みつけて、みつめて

鈴木まる

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なにを、どこに?

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 ほんの少し開いた窓から柔らかな風が吹き込み、ベッド周りのクリーム色のカーテンを揺らす。

「あれが見たかったな。確か6年生の時隠したのよ、ほら、小学校の…どこだったっけな…。」

母親はどうしても思い出せないようだった。

彼女の病状が悪化し、入院してから一週間が経つ。

今年小学校6年生になったあかりが、物心ついた時から、母親は入退院を繰り返していた。あかりに詳しい病名は知らされていなかったが、母親の体が弱いということだけはよくわかっていた。

最近より一層、母親は弱気になっていた。口から出る言葉は「またすぐ元気になるよ!」から「疲れちゃったな…。」といったものに変わっていた。一緒に話していてもぼんやりとしていて、目が合わない。
あかりには、母親は人生の終わりにゆるやかに自分から進んで行っているように見えた。それがたまらなく悲しくて嫌だった。

看護師がやって来て、面会時間の終了を控えめな笑顔であかりに伝えた。結局、母親が何をどこに隠したかよく分からぬままになってしまった。




 
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