ひみつ基地の神様

鈴木まる

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みんなの願い

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 道すがら、啓介たちは作戦を考えた。もしも、たくさんの人が協力してくれるなら、いったん別のところに集まった方がいい。あの秘密基地にこっそり行くのは、大人数だと難しい。

「みんなが集まっても大丈夫なところで、できればどんぐりとか拾えるところ…。」
「花山公園!」
「いや、だから花山公園に入れないから考えてるんじゃんか。」
「そうだよね…。」

啓介と大輝のとんちんかんなやり取りを聞いて美海が意見した。

「もういっそ、準備できた人から行ってもらった方がいいんじゃない?話を聞いてもらってから行ってもらうんだから、いっぺんにたくさんの人は行かないでしょ。」

美海の作戦で行くことにした。公園に忍び込めるところに大輝が立っておく。啓介と美海の話を聞いて協力する気になってくれた人にはそこへ行ってもらい、お供え物をしてもらうのだ。

最初は沙穂(さほ)の家だった。沙穂は美海と仲が良い。沙穂は玄関先で美海の話を聞くと、さっそく袋に何か入れて出てきてくれた。押し花だった。

「あんまり沢山はないんだけど…。」
「いいよいいよ!じゃあ、大輝がいるからお願いね。」

沙穂は少し不思議そうな顔をしつつも、花山公園の方へ向かってくれた。 

次の家は隆明(たかあき)だ。わりと教室で過ごすことが多いクラスの虫博士だ。

「これでもいいかな?」
「お、おう!」
「ひぃ…いいと、思う。」

ビニール袋のなかにはごっそりと蝉の抜け殻が入っていた。隆明らしいチョイスだ。美海は一瞬中を見た後、二度とそちらに顔を向けなかった。

そんな調子で、クラスメートにどんどんとお願いしていき、お供えに行ってもらった。中には自分の妹や弟など兄弟と一緒に行ってもいいかと言ってくれる者もいた。多ければ多いほどありがたいので、ぜひにとお願いした。

お供え物にとクラスメートたちが出してくれた物の中には、きらきらした砂や蝶の羽など、今まで見たことないものもあり、啓介は純粋に楽しんでしまった。また、友達の知らない一面も知ることができ、嬉しかった。

夕方になり、そろそろ家へ帰る時間になってから、ようやく啓介と美海は公園の柵の外で待っている大輝と落ち合った。

「二人ともすげぇな!どんどん来てくれたぜ!ほとんど全員だ。」

秘密基地の中でぎゅうぎゅうになりながら大輝は興奮気味に言った。神様は様々なお供え物を見て、にこにこと嬉しそうにしている。

「すごいのう。わしはこんなに人に信じてもらえたのは久しぶりじゃ。これだけあれば、あの計画を止めることはできるかもしれぬ。」



 次の日、学校では神様の話で持ちきりだった。先生たちにも児童らがこそこそと興奮気味に「神様が…」「お供え物を…」と話しているのが聞こえてはいたが、テレビ番組か漫画かの話でもしているのかと、あまり気に留めていなかった。

今日もまた、たくさんの人がお供え物をしに来てくれそうだった。一気にたくさん来ると大人に見つかって止められそうだったので、啓介たちはまた作戦を考えた。

「大輝には昨日と同じように柵の近くに立ってもらって、俺と美海は少し離れたところで、お供え物をしたい人を捕まえるんだ。で、この整理券を渡す。」

自由帳のページを破いて作った、10分刻みで時刻を書いた紙を啓介は二人に見せた。

「この時刻にまた来てもらうんだ。混んでなければ無理に渡さないで、そのまま行ってもらおう。」

 啓介たちがその作戦でお供え物を収集し、3日が経った。もはや4年生だけではなく、いろんな学年の子供たちがお供え物をしに来ていた。幼稚園生の子が来ることもあった。

夕方になり、今日はもう終わりにしようと神様のいる秘密基地の中に、三人は集まった。お供え物がたくさんあり、ほとんど足の踏み場がなかった。神様は嬉しそうに目を細めて様々なお供え物を眺めていた。

「もう大丈夫じゃ。この計画を完全に止めることができそうじゃ。啓介、大輝、美海、ありがとう。」

神様は一人ひとりと目を合わせてお礼を言った。啓介はとても誇らしい気持ちになった。

「でも、突然お供え物いらないって言っても、みんな来ちゃうかもね。」

美海が困った表情をした。神様は安心すんじゃと手を振った。

「大丈夫じゃ。お主らが何かせずとも、あとは全てうまく行く。心配するでない。わしにはお供え物とみんなの信じる心がついているからのう。」

啓介たちはとても満ち足りた気持ちで、秘密基地をあとにした。その時は、二度とそこには戻れないとは、思いもしなかった。
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