みつけて、みつめて

鈴木まる

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 ぽん、と肩を叩かれてあかりは跳び上がった。

「うわっ、そんなにびっくりしなくても…。」

沙奈だった。テストを受け終わって帰るところだそうだ。校庭に佇むあかりを見つけて来たのだ。

「ってことは、1時間くらいしか経ってない…?」
「え、まあそうだね。」

沙奈は首を傾げつつも同意した。あかりはそっと自分の前髪に触れてみた。ピン留めはない。

沙奈には申し訳なかったが、一人で帰ってもらうようお願いした。

あかりは部活動をしている児童を装い、職員室の壁にかけてある鍵の中から、体育倉庫の鍵を取るふりをして記念館の鍵を取った。先生方からは死角になっている。ばれていない。

ドキドキしながら校庭を横切り、記念館の前に来た。鍵は簡単に開いた。

祈るように隅っこの床板を触ってみる。ぐらぐらと頼りなさげに緩んでいる。思い切って、あかりは床板を剥がした。

「ママのだ!」

床板のすぐ下にあの時菜々美が持っていたものと同じ缶があった。あかりはすぐにランドセルに入れ、床板を戻し、何食わぬ顔で職員室に鍵を返し、学校をあとにした。

ランドセルを背負ったまま、あかりは病院までかけていった。




 顔なじみになっている病院の受付の女の人は、あかりを見ると笑顔ですぐに通してくれた。

エレベーターを待つのがもどかしく、あかりは4階の病室まで階段を走り上がり病室へ駆け込む。

「ママ?」

母親は起きていた。文庫本から目を上げあかりを見やると、弱々しい笑みを浮かべた。あかりはランドセルから缶を取り出して母親に渡した。

「これ…どうやって…。」

母親は目を丸くして缶を見つめた。

「いいから、開けてみて!」

母親は頷いてさび付いた缶のふたを開けた。あかりが心配していたほど固くはなかったようで、案外すんなり開いた。中にはあかりが過去の世界で見た通り、ハート型に折られたノートのページがあった。

母親はおそるおそる手紙を開く。目で文字を追っていく。そして缶の中にもう一度目をやる。さびてしまったあかりのピン留めを取り出した。その目に涙が溜まっていく。

母親は、あかりの腕を掴みぐいっと引き寄せて抱きしめた。

「ありがとう、あかり。あの時も、今も、あなたはママを救ってくれた。ううん、いつもね。あなたが希望をくれるおかげで、ママは前を向けるの。」

しばらくしてから体を離したあかりは、はっとした。母親の顔には先ほどまでと違って、暗い影はなかった。目はしっかりとあかりをとらえている。今度はあかりから、母親に抱きついた。

医学的なことはあかりにはわからない。ただ確信を持てたことは、人は希望を見いだせるだけでとても強くなることができる、ということだった。それはきっと、時に病をも吹き飛ばしてしまうのだ。

あかりの母親は数日後退院し、また家族そろって過ごす日常が戻ってきた。




 桜の葉を透かして輝く、夏の太陽の光がまぶしく、心地よい。
周りのクラスメートが不思議そうに見ているのも気にせず、あかりは校庭の隅の神社にお参りし、心の中で神様とかえる様にお礼を言った。

「自分の目と頭と足を使った結果だよ。よかったね!」

鳥居の向こうに鎮座している石から、かえる様の声が聞こえた気がした。





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