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一章:1年生の頃2

僕達の日常は汗と力と球技大会でできている。3

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「これより、エキシビジョンマッチが開催されます!ご興味のある方、そして一年七組と二年三組は校庭、二番コートに集合をよろしくお願いします!」

やけに響く声で司会者が呼びかけをしている。ん?あれ、あの人僕見たことあるよな……?てか、あれいつも朝のテレビに出ているお天気お姉さんじゃ……。
「……なあ、やけにカオスな状態になってねえか?」
……うん、僕も思ったよ。
「さて、と。じゃあ行くか。雪空、春秋冬夏しゅんじゅうとうかって先輩、警戒してねえとあぶねえかもな」
それは十分承知してるよ。
何かあっても僕はなんとか出来るしね。
「そうか。なら行くぞ、どうせならトップ取ってやろうぜ」
取る、取るねえ……。
正直、赤城せきじょうさんが無双しているところしか想像出来ないんだけど。
そんなことを考えながら校庭に行くと、
「「カメラ!?」」
テレビで見るようなゴッツイカメラがあった。
何事!?
てててーっと委員長が駆け寄ってくる。
「ちょ、これ何?」
「んーとね、なんか最初のほうは地方局の方でこのドッヂボール大会を撮影しようとしていたらしいんだけど、春秋先輩っているじゃん?」
「んー?呼んだ?」
「呼んでないです」
お、おうん?
なんかいた気がしたあああー!?
「と、冬夏先輩……!」
「やっほー!で、オーちゃんたちはなんの話?私の話かな?」
誰だよ『オーちゃん』……。
「え、委員長さんでしょ?佐久良桜花さくらおうかだからオーちゃん!」
何かつくづくあだ名のセンスねえな。
それで何でこんなところに冬夏先輩が、出現したのでしょうか。
「あ、あははは。すみません、春秋先輩が本気出すって言うのを聞きつけたらしくて……」
冬夏とうか
「……へ?」
「冬夏って呼んでね?」
「ちょ、春秋先輩?」
「冬夏!」
「……冬夏先輩」
「冬夏だよぉ!」
「これ以上は無理です!」
毎回やるのね!これ!
そしてさっきの委員長の言葉が気になった。
冬夏先輩が本気出すからテレビ局がきたってどういう事だわさわさ。
「んとね、春……と、冬夏先輩はすごい人なんだよ」
「それほどでもー」
「どんなスポーツでもそつなくこなして、しかも部活の人よりも圧倒的に強いし、」 
「鉄棒は苦手かなー。胸がつっかかるし」
「それに、この人当たりの良さと美人さ!今、局がモデルにしようと頑張ってるほどすごい人なんだよ」
「いやぁ、てれるなぁ」
「「話の腰を折るな!」」
さっきから気になっていたことを思わず突っ込む。
それにしても、ほぇー。有名なのは悪名だけじゃなかったんだなぁ。

「間もなく、試合開始時間です!」

「おおっと!さあ、行こう。みことん、しんしん!忘れないでね!」
会う度に『お願い』のことについて念を押すけど、そんなに大切なのだろうか。
……勝ってやろうじゃないか。ここまで来たら。
「……みことんとしんしんって?」
それは聞くな。


                                                 ✩


『さて、試合開始の五分前となりました。ここで少しインタビューを。あ、あれは春秋さんですね!彼女は…………』
ほぉん。リポーターって大変だなぁ。状況説明しながら的確にインタビューをしようとしてる。
準備運動、準備運動ー!
↑してる間にもインタビューが聞こえてくる。

春秋しゅんじゅうさん、意気込みを!』
『はい!、私を待っていてくれてる人のために頑張ります!』
『あー、もしかして彼氏さんですかー?』
『いえ、違いますよぉー!』
『カメラに向かって何かいただけませんか!』
『ほいきた!すぅー……』

なんだろ、嫌な予感しかしねぇ。

『みことん!愛してるぞぉー!』

「いやああああああああー!」
心からの叫びが出た!
ちょ、何いってんの?馬鹿なの?アホなの?死ぬの?僕が。
それを聞いていた周りの人も注目し始める。
ちょ、これ公開処刑かな?

『ちなみにみことんとは……』

聞かなくていいから!

『これから戦う一年七組の雪空命ゆきそらみことくんのことでーす!』

ほおおおあああああああああああー!?
終わった!僕の人生終わった!
いや、嬉しいよ!あの人綺麗だし!でもさぁー!分かるよね!?ふつうは!

『雪空さん、頑張って下さいねー!』

おい、リポーター!仕事してくれぇー!それもう趣味の範囲には言ってるよね!


そんなこんなで時間になってしまった。
そんな中。
「ねえ、動けないんだけど」
「あっはっはー。お前は的になって死ね」
手足を拘束されて最前線にたたされていた。
そこから見える敵(主に二年三組の男子)は猛禽類のような目をしてこちらを睨んでいた。
ピピー!
え、この状況で始めるの!?審判!?
「くたばれ」
なにぎゃふ!?
顔面がああああああ!
当然目の前にいた僕を当てたわけだから敵陣地にボールは転がる。
「ツギ、オレ」
何か目が赤く光ってるんだが。
こ、これは、殺される!
いやだぁあー!
だか、
その赤い目の人から放たれたボールは、
僕に届く事は無かった。
「コーヒー牛乳。追加」
お、おうん?
お。おーけー!いちごミルクでなくていいのか。
救世主の赤城さんはみぞおちにボールを押し込んだ・・・・・
いっった……。これは痛い……。地面に沈んでるやん。
めり込んだボールを見て「ふっ」と笑いパッと手を放す。
とんっ。
あ、これあたりになるのか。
こちらの陣地に転がってきたのをみて、拾い、敵に目を向ける。
「雪空くんを最初に当てたのは誰」
冷たくそう言った。
ええええええー。
冷えた目を向けられてまるでモーゼの奇跡のように人の海が分かれてひとりが真ん中に立たされる。
「……え」
「「「コイツがやりました」」」
裏切ったあああああー!?
両脇から男子が抑えて処刑代に上がらせるごとく僕の前まで連れてくる。
「ちょ、まて。いや悪かったよ、うん春秋しゅんじゅうの『冬夏だよー!』……冬夏さんに親しくしてるのを見て少しカッとなっちまったんだよ分るだろあのビジュアルとあの人当たりの良さ俺達の注目の的なんだよ俺ら二年三組の男子からしたら天使のような人なんだそれだけなんだよ許してくれないか」
………………。
「「うっざ」」
僕と赤城さんがはもった。思っきり目の前にいた両脇を抑えている男子をスネをぶつけて倒して「「な、なんで……!」」目の前の男にボールをめり込む。
「ごふぁ……」
「次」
「あああああああー!!」「やべえ!殺される!」「アイツバケモンだよ!なんでスネにボールぶつけるだけで倒れるんだよ!」「なんかやばいオーラを発しているぞ!」「しゅ、春秋を呼んでこい!」

「呼ばれて飛び出てばばばばーん!」

「「「きたあああああー!」」」
いや、キタも何もずっとコートにいたやん。
とりあえずバレないように霊力を込めて手足の拘束を引きちぎり「雪空が覚醒したぁ!?」バレた。
そんな中、
「ほーん?キミが零ちゃんかぁ。どんなあだ名にしようかな」
「そんな暇も与えないわ」
やばい赤城さんが本気になったら冬夏先輩が死ぬ!
だがそんなことは杞憂きゆうに終わった。
放たれた剛速球は通過点にいた男子を蹴散らしたが冬夏先輩の元にボールがたどり着いた時、ドン!と音がしてボールは止まった。
「……ちっ。あのボールを止めるなんてね」
クルクルと冬夏先輩は指の上でボールを回す。
「じゃっじめんとたーいむ!」
なっ
「「ぎゃああああ!」」
「た、高瀬、井口いい!」
だ、ダブルキルだと!?
これは、やばい。

「その状態なら行けるよね」

……へ?
ドヒュン!といつの間に手元に戻ってきたのかボールを僕の方に投げる。
手のひらを突き出し、砂ぼこりを上げながら後退し、止める。
っぶねえええ!
「くそ、行くぞ冬夏先輩!」
これは、霊力を宿したままじゃないと死ぬ!化物たちに殺される!
「おー、こい!」
できるだけはらを狙って投げる。
が。
「甘いよぉー!」
「「「なにいい!?」」」
空中に飛び、逆さ状態で飛来するボールをつかんで着地した。そして
「ごー!」
「るふらん!」
「平川あああ!」
跳ね返ってきたボールを赤城さんが掴みセーフとなった。
だけど動ける状態じゃないよね、平川くん。
どごぉーん!ばぎゃああー!どがしゃああ!
「……やべぇ。ドッヂボールの音じゃねぇ」
相良が冷や汗を流しながら呟く。
「雪空は霊力で体をコーティングして防御力が上がるからいいが俺ら生身の人間はやべぇ。当たったら死ぬ」
むしろこの状態でも死ぬ可能性がある。だってアレ人間にはできないもの。
「あっははー!零ちゃん強いねぇ!」
「どこからそんな余裕が出るの?もっと強くなって出直しなさい」
赤城さんは五メートルほど跳んで・・・、回転しながらボールを放つ。
冬夏先輩はそれを片手でつかんで上に投げる。そして威力が殺されたボールは落ちてきて冬夏先輩の手の中に収まった。
((((ば、バケモンだ))))
全員が同じことを思った。
なんで五メートル跳べるんだよ……。
そして何でそれを片手で受け止めて処理出来るんだよ……。
一応相良に聞いてみる。
「二人とも霊力使ってないよね」
「わざわざ聞くまでもないだろ……」
ですよねー。あれがですよねー。


そして試合は最終的に引き分けとなった。
多大な被害(主に男子)を生み出したドッヂボール大会(主に赤城さんと冬夏先輩のせい)は赤城さんが僕からのいちごミルクとコーヒー牛乳を貰っただけとなった。


                                                    ✩


「さて、どうしよう」
「知りませんよ」
終わったあとの放課後、僕と相良は冬夏とうか先輩と水道の前で話をしていた。
「だって引き分けだよ!?あたしぜぇったい負けないと思ってたのに!」
まぁ、そりゃ、ね。赤城さんがいなければ多分一分ももたなかったよ。
そして冬夏先輩は何を思ったのか頭を下げてきた。
「ちょ、何ですか!?何を」
「お願いみことん!あたしの『お願い』、聞いて!キミの『お願い』も聞くから!」
「あの、いや……」
もう今更僕はこんな約束してない何言えない……。
なら、
「じゃあ、冬夏先輩は僕にどんなお願いを……、いや。あなたは何物ですか・・・・・・・・・
どうせこの後『お願い』を聞くならもっと有益ゆうえきな情報を入手しておいた方がいい。
ふぅ。と冬夏先輩には似合わしくないため息をひとつして
「そうね。『お願い』だし、ちゃんと答えるわ。……私は、私は霊力を持たない霊能者シャーマン。霊力を持たないのはれいちゃんと一緒よ」
そう言えば赤城さんも霊力を持たない人なんだよな。
その代わりに霊刀0れいとうゼロで霊を祓っている。
「それだけ?もう、いい?」
「えと、もう一ついいなら。何を使って霊を祓っているんですか?もし、霊を狩る者ゴーストハンターと同じように力ずくで解決してたらここで粛清しゅくせいしますよ」
正直勝てる気がしないけどそれが霊能者シャーマン霊を狩る者ゴーストハンターの末路だ。
たたかいたくなくても、それが運命なのだから。
「いやいや、私もどっちかーてーと霊を狩る者ゴーストハンターは嫌いなほうだしね。普通に身体能力て戦って言霊のりとで成仏させてるよ。霊刀も持ってないし」
「いや、それは危ないでしょ」
「それがね?私霊力は持ってないけど宿してはいる・・・・・・んだよ」
んにゅ?なんて?
「生まれつき備わっていたらしいんだよ」
だからあんなにやばい身体能力を……。
「……正直、零ちゃんのことはビックリしたよ。別に自慢してる訳じゃないけど私と同格だよ?」
あー、赤城さんは正真正銘のバケモンなんだね。
おあっとそうだ。わすれることろだったよ。
「それで、冬夏先輩は僕にどんな『お願い』を?」
「そうだ、それが目的なんだった」
冬夏先輩はまたまた難しい顔をして重々しく呟いた。

「君の力、貸してくれないか」

と。


                                                  ☆


「それ、で?」
『2』と左の手の甲に刺青いれずみを入れた男が『3』と男に聞く。
『3』の男は
「残念ながら『雪空命ゆきそらみこと』は今回も」
そこまで聞いて『3』に手元にあったライターを投げつける。
鼻っ柱に当たったのか血を出しながら「うあああああー!」ともだえうずくまる。
「使えないな。たった一人の子供を殺すことさえ出来ないだなんて。おい、『3』は処分だ」
「まっ、まってくれ!まってください!私は……!」
『2』はパキリと指の関節を鳴らして、
「他は」
「私だな」
そう言って『4』が立ち上がり
「作戦決行は五ヶ月から六ヶ月の時間が必要だ。それまでにアレを調整して送り込む」
初めて『1』が口を開く。
「五年の月日を得てやっとか。貴様、今まで何をしていた?これの作戦が失敗したら貴様のたましいは未来永劫この世に顕現さえも許さんぞ」
「失敗したら?そんな事ありえない。なぜならアレは。『左腕の悪霊さわんのあくりょう』は霊刀0ゼロの霊力を微々たるものだが保持していて、元は『狂演の生霊きょうえんのいきりょう』のカラダ・・・だからな」
その説明を聞き『1』と『2』は同時に笑い、
「やってみろ!それで成功したら『千』に会うための許可証をくれてやる」
その言葉に、『4』は口元を歪め。
「了解」

『楽園』は、空間を歪ませ、時間を歪めるために。
この世のすべてを殺していた。
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