俺と私は死なない

有魅絵 恵

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復讐

溺死/撲殺

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さてと。
「無事にコイツも死んだことだし、次はお前だ」
俺はナイフの先をCに向ける。
耳の痛みなのか仲間の死でだろうか。泣いている。
「オオオオオオオー!」
「……ん?死体どもが集まってきたようだな……。チッ、てめぇらが泣き叫ぶからだ」
ぶつくさとひとりで文句を言い次の準備へ取り掛かる。
理科室内にある、蛇口が一つのシンクに水をためる。
ジョーっと水が溜まっていき蛇口からの水で既に溜まっていた水面が激しく揺れていた。
俺の顔をユラユラと写す。……どうもひどい顔だ。この俺がこんな顔になっているのは水面が揺れているだけじゃないだろう。
見たくもない顔から目をそらして左手でCの椅子を持ち上げる。その間、画鋲がびょうを空いている手で掴んで水面に投げ入れる。
「やめて!?何をするの!?」
はぁ、と俺は嘆息し、
「姉さんの日記に書いてあった。おまえは姉さんを溺れさせたり画鋲を刺していたりしていたらしいじゃないか」
「わ、私じゃない!やったのはエリの方よ!」
「サユリ!?な、あんた何言ってるの?嘘つかないでよ!」
俺は脳内フォルダから姉さんの日記を見つけ出して、読む。
「『×月○日。折野小百合おりのさゆりさんにトイレの水の中に顔をつけさせられた。もう、やめてほしい』」
「な、何よそれ!勝手にーーイッ!?」
俺は椅子を壁に投げた。
ゴシャア!と派手な音を立てて少し壁が壊れた。
椅子に縛り付けられているCももちろん巻き添えだ。
ざまぁ。
Dはたまらなく口を震わせて呟いた。
「無理よ、もう……。平気で人を殺したりあんな怪力だなんて……」
何が……。
何が……!
「何が『無理』だ!俺はてめぇらそのもの存在が『無理』だ!てめぇらも人殺しだ!人殺しが人殺しを愚弄するのも大概にしろ、人殺し!」
「なら!」
Cはこちらに目を向けて発した。
「私たちを殺してどうするの?復讐になんの意味があるの!?」
「……どうするもこうするもねぇ。俺もそのまま死……。いや、ひとり、助けたいヤツを全力で助けてから死んでやる」
「は?あなたが、人助け?笑わせないでよ!あんたなんかがはっ!!」
「うっさいな。すぐ笑えないようにしてやるよ」
もう一度Cを掴みあげてシンクの近くまで持ってくる。

第三 Cの刑『溺死できし』。

「さて、こんなかに画鋲が入っている。これからお前を溺れさせるわけだが、暴れると刺さって痛てぇぞ。動くなよ」
「いや!やめて!」
「おっせぇよ。何もかも」
「やめーーガボっ!」
ゴボゴボと水面が泡立つ。
俺は頭を押さえつけているだけだからコイツが勝手に暴れてやがるだけだ。AとBに比べれば苦痛ではないだろう。
だが、ゴボゴボと暴れ回っているせいで刺さったのだろう。だんだん水の色が赤く染まっていく。
「あーあ。だから動くなって言ったのに……」
「サユリー!」
そこから三分間、俺は頭を抑え続けた。
三分間息ができなければ死ぬ、みたいな事言われているが。
俺は万全を期すために首に銀の装飾のナイフを突き立てて、裂いた。
ビクン、と一回痙攣してすぐに動かなくなった。
ナイフを引き抜き頭から手を離す。
重力に従い元の重心に戻った椅子とともに起き上がったCの顔は所々に画鋲が刺さり、目は白濁して青白い顔をしていた。
くそ、うぜぇ。死んでもなお俺に苛立ちを覚えさせやがる。
「さて、エリさん?」
俺は最大限の恨みと憎しみと嘲笑を込めて薄く笑いかける。
その俺に
「プッ」
唾を飛ばしてきた。
口の動きから何をするのか大体の予想をしていたため、簡単によけられる。
Dことエリさん。
エリさんはチッと舌打ちをして、
「早く殺しなさい。はずかしめは受けないわ」
「はっ!いさぎがいいな。安心しろ、貴様にくれてやるのは永遠の死のみだ」
ポキポキと指を鳴らす。
何をするのか予想が付いたのかため息を一つ入れ、
欧殺おうさつか……」
「正確には『撲殺ぼくさつ』だな。姉さんの日記には伊沢絵里いざわえり、だったか。お前には殴られたり蹴られたりした、と書いてあった」
ふっ。と自虐的に息を漏らして
「だいたい把握したわ。もうほとんど答えはもらっていたわね。
ただし陽子ようこをライターとかの火で炙ったから『火あぶり』。
翔太は刃物で傷つけたから『指切り』。
サユリは水浸しにしたり色々刺したりしていたから『溺死』。
そして私は主に暴力をふるったから『撲殺』。全部やったこと、いや、やり過ぎた場合を死刑にしていたのね」
「遅いなー。気づくのがさ。だいたい二人目くらいで気づけないかなー」
「無理。こんな状況下で冷静でいられるわけないわ」
「それもそうだ、な!」
俺は長く話しすぎたことを後悔するように左目に指を突き立てた。
エリはぐっ!と唇を噛んで声を殺した。
目から指に赤い糸が渡る。
「ねぇ、あなたどれくらい強いの?」
なんで今この状況でそれを聞くんだ?まぁ、それは勝手だが。
その質問に対して、
「うーん。これくらい」
そう言って、床を少し・・本気で蹴る。
すると円心状に日々が割れて木片が天井近くまで飛び散った。
「ふ、ふふ。あ、これはダメね。私達じゃかなわないわー」
今更気づいたのか。馬鹿め。
そして
「私達じゃ、ね」
「ッ!?」
何かを察してその場から飛んで後ろの机に着地する、と同時に。
鍵をかけていたドアがぶっ壊れて今先ほどいた場所にドア(スクラップと化した)が突き刺さった。
こんなことが出来るやつ、俺の他に一人しかいない。
東野ひがしの、だな」
「エリ、遅れて済まない」
ビッとカッターで縄を切りほどいた。
勝手なことを……。
エリは東野の後ろに目を抑えて隠れる。
「君、は。水城すいじょう弟だね」
「なんだ」
東野は薄く微笑んで、

「お前を殺す」

上等だ。
俺もそれを考えていた。
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