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潜入
思い出した真実
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ゆらゆらと周囲の景色が揺れ動き、真っ暗になった。ベルの姿だけがぼんやりと見えた。
「どういうことだ…?」
ベルがしっとラズの口を塞いだ。真っ暗な空間の中にポツンとミックがうずくまっていた。幼い頃の姿ではない。今のミックだ。頭を抱えて何かぶつぶつ言っている。
「さっきのは、ミックの夢ね。で、今は夢っていうより心そのものの中。」
どういう仕組みで何がどう違うのかよく分からなかったが、ラズは頷いた。
「ミックに接触しましょう。でも、慎重に。言葉一つで本当に心が壊れてしまうことがあるから。」
二人は蹲っているミックに近づいた。ベルに促され、ラズはミックの肩に手を置き、話しかけた。
「ミック。」
ミックはびくっとして顔を上げた。泣いていた。
「ラズ…?それにベルも?」
ミックは立ち上がった。
「あなたを迎えに来たわ。暗闇の中に一人でいないで、一緒に戻りましょう。」
ベルが微笑んだ。ミックは不思議そうな顔をしたが、すぐに首を振った。
「私はこれから、どうしたらいいのかわからない。全部思い出しちゃったんだ。父さんをこの手で斬っておいて…何の償いもせずのうのうと…父さんの姿に憧れて生きていた。」
「お前は殺していない。悪いが、俺達は見たんだ。」
ミックは哀しい笑みを浮かべた。
「思い出したんだ。ラズ、前に私に双子の姉妹がいないか聞いたよね?」
ラズは頷いた。バートで初めて理望に会ったあと、確かにミックに尋ねた。その時ミックはいない、と答えた。
「嘘じゃないよ。私には生きている双子の姉妹はいない。でも、死んでしまった双子の姉はいたんだ。産まれてきたときに、既に息がなかった。」
実は生きていたということか?いや、わざわざ双子の姉が死んだとミックに嘘を付く理由は、誰にもない。それに、先程見たものは…。
「生まれる前に受ける名付けの儀式、その時はまだ双子の片方が亡くなっているとは誰も知らなくて…いや、付けたあとに亡くなったかもしれないけど…二人分の名前を付けたんだ。理望と路望。私は偶然、二つの真名を持って生まれてきた。」
ラズとベルは驚きで言葉が出なかった。そんなことが起きるとは…。真名は一人一つだ。過去に名付けの儀式で複数の真名を付けようとした者がいたらしいが、ただの長い名前になってしまい失敗に終わったという話だ。ミックの場合は、双子の姉が亡くなったという偶然によって実現したということになる。
「私も家族も誰も二つ真名があるなんて知らなかったんだ。でも、あの日『理望』を知られてもまだ私がこの体で存在することができたのは、『路望』を真名として持っていたから…。」
あの日以来、ミックは「理望」という真名を忘れてしまっていた。それにまつわる双子の姉の話もだ。
「ゾルに体を乗っ取られていても、意識はあったんだ。だから…私がもっと強くてすぐにあのゾルを追い出せていれば…父さんは死ななかった。夜の森で素振りなんてしなければ…そもそも剣の道になんて進まなければ…父さんを斬ることなんてなかった。」
それが剣を握れなかった本当の理由か、とラズは合点がいった。本人も忘れてしまっていた本当の理由。守れなかった無力感などではない。自分が殺してしまったという罪悪感やその恐ろしい事実を、封じ込めていたのだ。
「私は…父さんに憧れて近衛兵になった。この旅も、父さんのようにみんなを安心させられる存在になれると思って、続けてきた。でも…もう、私にその資格があるとは思えない。」
ミックは自分の両手を見つめ、その手で自分の体をぎゅっと抱きしめた。まるで自分で自分を握りつぶそうとでもするように。
「資格なんて関係ない!とにかく、戻るんだ。ここで、一人自分を責め続けても何もならない。」
ラズがミックに更に近づこうとするのをベルが止めた。
「魔力が尽きそうだわ。一旦戻るわよ。」
こんな真っ暗なところにあんな状態のミックを置いて行きたくなかった。しかし、ベルの力は強く、ラズの腕を掴んで離さなかった。
「ラズ、目をつぶって!ミック、また来るわ!」
ベルは腕を振り払おうとするラズをしっかりと握りしめ、もう片方の手で無理やり目を覆って閉じさせた。
「どういうことだ…?」
ベルがしっとラズの口を塞いだ。真っ暗な空間の中にポツンとミックがうずくまっていた。幼い頃の姿ではない。今のミックだ。頭を抱えて何かぶつぶつ言っている。
「さっきのは、ミックの夢ね。で、今は夢っていうより心そのものの中。」
どういう仕組みで何がどう違うのかよく分からなかったが、ラズは頷いた。
「ミックに接触しましょう。でも、慎重に。言葉一つで本当に心が壊れてしまうことがあるから。」
二人は蹲っているミックに近づいた。ベルに促され、ラズはミックの肩に手を置き、話しかけた。
「ミック。」
ミックはびくっとして顔を上げた。泣いていた。
「ラズ…?それにベルも?」
ミックは立ち上がった。
「あなたを迎えに来たわ。暗闇の中に一人でいないで、一緒に戻りましょう。」
ベルが微笑んだ。ミックは不思議そうな顔をしたが、すぐに首を振った。
「私はこれから、どうしたらいいのかわからない。全部思い出しちゃったんだ。父さんをこの手で斬っておいて…何の償いもせずのうのうと…父さんの姿に憧れて生きていた。」
「お前は殺していない。悪いが、俺達は見たんだ。」
ミックは哀しい笑みを浮かべた。
「思い出したんだ。ラズ、前に私に双子の姉妹がいないか聞いたよね?」
ラズは頷いた。バートで初めて理望に会ったあと、確かにミックに尋ねた。その時ミックはいない、と答えた。
「嘘じゃないよ。私には生きている双子の姉妹はいない。でも、死んでしまった双子の姉はいたんだ。産まれてきたときに、既に息がなかった。」
実は生きていたということか?いや、わざわざ双子の姉が死んだとミックに嘘を付く理由は、誰にもない。それに、先程見たものは…。
「生まれる前に受ける名付けの儀式、その時はまだ双子の片方が亡くなっているとは誰も知らなくて…いや、付けたあとに亡くなったかもしれないけど…二人分の名前を付けたんだ。理望と路望。私は偶然、二つの真名を持って生まれてきた。」
ラズとベルは驚きで言葉が出なかった。そんなことが起きるとは…。真名は一人一つだ。過去に名付けの儀式で複数の真名を付けようとした者がいたらしいが、ただの長い名前になってしまい失敗に終わったという話だ。ミックの場合は、双子の姉が亡くなったという偶然によって実現したということになる。
「私も家族も誰も二つ真名があるなんて知らなかったんだ。でも、あの日『理望』を知られてもまだ私がこの体で存在することができたのは、『路望』を真名として持っていたから…。」
あの日以来、ミックは「理望」という真名を忘れてしまっていた。それにまつわる双子の姉の話もだ。
「ゾルに体を乗っ取られていても、意識はあったんだ。だから…私がもっと強くてすぐにあのゾルを追い出せていれば…父さんは死ななかった。夜の森で素振りなんてしなければ…そもそも剣の道になんて進まなければ…父さんを斬ることなんてなかった。」
それが剣を握れなかった本当の理由か、とラズは合点がいった。本人も忘れてしまっていた本当の理由。守れなかった無力感などではない。自分が殺してしまったという罪悪感やその恐ろしい事実を、封じ込めていたのだ。
「私は…父さんに憧れて近衛兵になった。この旅も、父さんのようにみんなを安心させられる存在になれると思って、続けてきた。でも…もう、私にその資格があるとは思えない。」
ミックは自分の両手を見つめ、その手で自分の体をぎゅっと抱きしめた。まるで自分で自分を握りつぶそうとでもするように。
「資格なんて関係ない!とにかく、戻るんだ。ここで、一人自分を責め続けても何もならない。」
ラズがミックに更に近づこうとするのをベルが止めた。
「魔力が尽きそうだわ。一旦戻るわよ。」
こんな真っ暗なところにあんな状態のミックを置いて行きたくなかった。しかし、ベルの力は強く、ラズの腕を掴んで離さなかった。
「ラズ、目をつぶって!ミック、また来るわ!」
ベルは腕を振り払おうとするラズをしっかりと握りしめ、もう片方の手で無理やり目を覆って閉じさせた。
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