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鈴木まる

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もう1つの姿

ドラゴン

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「ラズ、どっち?!」

ミックは警戒すべき方向がわからず、当たりを見回しながらラズに問いかけた。しかし、返事がない。

「お前、ラズを離せ!!」

シュートの声にはっとしてラズに目を向けると、そこには理望がいた。ラズの首を絞めるようにがっしりと捕まえている。もう片方の手で、ラズの両手を掴み、手首をひねって剣を落とさせた。ものすごい腕力だ。

「貴様っ…!離っ…。」

理望は抵抗するラズの首をぐっと締め黙らせた。

「余計なことしてくれたね。君でしょ、ラズ?あとそこの占い師崩れの女。」

理望は氷のように冷たい目をベルに向けた。ベルはこんなに寒いのにダラダラと汗をかき始めた。

本当に自分と同じ顔だ。気味が悪い。ミックは魔力量を感知することはできないが、それでも半端ではない威圧感を感じた。自分と理望の間には、圧倒的な力の差がある。

「ダンデ王にはしてやられたよ。こんなメンバーを入れるなんてさ。折角肉体を手に入れられたと思ったのに。ねぇ?」

理望はラズの腕を捻じりあげた。ラズが痛みで体をよじった。ミックは矢を理望に向けようとした。

「動かないで。こいつの首をへし折るなんて簡単なことなんだから。」

ミックは動きを止めた。どうしたらいい?ラズを助け出すにはどうしたら?

「私は怒ってるんだ。うっかり君を殺してしまいそうだけど、大事な戦力だから気をつけなくちゃ。あと、まだ試してみないといけないことがある。」

そう言って、ラズの両腕を抑えたまま、器用に左手首の数珠に触れた。バチッと音がして理望は顔をしかめた。

「城巫女が作ったのかな?なかなか強力だね。」
「やめろ!触るな!!」

ラズはこれまで見たことない程必死だ。つばを飛ばして叫んでおり、目は血走っている。渾身の力で体を動かそうとしているのか、額の血管は浮き出ている。

「やだね。君にとっては、命を取られるより残酷な仕打ちだよね。君の姿を見て彼らがどんな反応をするのか、そして君がどんな行動を取るのか、私はそれが見たくて仕方ないんだ。」

理望は残酷な笑みを浮かべた。

「やめろ!!外すな!!!貴様、殺してやる!」

もがくラズをものともせず理望はラズの左腕から数珠を外した。バチバチと激しい音がして、数珠を外した理望の手は消滅した。理望は全く意に介していないようだ。

「さあ、あとはお仲間で楽しんで。私は遠くから見守ってるよ。ラズ、こっち側に来たくなったらいつでもどうぞ。歓迎するよ。」

理望は物凄い速さで林の奥へと消えてしまった。しかし、ミックたちはそちらを見ていなかった。ラズは黒い靄に包まれた。モクモクとその靄が大きくなり、沼地の蟹ほどになると、その中からなんと、緋色のドラゴンが姿を現した。

ドラゴンには影がなかった。白目の部分も真っ黒だった。ガラだ。そうすると、ラズはどうなったのだ。

「ラズ…なの?」

恐る恐る近付こうとするミックに、ドラゴンは顔を向けグオーっ!!と鼓膜が破れそうなほど大きな声を放った。その時見えた瞳は、ラズと同じガーネット色だった。

ドラゴンはミックたちに背を向け、羽を動かし飛び立った。ものすごい風圧に、立っているのがやっとだった。飛び立つ瞬間見えた背中には、ラズがスピアから受けたのと同じ、傷跡があった。

「どういうことだ?」

あっという間の出来事に呆然としていた一行の沈黙を破ったのはシュートだ。ミックも同じ気持ちだ。一体どういうことなのだ。ベルがラズがいたあたりに落ちていた数珠を拾い上げた。

「これ、すごいわ。魔力がぎゅっと詰まってる。あと、闇を封じ込める複雑な呪文も。」

ラズはそれを片時も外さなかった。それを外すとあの姿になってしまうから?

「ラズは、ガラなのか…?でも、俺達と普通に行動してたし、影もあるし鏡にも写ってた。」

ディルは目の前で起きたことが信じられないといった顔をしている。

「ラズを追おう!何にせよ、ラズは大切な仲間だよ。」

ミックが暗闇に捕らえられている中、迎えに来てくれたラズが敵のはずがない。今までだって何度も助けてくれた。なにか事情があるに違いない。

 
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