くなったけどね。

それでも私にとっては作品内のキャラとしてしか見れないよ。

愛着とかはあるけどそれだけ。だからって感情移入するかって聞かれたらしない。だから私の作品は人気がなかったんだろうね。

次回作はもう少し読者を置いてけぼりにしないような作品を作らないとね。

せめてもう少し感情移入できるキャラ作りが必要だね。

岩場を過ぎると比較的歩きやすい道に出た。

こういう設定は作ってなかったから、私にとってはすごく新鮮だなー。

靴とか服装でも歩きやすさが全然違うんだなー。

普段からジャージにスニーカーの私は、そういう当たり前のことにも気がつかなかった。

カラアゲさんは大荷物に重装備なのに、岩場をひょいひょい進んでたなー。

ナポリタンもタンクとしてそれなりの装備なのに、平気で進んでたなー。

きっと私が設定していないだけで、戦い以外の訓練とかもしてたんだろうなー。

「そういえば2人ってどこで出会ったの?」

ふとした疑問をしてみた。

私のラノベでは、なんで2人が知り合いなのかは描いていない。もちろん作者本人の私ですら考えていないから、どうして知り合いなのか知らない。

今後の創作活動の役に立つかもしれないし、聞いておこう。

「あぁ。オレがまだ小さかった頃にカラアゲさんにめっちゃ怒られたんだよ。オレ親いなくて盗みでしか食っていけなかったからさ!」

おぉう。なかなかの過去を明るく笑顔でよく言えるなぁ。

「んで、カラアゲさんに捕まって勝手に鍛え上げられて、色んな場所でモンスターと戦わされて、気がついたらカラアゲさんの盾になってた。」

だからタンク役やってるんだ…

だからこの2人の信頼は厚いのか。

「お前がみなしごだと知って、仕方なく育てただけだ。俺が教えたのは、働かなきゃ飯が食えないということだけだ。」

無愛想にカラアゲさんが言う。ひょっとして照れてる?

それにしても、働かなきゃご飯が食べれないのは分かるけど、いや私がそれを理解するのも変なんだけど…

でもだからってモンスターと戦うような仕事をさせるかね?

「ま、そのおかげでオレは生きていられるから感謝してるんすけどね!」

そりゃそうか。カラアゲさんに感謝してもしきれない恩があるんだね。

「お、町が見えてきたっすよー!」

感謝してるって言ってたナポリタンも恥ずかしかったのかな?ささっと先へ行って、町を発見して来た。



炭鉱の町かー。

私のイメージは殺風景な町って印象なんだよね。

確かに私が描いた小説には、町の雰囲気とか描いてないよ。

でもさ、自然いっぱいで住人も活気に満ちてるって何?私のイメージと全然違うんだけど!

そっかー。町の雰囲気とかもちゃんと書かないと読者には伝わらないのかー。

次からは気をつけようっと。

「活気に満ちているな。」

カラアゲさんが私と同じ感想を述べた。

そう。そうなんだよ。住人もそうなんだけど、町そのものが元気いっぱいって感じ。

「ここで少しゆっくりするのもありっすよね!」

なんてナポリタンが言ってるけど、堅物のカラアゲさんがそんなの許すわけがない。

「うむ。そうだな。こういう活気のある町は俺も好きだ。」

あれぇー?許しちゃったよー。魔王を倒しに行くんじゃなかったのー?

私が描いたラノベだとどうだったっけ?

あぁそうか。カラアゲさんとナポリタンがゆっくり滞在しようとするのを、勇者が急がせるんだ。

でもなぁー。2人の気持ち、分からなくはない。

この雰囲気。私も好きだもん。

「あ、あのー。」

渋々声をかける。

「「ん?」」

2人が同時に振り向く。

ここで私はふと思った。

もし、私が自分で描いたラノベ通りのことをしなかったら、どうなるんだろう?

「あ、いや。ここ、いい町ですよね!」

好奇心に勝てず、私は自分が描いたのとは違うストーリー展開をさせてみた。

ここからは、先が分からないハラハラドキドキの異世界転生が待っているはず!

胸に期待を膨らませて、私は炭鉱の町名物という温泉へ向かった。

カラアゲさんは酒場(この人暇さえあればお酒を飲んでる気がする)。

ナポリタンは女漁りに向かった(この男はまったく)。



いやぁー。いい湯だった。

本当にびっくりするくらいいい湯だった。

あ、カラアゲさんもしょんぼりしてる。ナポリタンもだ。

うん。2人の気持ち、分かるよ。

私だって同じ気持ちだ。

せっかくゆっくりしようとしてたのに。

町の偉い人に声をかけられて、さっさと魔王討伐へ向かえと怒られた。

私がどんな選択をしようと、私が描いたつまらないラノベの通りに物事は進むようだ。

せっかく人が少ない時間帯を狙って温泉に入ろうとしたのに。

「まぁ。うむ。なんだ。町長の言うことももっともだな。」

残念そうにカラアゲさんが言う。

「そうっすね。ここでは武器とか食糧の調達くらいしか出来なそうっすね。」

私達の行動を監視するかのように、町長たち役人は遠巻きに私たちを見ている。

「名目上は、他の市民が騒がないためでしょうけど、これじゃ監視と変りませんね。」

苦笑いしながら私が言うと、カラアゲさんが大げさにその通り!と頷いた。よっぽど残念だったんだろうね。

「こういう活気がある町の酒って旨いんだってさ。」

大げさすぎる反応に私がドギマギしているのを見て、ナポリタンが教えてくれた。

「味ではなくてな、雰囲気が旨いんだ。酒を飲まないアヤメには分からんだろうが。」

雰囲気かー。確かに居酒屋の雰囲気が好きって人は多いって聞くよねー。それと一緒かな?

なんて考えていると、町の市場にたどり着いた。

カラアゲさんが武具やアイテムを、ナポリタンが食糧の調達をしている間、私は町長の相手をすることになった。

「勇者様は噂ではこの世界の住人ではないと聞きましたが本当なのですか?」

唐突に町長が聞いてきた。まぁ隠すことでもないし、カラアゲさんもナポリタンも知ってることだしね(私が本当は女だというのは、何となく言えなかったけど)。

「えぇ。そうですね。理由はよく分かりませんけど、気がついたらこの世界に飛ばされて、いきなり勇者なんて言われて、ドラゴンと戦わされてそのまま魔王を倒すことが使命になってしまいました。」

まぁ私が描いた物語なんだけど。

「勇者様がいた世界には、どんなものがあるのですか?」

「どんなもの?うーん…少なくとも魔法もなければモンスターもいない。ドラゴンや魔王ももちろんいない世界ですねー。その代わりに科学が発展してる感じですかね。」

「かがくですか?」

「うーん。うまく説明できないんですけど、例えばこの世界では魔法で空が飛べるとするじゃないですか。でも私がいた世界には魔法がないわけですから、代わりの方法を使って空を飛ぶんです。」

「その方法がかがくと?」

「簡単に言えばそんな感じです。」

みんな目を輝かせていた。

あぁそうか。私たちを監視してたんじゃなくて、私と話がしたかったのか。

そりゃそうか。別の世界から来た。なんて言われたら、どんな世界なのか気になるものだよね。

そこで私は暇つぶしがてら、お世辞にも上手とは言えない絵を描いて、私達の世界を教えてみた。

車や飛行機、スマホにゲーム機、パソコンなど機械系を主に描いてみた。

「それからね。私が居た国ではラノベって呼ばれるものが流行ってるんです。流行ってるって言っても一部に人気ってだけだけど。ライトノベルって言って物語を言葉で表現するって言えばいいかな。」

「自分で物語を作るのですか?」

「そうそう!そういう職業があるんですよ。実は私もその端くれでして。」

最後はちょっと照れ臭そうに言った。

どんな物語を描いてるか聞かれたけど、この世界がまんま私が描いた物語だなんて言えないよね。

「あはははは。まぁ、色々です。売れてないので、きっと面白くないんでしょうね。」

「そんなことはありませんよ勇者様。ご自身が面白いと思えた物語ならば、必ず面白いと思ってくれる人がいるものですぞ。」

なんか、元気づけられた気がする。

「そうですね!さてと、カラアゲさんたちも戻ってきたことですし、そろそろ行きますね!」

元の世界に戻ったら、もう少しだけ真面目に執筆活動をしよう!

そう心に決めて私は、町長と他のみんなに笑顔でお礼を言った。

「また会えたら、話の続きをしましょー!」

手を振りながら町長にそう別れの挨拶をした。

なんだか、自分が作った世界で自分が作ったNPCキャラなのに、ああやって言われると愛着がわくもんだなー。

それが分かっただけでもこの世界に来て良かったのかもしれない。

カラアゲさんにもナポリタンにも、それなりの感情が沸くようになってきたしね!

「何の話をしてたんだ?」

ナポリタンが聞いてくる。

そういえば、この世界に来たばかりの頃は文句ばっか言ってあんまり感情を表に出さなかった気もする。

「内緒。」

にこりと笑いながら舌をちょろっと出す。

可愛い子がやれば、胸キュンになる仕草だ。

なんだそれ。とナポリタンが言いながら小突いてくる。

うん!私は今、久しぶりに感情を表に出している!何だか気持ちがいい!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...