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エピローグ
「いらっしゃい!安いよ!そこの奥さん!今日も良い野菜入ってるよ!おまけしてやるよ!」
質素なワンピースで籠を持って歩く女性に八百屋から声が飛ぶ。
「あら。本当。美味しそうね」
にこにこと笑顔で答えるのは、最近よく見かける女性だ。
人当たりの良い笑顔で答える彼女に、数件離れた魚屋からも声がかかる。
「奥さん!奥さんの為に一番いい魚取っといたよ!安くしてやるよ!」
「ありがとう。嬉しいわ。お野菜買ったら寄るわね」
八百屋で目的の物を買って、魚屋に向かう。その途中で肉屋にも呼び止められるけれど
「ごめんなさい、今夜はお魚って決めてるの。また明日来るわね」
そう謝って通り過ぎる。
彼女ほど礼儀正しい人はいないと、市場ではもっぱらの評判だ。
肩までの髪のせいで初めはスラムの遊女か死刑受刑者かと噂されたけれど、『裁きの谷』で無罪となった国王妃殿下が肩までの髪との事で、最近では髪を短くした女性が増えてきている。
彼女のような礼儀正しい女性が遊女のわけがないから、彼女も王妃殿下に肖って短くしているのだろう。
「いやだわ。もうこんな時間。急いで帰らないと、お夕飯に間に合わないわ」
バタバタと大きな歩幅で走る。
荷物を持っているから全力疾走は難しいけれど、それでも走ると息は上がるがそれが心地良く感じる。
「ただいま!」
バンッと大きな音を立てて扉を開くのも最近の楽しみ。
中にいる人が毎回驚いたように目を丸くさせるのだ。
「今日は良いお魚が手に入ったから、煮魚と…お野菜は炒めましょうか」
ふふふっと笑ってそのまま部屋から出て厨房へ向かう。
背後で小さく「おかえり」という声が聞こえて頬が緩む。
「旦那様の分は焼き魚にしてさしあげますわ。わたくし、もう両方とも作れるようになりましてよ」
『旦那様』は煮魚が苦手なのを最近知った。
煮魚よりも塩と香辛料を強めに振った焼き魚がお好きなのよね。
厨房に行って下拵えをする。
初めて作った料理は味も薄くて芯も残っていて美味しいと言えるものではなかったけれど、最近は腕を上げてきて、料理長に「凄く美味しいです」と褒められるようにもなった。
旦那様に「化粧をしているのとしていないのとでは別人だな」と言われたので、下町に化粧をせずに出かける事もほぼ日常と化している。
無罪であるわたくしを疑ったとして、王配である旦那様は自ら罰し、その罰としてわたくしに好きな事をして良いと言ってくれる。わたくしの公務は全て旦那様が引き受けるとさえ言って下さった。
なのでわたくしはそれに甘えて、毎日お料理したり、走り回ったりしている。
今度、釣りと狩りも教えて貰うつもりだ。
「どう?美味しい?」
夕食時。旦那様にわたくしの作った料理が出される。
「あぁ、旨い。ありがとう。あー…アティ」
照れたように呼ばれたその呼び方は、今はいない、庭師の子供がわたくしを呼ぶ時の愛称だった…
「……急にどうされました?旦那様?」
「いや…その…君が子供の頃に呼ばれていた愛称だと聞いたから……ダメだったか?…」
こちらを伺うようなその仕草は、子犬が甘えるような可愛らしさがある。
「いいえ…いいえ。嬉しいですわ」
嬉しくて、それでいて懐かしくて。わたくしの頬を温かい涙伝った。
質素なワンピースで籠を持って歩く女性に八百屋から声が飛ぶ。
「あら。本当。美味しそうね」
にこにこと笑顔で答えるのは、最近よく見かける女性だ。
人当たりの良い笑顔で答える彼女に、数件離れた魚屋からも声がかかる。
「奥さん!奥さんの為に一番いい魚取っといたよ!安くしてやるよ!」
「ありがとう。嬉しいわ。お野菜買ったら寄るわね」
八百屋で目的の物を買って、魚屋に向かう。その途中で肉屋にも呼び止められるけれど
「ごめんなさい、今夜はお魚って決めてるの。また明日来るわね」
そう謝って通り過ぎる。
彼女ほど礼儀正しい人はいないと、市場ではもっぱらの評判だ。
肩までの髪のせいで初めはスラムの遊女か死刑受刑者かと噂されたけれど、『裁きの谷』で無罪となった国王妃殿下が肩までの髪との事で、最近では髪を短くした女性が増えてきている。
彼女のような礼儀正しい女性が遊女のわけがないから、彼女も王妃殿下に肖って短くしているのだろう。
「いやだわ。もうこんな時間。急いで帰らないと、お夕飯に間に合わないわ」
バタバタと大きな歩幅で走る。
荷物を持っているから全力疾走は難しいけれど、それでも走ると息は上がるがそれが心地良く感じる。
「ただいま!」
バンッと大きな音を立てて扉を開くのも最近の楽しみ。
中にいる人が毎回驚いたように目を丸くさせるのだ。
「今日は良いお魚が手に入ったから、煮魚と…お野菜は炒めましょうか」
ふふふっと笑ってそのまま部屋から出て厨房へ向かう。
背後で小さく「おかえり」という声が聞こえて頬が緩む。
「旦那様の分は焼き魚にしてさしあげますわ。わたくし、もう両方とも作れるようになりましてよ」
『旦那様』は煮魚が苦手なのを最近知った。
煮魚よりも塩と香辛料を強めに振った焼き魚がお好きなのよね。
厨房に行って下拵えをする。
初めて作った料理は味も薄くて芯も残っていて美味しいと言えるものではなかったけれど、最近は腕を上げてきて、料理長に「凄く美味しいです」と褒められるようにもなった。
旦那様に「化粧をしているのとしていないのとでは別人だな」と言われたので、下町に化粧をせずに出かける事もほぼ日常と化している。
無罪であるわたくしを疑ったとして、王配である旦那様は自ら罰し、その罰としてわたくしに好きな事をして良いと言ってくれる。わたくしの公務は全て旦那様が引き受けるとさえ言って下さった。
なのでわたくしはそれに甘えて、毎日お料理したり、走り回ったりしている。
今度、釣りと狩りも教えて貰うつもりだ。
「どう?美味しい?」
夕食時。旦那様にわたくしの作った料理が出される。
「あぁ、旨い。ありがとう。あー…アティ」
照れたように呼ばれたその呼び方は、今はいない、庭師の子供がわたくしを呼ぶ時の愛称だった…
「……急にどうされました?旦那様?」
「いや…その…君が子供の頃に呼ばれていた愛称だと聞いたから……ダメだったか?…」
こちらを伺うようなその仕草は、子犬が甘えるような可愛らしさがある。
「いいえ…いいえ。嬉しいですわ」
嬉しくて、それでいて懐かしくて。わたくしの頬を温かい涙伝った。
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