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第七章 酒呑童子の想い

第38話

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「そうじゃなかったんだ。酒呑童子は力を弱めてくれた頼光に感謝していたんだよ。再び人間に近い状態に戻してくれたからね。それがたとえ長い眠りにつく必要があったとしてもね」

 大祇はてっきり、酒呑童子は頼光を憎んで、その子孫まで呪うつもりなのだろうと思い込んでいたけれど、いざ話を聞くとそうではなかったのだとわかった。

「マシューが、俺に『童子切』を託したってことは、マシューも俺が頼光の子孫だとうすうす感じていたの?」

「僕の場合は、確証がなかったんだけど、『鬼に臭うって言われた』って、たいきが話してくれた時に、もしかしてたいきがその子孫の可能性もあるのかもしれないと思っていただけだよ。確証は無かったけれどね」

「だから、俺が頼光の子孫の可能性を考慮して念の為、頼光が使っていた『童子切』の宝刀を渡して、マシューが『鬼切丸』を手にしたんだね?」

「そういうこと。僕が持っていた『鬼切丸』は今回、出番は無かったけれどね」

 少しずつ、大祇が思っていた鬼の人物像が、目の前にいる鬼たちと、かなりかけ離れていたことに気づかされる。

「勝手な思い込みって、良くないものだな」

 大祇は、どうやら自分の考えが検討違いで、鬼たちの心の声は本人に聞いてみないとわからないものだなと改めて、反省をする。

「それで、話の続きになるんだけれど、洞窟でまりなが教えてくれたんだ。鬼たちが言うには、頼光の子孫である人物に、千年前と同じ『童子切』で酒呑童子の力を弱めてもらうのを、何百年も待っていたってことをさ」

「気の遠くなような話だな」

 いつ訪ねてくるかもわからない、頼光の子孫を長年待っていたなんて。

「観光目的で頼光の子孫が大江山に来たことはあったらしいよ。今までにも何度かさ。でも、誰も『童子切』を持っていなかったんだって」

「それは……鬼たちはがっかりしただろうな。必要なアイテムが揃って無かったってことだろう?」
「そういうことになるね」
「そもそも、まりなはなぜそんなにも鬼の内情を知っているんだよ?」

 大祇は、まりながいつから鬼の気持ちに気が付いて動いていたのか、不思議に思い、まりなに話を振ってみた。

「え? まず、大祇とマシューは私が鬼に連れ去られたと思っていたんでしょ? まず、そこから間違っているから」

 大祇は驚愕の事実に驚きを隠せない。そこからすでに勘違いが始まっていたのだ。

「え? じゃあ、どうやって鬼と知り合いになったの?」

「私が時空の出入り口前の木陰で、宿題をしていたら、人にしか見えないんだけど鬼だと名乗る人が私の前で土下座したのよ」

「ど、土下座?!」

 大祇は、女性の前であっさりと土下座から自己紹介する鬼の行動に驚いた。

「うん。鬼の親分を助ける為に協力してほしいから、話だけでも聞いてもらえないかってね。かなり怪しい人だと思ったけど、正座したまま涙を流して懇願されたら、さすがに私も話を聞くだけならいいよって答えたのよ」

「……。それで?」

「私もまだ信用できなかったから、いつでも逃げられるように時空の出入り口前でずっと話を聞いていたの。その間もずっと、その人、石があるゴロゴロある痛そうな地面の上で正座したまま説明してくれるの。長年、頼光の子孫の再来を待ちわびていて、その子孫が実は幼馴染の大祇だって言うじゃない。それなら、私が身を隠せば心配して探しにきてくれるかもよって提案したの」

「おいおい……」

 大祇は、まりなの大胆な行動に動揺を隠せない。でも、こんな大胆で優しい一面があるから、まりなに惚れたんだろうなとも思ってしまう。
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