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姫の願い
オーリッツ
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オーリッツまでは、ベルの予言通りガラの接触はまったくなかった。王子の刺客以外では、一度野盗に絡まれたが、これもベルの言った通りさすらい人はみんな戦闘力が高く返り討ちにして終わった。下手すると兵士より強いのでは…とミックは驚いた。訓練の多い兵士より実践の多いさすらい人の方が、力は付きやすいのかもしれない。
オーリッツは薬草の名産地だ。ずらっと見渡す限りの薬草畑が広がる丘で、リードが教えてくれた。
鷹の塊の一団は畑の手前に待機していた。まずはリードが村長に興行の許可を貰いに行くのだ。
ミック達は宿に泊まるので、リードと共に村へ向かった。
「あ、あれ…。」
ディルが何か言いかけてやめた。珍しい。
「どうしたの?あ、何かあそこだけ変わってるね。なんだろ?」
薬草畑の中で有刺鉄線に囲まれた一角があった。ディルが一瞬困ったような顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻った。
「あれは…ユーリナ病に効く薬草だよ。」
「何だ、ユー…なんたらって?」
ディルの言葉にリードが首を傾げた。ミックも聞いたことがない。
「一昔前に流行った伝染病だ。感染すると、高熱と咳が続いて大概数日で命を落とす。感染力も高くて、村一個なくなるなんてこともあったらしいぜ。」
シュートが答えた。さすが医者だ。そんな恐ろしい病があったなんて、とミックは震えた。
「でも、今ディルが言ったあの薬草、月雫草(つきしずくそう)っていうんだけど、あれが特効薬ってわかってからは、そんなに脅威でもないんだ。月雫草は育てるのが難しいし、今となってはユーリナ病も落ち着いているから、あまり出回ってはいないんだけどな。お前、よくユーリナ病のこと知ってたなぁ。医者でも知らねぇ奴いるのに。」
シュートは感心したようにディルを見た。
「あ、まあ、ね。前に立ち寄った街で教えてもらったことがあるんだ。」
「さすらい人は物知りだね!」
ミックはこの旅で色々な知識を得ているので、旅から戻ったらロッテをかなり驚かせることができるのではないかと思った。
畑の道を進んだ先に可愛らしい村があった。石造りの素朴な家が並んでいる。集合住宅が犇めくように立ち並んでいたマルビナとは、また違った雰囲気だ。玄関先にはバスケットに入った花が飾られている。
村の中央には広場があり、そこに面した一際大きな家が、村長の住処だった。村長は快く鷹の塊の興行を許してくれた。ミック達は宿屋を教えてもらい、リードとは別れた。
宿屋の部屋を無事確保した一行は、二手に分かれる事になった。ベルとディルは、マルビナのときと同じように鷹の塊と見世物をする。
「ゾルの調査をしたいところだけど、やっぱりお礼はしないとね。」
そう言いながらディルは首から下げていた姫の力が籠もった石の入った巾着を、ラズに手渡した。
「そっちに調査は任せるよ。」
「悪いけど、よろしくね!」
ベルはウインクしてディルと共に鷹の塊の一団が待っている畑の方へと行ってしまった。
「どうやって調べるよ?ここには情報屋はないってリードは言ってたしな。」
ラズが持つ巾着を眺めながらシュートは肩をすくめた。ラズが紐の部分を持つと僅かに北に引っ張られた。
「この方角へ進みながら聞き取りしていく。俺はこっちの道を行く。貴様とミックはあっちだ。」
「何で二手?三手に別れたほうが聞き取りは早いんじゃない?」
ミックの言葉にラズはため息をついた。
「貴様、旅の本当の目的を隠して詳しく聞き取りをできるのか?」
う、と言葉が詰まった。確かに、一言、二言話すだけならどうにかなるかもしれないが、会話が長くなるとうまく嘘をつききれないかもしれない。
「ははっ、だな!ミックは俺と一緒に行こうぜ。」
「うぅ、よろしくお願いします…。」
集合場所と時間を決めて、ミック達は調査を開始した。村の人々は皆素朴で優しい雰囲気で、嫌な顔一つせず話をしてくれた。ミックはシュートの後ろで聞いていただけだが。
村人達の話から、明確にゾルやガラを見たというものは出てこなかった。しかし、全員がもし怪しいとしたら誰も寄りつかない北の洋館だと口を揃えて言った。
「昔の地主の家なのよ。でも、何十年も前にガラだかゾルだかに襲われたらしくて、それからは誰も近寄ってないの。ここからは、歩いて一時間位よ。」
「襲われたらしいってことは、聞いた話ってことか?」
シュートは顎に手をやり首を傾げた。
「ええ。昔の話だからっていうのもあるけど…ある日突然地主が村や畑に顔を出さなくなったそうよ。それまでは毎日来てたのに。で、おかしいと思って様子を見に行った村人はみんな帰ってきてないのよ。」
それは、誰も訪れなくなるわけだ。ガラではなく野盗などに襲われた可能性もあるが、要チェックだ。
「なんだか気になる話だね。例のガラかも?」
「例の?」
村人が不思議そうな顔をしている。しまった、口が滑った。ミックは口を手で覆った。シュートが肘で脇腹を突いてきた。
「いや、何でもないんだ。コイツは色んなガラの記録を読んでるから思い当たるやつがいるみたいで…失礼します!」
シュートが慌ててごまかし、村人の女性から遠ざかった。
オーリッツは薬草の名産地だ。ずらっと見渡す限りの薬草畑が広がる丘で、リードが教えてくれた。
鷹の塊の一団は畑の手前に待機していた。まずはリードが村長に興行の許可を貰いに行くのだ。
ミック達は宿に泊まるので、リードと共に村へ向かった。
「あ、あれ…。」
ディルが何か言いかけてやめた。珍しい。
「どうしたの?あ、何かあそこだけ変わってるね。なんだろ?」
薬草畑の中で有刺鉄線に囲まれた一角があった。ディルが一瞬困ったような顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻った。
「あれは…ユーリナ病に効く薬草だよ。」
「何だ、ユー…なんたらって?」
ディルの言葉にリードが首を傾げた。ミックも聞いたことがない。
「一昔前に流行った伝染病だ。感染すると、高熱と咳が続いて大概数日で命を落とす。感染力も高くて、村一個なくなるなんてこともあったらしいぜ。」
シュートが答えた。さすが医者だ。そんな恐ろしい病があったなんて、とミックは震えた。
「でも、今ディルが言ったあの薬草、月雫草(つきしずくそう)っていうんだけど、あれが特効薬ってわかってからは、そんなに脅威でもないんだ。月雫草は育てるのが難しいし、今となってはユーリナ病も落ち着いているから、あまり出回ってはいないんだけどな。お前、よくユーリナ病のこと知ってたなぁ。医者でも知らねぇ奴いるのに。」
シュートは感心したようにディルを見た。
「あ、まあ、ね。前に立ち寄った街で教えてもらったことがあるんだ。」
「さすらい人は物知りだね!」
ミックはこの旅で色々な知識を得ているので、旅から戻ったらロッテをかなり驚かせることができるのではないかと思った。
畑の道を進んだ先に可愛らしい村があった。石造りの素朴な家が並んでいる。集合住宅が犇めくように立ち並んでいたマルビナとは、また違った雰囲気だ。玄関先にはバスケットに入った花が飾られている。
村の中央には広場があり、そこに面した一際大きな家が、村長の住処だった。村長は快く鷹の塊の興行を許してくれた。ミック達は宿屋を教えてもらい、リードとは別れた。
宿屋の部屋を無事確保した一行は、二手に分かれる事になった。ベルとディルは、マルビナのときと同じように鷹の塊と見世物をする。
「ゾルの調査をしたいところだけど、やっぱりお礼はしないとね。」
そう言いながらディルは首から下げていた姫の力が籠もった石の入った巾着を、ラズに手渡した。
「そっちに調査は任せるよ。」
「悪いけど、よろしくね!」
ベルはウインクしてディルと共に鷹の塊の一団が待っている畑の方へと行ってしまった。
「どうやって調べるよ?ここには情報屋はないってリードは言ってたしな。」
ラズが持つ巾着を眺めながらシュートは肩をすくめた。ラズが紐の部分を持つと僅かに北に引っ張られた。
「この方角へ進みながら聞き取りしていく。俺はこっちの道を行く。貴様とミックはあっちだ。」
「何で二手?三手に別れたほうが聞き取りは早いんじゃない?」
ミックの言葉にラズはため息をついた。
「貴様、旅の本当の目的を隠して詳しく聞き取りをできるのか?」
う、と言葉が詰まった。確かに、一言、二言話すだけならどうにかなるかもしれないが、会話が長くなるとうまく嘘をつききれないかもしれない。
「ははっ、だな!ミックは俺と一緒に行こうぜ。」
「うぅ、よろしくお願いします…。」
集合場所と時間を決めて、ミック達は調査を開始した。村の人々は皆素朴で優しい雰囲気で、嫌な顔一つせず話をしてくれた。ミックはシュートの後ろで聞いていただけだが。
村人達の話から、明確にゾルやガラを見たというものは出てこなかった。しかし、全員がもし怪しいとしたら誰も寄りつかない北の洋館だと口を揃えて言った。
「昔の地主の家なのよ。でも、何十年も前にガラだかゾルだかに襲われたらしくて、それからは誰も近寄ってないの。ここからは、歩いて一時間位よ。」
「襲われたらしいってことは、聞いた話ってことか?」
シュートは顎に手をやり首を傾げた。
「ええ。昔の話だからっていうのもあるけど…ある日突然地主が村や畑に顔を出さなくなったそうよ。それまでは毎日来てたのに。で、おかしいと思って様子を見に行った村人はみんな帰ってきてないのよ。」
それは、誰も訪れなくなるわけだ。ガラではなく野盗などに襲われた可能性もあるが、要チェックだ。
「なんだか気になる話だね。例のガラかも?」
「例の?」
村人が不思議そうな顔をしている。しまった、口が滑った。ミックは口を手で覆った。シュートが肘で脇腹を突いてきた。
「いや、何でもないんだ。コイツは色んなガラの記録を読んでるから思い当たるやつがいるみたいで…失礼します!」
シュートが慌ててごまかし、村人の女性から遠ざかった。
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