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使者の道
出口
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蛇は真っ二つになりながらもピクピクと動いていたが、しばらくすると頭と尻尾から徐々にチリになり消えていった。
「…助かったぁ!!」
どさっとシュートが座り込んだ。ミックもホッとして、構えていた弓矢を下ろした。
「動物のガラって、初めて見たな。」
ミックはシュートの横に一緒に座って水分補給した。喉がカラカラだ。
「動物のガラは…恐らく存在しない。元々…人のガラが……魔力を用いて变化したという説が…有力だ。」
ラズはミックたちにふらふらと近づきながら、剣を鞘に収めた。怪我をしているようだ。血がポタポタと滴り落ちている。息も苦しそうだ。
ミックはラズに向かって駆け出した。
「ぐずぐずはしていられない。先にすす…。」
言い切らず倒れ込むラズを、ミックはかろうじて抱きとめた。右腕からかなり出血している。息が荒く体が熱い。意識はない。
「よく見せてくれ!」
シュートの指示でラズをゆっくり横たわらせた。シュートは服を脱がせ傷の状態を確認して止血のため包帯を巻いたり脈を測ったりした。
「噛まれたんだな。あの蛇、毒もってやがった…!」
「そんな…大丈夫なの?」
こういう時、こんなことしか言えず役に立てない自分がもどかしかった。
「普通の蛇の毒と変わらないんだったら、大丈夫だ。血清を持ってる。とりあえずは打つ。」
シュートの指示で荷物の中から医療パックを取り出した。シュートは慣れた手付きで瓶と注射器を取り出し、ラズの腕を消毒して血清を打った。
「ミック、ここガーゼでしばらく押さえててくれ。」
注射を打ったところをミックは押さえた。
「まずいな…貫通してる。出血が止まんねぇ。」
ラズの顔は青白い。包帯はもう真っ赤に染まっていた。シュートは手早く汚れた包帯を外した。
「シュート、凍らせるのは?」
新しい包帯をミックから手渡されるのを待っていたシュートは、一瞬ポカンとした顔をした。
「その手があったか!手荒いやり方だか仕方ねぇ。緊急事態だ。」
シュートは傷口に手を当てた。目を閉じて集中しているようだ。パキパキパキとラズの傷口が凍った。傷口が氷で覆い尽くされ、出血は止まった。
できるだけ早く医療機関に連れて行って然るべき処置を施すべきだということで、ミックがラズを背負い、シュートが少し明るめに篝瓶を輝かせて視界を良くして走った。
揺らさないほうがいいと言われたので、上体がぶれないよう気を付けた。ラズのことが心配で、重さを苦痛に感じる余裕もなかった。
とはいえ、疲労は溜まっていく。ラズを支えている腕が痺れて、おぶったまま走るのが難しくなってきた頃、突然行き止まりになった。
「マジかよ!くそっ!」
シュートがダメ元で体当りした。すると、くるりと壁が回って向こう側へシュートは消えてしまった。
「シュート!?」
「やったぞ、ミック!出口だ!」
シュートの元気な声が返ってきた。ミックも頭でぐいっと壁を押して反対側へ出た。
倉庫のようだった。人の気配はない。ミックたちが出てきたところは、こちら側から見るとただのレンガの壁だった。
よく見ると、ベルのタトゥーと同じ鳥のシルエットが小さく描かれていた。
倉庫から出ると、静かな人通りのない通りだった。バートにあった入り口の水車小屋のように、あまり人が寄り付かないところに出口を作ったのだろうか。
ミック達は人を見つけて聞き込み、この街がマルビナで間違いないこと、病院の場所、大図書館の場所等を教えてもらった。
病院への道の途中、広場を横切った。そこでは、さすらい人の一団が興行を行っていた。
「あれ、ディル?!」
「マジか!」
足を止めなかったためきちんと確認できなかったが、おそらく間違いない。梯子の上に逆立ちし、そこから下の的に向かってナイフを投げていた。
病院に着くとすぐに治療室へとラズは運び込まれた。シュートは医師だということで一緒に入っていったが、ミックは廊下で待つことになった。
背負っている時、ラズはとても熱かった。毒が強力でないものであることを祈った。
右腕も、また元のように動くといい。
時間の感覚が麻痺していて、どのくらい経ったかわからなかったがシュートが治療室から出てきた。
「右腕の怪我は大丈夫だ。ミックが氷で止血するのを提案してくれたおかげだ。」
ミックはホッとしてヘナヘナと床に座り込んでしまった。
「良かったぁ…。」
「ただ…。」
マスクを外したシュートの顔が曇った。
「まだ意識はなくて、毒がどのくらい体に影響を与えているかわかんねぇ。」
ガラの蛇の毒だ。きっと今までに症例がないのだろう。確かなことはきっと誰にもわからない。
「診た感じでは、数日後にはきっと目を覚ますはずだ。だけど、俺は念の為図書館で文献当たってみる。」
「わかった。私はディル達に合流して状況を伝えるよ。」
ラズは入院することになり、病室へ移された。宿が決まったらもう一度来ると受付には伝えて、ミックとシュートはそれぞれの目的地へ向かった。
先程の広場へ戻ると、ちょうど興行が終わったようで、人々が解散していた。さすらい人達は大道具、小道具、飾りなど様々なものを撤収していた。その中に、ベルとディルの姿があるのを見つけて、ミックは駆け寄った。
「ミック、無事だったのね!」
ベルがぎゅっと抱きしめた。肋骨が折れそうだったが、ベルが元気そうでミックは嬉しかった。
「ラズとシュートは?」
ディルは周囲をキョロキョロと見回した。ミックは手短に別れてから今までにあったことを伝えた。
「それは、大変だったわね。私達、言われた通り大図書館の隣の宿に部屋を取ったの。そこでゆっくり話し合いましょう。」
ベルとディルはさすらい人達に挨拶して、一団をあとにし、ミックを宿屋へ案内した。部屋でベルとディルは、自分たちの状況を説明した。
「…助かったぁ!!」
どさっとシュートが座り込んだ。ミックもホッとして、構えていた弓矢を下ろした。
「動物のガラって、初めて見たな。」
ミックはシュートの横に一緒に座って水分補給した。喉がカラカラだ。
「動物のガラは…恐らく存在しない。元々…人のガラが……魔力を用いて变化したという説が…有力だ。」
ラズはミックたちにふらふらと近づきながら、剣を鞘に収めた。怪我をしているようだ。血がポタポタと滴り落ちている。息も苦しそうだ。
ミックはラズに向かって駆け出した。
「ぐずぐずはしていられない。先にすす…。」
言い切らず倒れ込むラズを、ミックはかろうじて抱きとめた。右腕からかなり出血している。息が荒く体が熱い。意識はない。
「よく見せてくれ!」
シュートの指示でラズをゆっくり横たわらせた。シュートは服を脱がせ傷の状態を確認して止血のため包帯を巻いたり脈を測ったりした。
「噛まれたんだな。あの蛇、毒もってやがった…!」
「そんな…大丈夫なの?」
こういう時、こんなことしか言えず役に立てない自分がもどかしかった。
「普通の蛇の毒と変わらないんだったら、大丈夫だ。血清を持ってる。とりあえずは打つ。」
シュートの指示で荷物の中から医療パックを取り出した。シュートは慣れた手付きで瓶と注射器を取り出し、ラズの腕を消毒して血清を打った。
「ミック、ここガーゼでしばらく押さえててくれ。」
注射を打ったところをミックは押さえた。
「まずいな…貫通してる。出血が止まんねぇ。」
ラズの顔は青白い。包帯はもう真っ赤に染まっていた。シュートは手早く汚れた包帯を外した。
「シュート、凍らせるのは?」
新しい包帯をミックから手渡されるのを待っていたシュートは、一瞬ポカンとした顔をした。
「その手があったか!手荒いやり方だか仕方ねぇ。緊急事態だ。」
シュートは傷口に手を当てた。目を閉じて集中しているようだ。パキパキパキとラズの傷口が凍った。傷口が氷で覆い尽くされ、出血は止まった。
できるだけ早く医療機関に連れて行って然るべき処置を施すべきだということで、ミックがラズを背負い、シュートが少し明るめに篝瓶を輝かせて視界を良くして走った。
揺らさないほうがいいと言われたので、上体がぶれないよう気を付けた。ラズのことが心配で、重さを苦痛に感じる余裕もなかった。
とはいえ、疲労は溜まっていく。ラズを支えている腕が痺れて、おぶったまま走るのが難しくなってきた頃、突然行き止まりになった。
「マジかよ!くそっ!」
シュートがダメ元で体当りした。すると、くるりと壁が回って向こう側へシュートは消えてしまった。
「シュート!?」
「やったぞ、ミック!出口だ!」
シュートの元気な声が返ってきた。ミックも頭でぐいっと壁を押して反対側へ出た。
倉庫のようだった。人の気配はない。ミックたちが出てきたところは、こちら側から見るとただのレンガの壁だった。
よく見ると、ベルのタトゥーと同じ鳥のシルエットが小さく描かれていた。
倉庫から出ると、静かな人通りのない通りだった。バートにあった入り口の水車小屋のように、あまり人が寄り付かないところに出口を作ったのだろうか。
ミック達は人を見つけて聞き込み、この街がマルビナで間違いないこと、病院の場所、大図書館の場所等を教えてもらった。
病院への道の途中、広場を横切った。そこでは、さすらい人の一団が興行を行っていた。
「あれ、ディル?!」
「マジか!」
足を止めなかったためきちんと確認できなかったが、おそらく間違いない。梯子の上に逆立ちし、そこから下の的に向かってナイフを投げていた。
病院に着くとすぐに治療室へとラズは運び込まれた。シュートは医師だということで一緒に入っていったが、ミックは廊下で待つことになった。
背負っている時、ラズはとても熱かった。毒が強力でないものであることを祈った。
右腕も、また元のように動くといい。
時間の感覚が麻痺していて、どのくらい経ったかわからなかったがシュートが治療室から出てきた。
「右腕の怪我は大丈夫だ。ミックが氷で止血するのを提案してくれたおかげだ。」
ミックはホッとしてヘナヘナと床に座り込んでしまった。
「良かったぁ…。」
「ただ…。」
マスクを外したシュートの顔が曇った。
「まだ意識はなくて、毒がどのくらい体に影響を与えているかわかんねぇ。」
ガラの蛇の毒だ。きっと今までに症例がないのだろう。確かなことはきっと誰にもわからない。
「診た感じでは、数日後にはきっと目を覚ますはずだ。だけど、俺は念の為図書館で文献当たってみる。」
「わかった。私はディル達に合流して状況を伝えるよ。」
ラズは入院することになり、病室へ移された。宿が決まったらもう一度来ると受付には伝えて、ミックとシュートはそれぞれの目的地へ向かった。
先程の広場へ戻ると、ちょうど興行が終わったようで、人々が解散していた。さすらい人達は大道具、小道具、飾りなど様々なものを撤収していた。その中に、ベルとディルの姿があるのを見つけて、ミックは駆け寄った。
「ミック、無事だったのね!」
ベルがぎゅっと抱きしめた。肋骨が折れそうだったが、ベルが元気そうでミックは嬉しかった。
「ラズとシュートは?」
ディルは周囲をキョロキョロと見回した。ミックは手短に別れてから今までにあったことを伝えた。
「それは、大変だったわね。私達、言われた通り大図書館の隣の宿に部屋を取ったの。そこでゆっくり話し合いましょう。」
ベルとディルはさすらい人達に挨拶して、一団をあとにし、ミックを宿屋へ案内した。部屋でベルとディルは、自分たちの状況を説明した。
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