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封印術を求めて
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学園都市と呼ばれるだけあって、ディケットは多くの学生が暮らしている。
とはいえ、学生以外の人間も当然いるわけで、学園の外では普通の住人による普通の生活が営まれていた。
就学前の子供が普通に街中を走り回っている光景なんかは、他の街とさほど変わらないほどだ。
その子供達も全部が学園に通えるわけではないが、目標とするものが明確に目に見える環境は、正しい成長には中々いいものではないだろうか。
そんなディケットの朝、俺達が泊まった宿の食堂では、これから街を出る商隊が大急ぎで朝食を摂っているところで、そこに同席してしまった俺達は、穏やかな朝とは程遠い時間を過ごしていた。
「ここは朝から活気があるねぇ」
「活気っつーか、慌てて準備してるって言った方がいいかもな」
食堂の隅のテーブルに陣取り、朝食をつつきながら暢気に言うパーラ。
昨日の夜に一度、人間の姿になっていたのだが、朝起きたらまた獣人姿へと戻っており、それで派手に落ち込んでいたが、食い気に引っ張られたか、今は機嫌がだいぶいい。
こうして落ち着いている俺達が別なだけで、商人に限らず、冒険者や傭兵に旅人といった、宿を離れる人は大抵朝からこういう喧騒を生み出すものだ。
味はともかく、量だけは満足が行く食事を漫然と口に運びながら、そんな光景をぼんやりと眺めていると、支度に動いていた若い商人の一人と目が合う。
向こうが口元に笑みを浮かべて片手を挙げたため、こちらも同じく片手を挙げて挨拶を返す。
「ん?アンディ、なにしてんの…あぁ、昨日の人?」
「おう。あの人も今日ここを離れるんだな」
この商人とは知り合いというほどではないが、昨日、彼には学園まで伝言と手紙を届けるという仕事を頼んだ仲ではある。
食堂で暇そうにしていたところに声をかけたら、駄賃程度で快く引き受けてくれたのはありがたかった。
彼も今日でここを離れるようで、傍には大きな荷物が置かれている。
しばらくすると、宿を後にする商隊に混じって他の客もいなくなり、食堂には俺とパーラだけが残った。
「なんかあっという間に静かになっちゃった…」
「朝の賑わいなんてこんなもんだろ。それより、この後の―」
「いらっしゃい。お?珍しいな。こんな朝早くから学生さんが来るなんて」
既に朝食を済ませ、今日はこれからどうするか相談しようと思っていると、宿の入り口に向けて宿の親父が声をかけたのに気付く。
新しい客かとも思ったが、学生という言葉に興味が引かれ、視線をそちらへ向けた。
「泊まりってわけじゃあねぇよな。今からここにいて、授業はいいのかい?」
「大丈夫。授業なら、今日は午後からなんだ。それよりちょっと聞きたいんだけど、ここにアンディとパーラって奴らは泊まってないか?」
この街ではよく見かける、学生の服装を身に纏った青年の口から、俺達の名前が飛び出したことでパーラも意識を入り口へと向け、そこに立つ人影を見て口を開く。
「あれ?ねぇアンディ。あそこにいるのってシペアじゃない?」
「だな。なんだあいつ、昨日の手紙で俺達に会いに来たのか」
学生の正体はシペアで、どうやら俺達に会いに宿まできたようだ。
手紙には泊まっている宿の名前は書いたが、わざわざ朝からやってくるとは、可愛いところがあるじゃないの。
「アンディとパーラねぇ…。うちで泊ってるのだと、あっちのテーブルにいる二人がそうだ。今宿にいるのもあの二人だけだしな。知り合いか?」
個人情報とも言える宿泊客を、あっさりと教えるのに少し驚くが、これがこの世界の感覚としておかしくはないのだろう。
それに、この街に暮らしている人間からしてみれば、学園の生徒と身元の不確かな宿泊客を比べたら、口が軽くなるのはどちらかなど考えるまでもない。
「ああ、友達だ。……あれ?」
宿の親父が俺達を指さすと、それを追ってシペアも体の向きを変えるが、俺とパーラを見て固まってしまった。
こちらを向いたその顔は、確かに俺達がよく知っているシペアのものだが、そこに浮かぶ表情には困惑が強く出ている。
とても久しぶりに会った友人に向けるものとは言えないものだ。
「…いや、悪い。人違いだった。他に泊ってるやつはいないんだよな?」
「ああ、大口の客は今朝方全部出てっちまったよ」
「そうか。仕方ない、また出直すよ」
そう言って身を翻して宿から出ていくシペアを、俺達はポカンと見送るだけだった。
なんだ、あいつ?
あの時、しっかり目もあったし、俺達がシペアだと気付いた以上、向こうも俺達に気付くはずだが…。
まさか、俺達と他人のふりをする事情があったとか?
「…あのさ、アンディ。今の私達って姿が違うから、シペアったら気付かなかったんじゃない?」
「……あ!」
妙に恐々とした様子でつぶやいたパーラの言葉で、一泊遅れて俺も気づかされる。
そうだった。
俺達は今、変装と変身という、本来の姿とは別のものになっていた。
だから、シペアは俺達を見ても覚えがなく、そのまま立ち去ってしまったのだろう。
「やべっ、そういうことか。パーラ、追いかけるぞ!」
すぐに宿の外へ飛び出して、シペアの姿を探す。
出て行ってからほとんど経っていないため、すぐに道を歩くシペアの背中を見つけることができた。
背後からもわかるほど首を傾げている様子に、色々と混乱させたことをすまないと思う。
「おーい!シペア!ちょっと待て!」
とりあえずその歩みを止めさせるため、往来での迷惑は一先ず脇に置いて大声で呼びかける。
とにかく俺達の事情を説明しなくては。
「なるほど、アンディの方はいい。前にそういう技があるって教えてくれたしな。けど、パーラに関しちゃ驚きしかねぇよ。もう一回聞くけど、ほんとにパーラなんだよな?」
「そうだって言ってんじゃん。ギルドカードも見せたでしょ」
「…まぁアンディが嘘を言う理由はねぇか」
再度パーラの正体を尋ねたシペアに、面倒くさそうに答えていた。
あの後、シペアを半ば強引に俺達が泊まる宿の部屋へと連れ込み、長々と説明してようやく今、九割の納得を得るようになった。
一割の納得をされていないのは、獣人になったパーラの姿に対する驚きが抜けきらないせいだろう。
それも仕方のないことだ。
俺は特殊メイクを剥がして素顔を見せることで分かってもらえたが、パーラは自在に元の姿に戻れない以上、本人と認めさせる材料が必要になる。
俺がそうだと言ってシペアを納得させるには、信頼がなくてはならない。
「で?その何とかって奴から加護を貰ったせいで、獣人種になったんだって?」
「転真体ね。なったって言うか、なるかどうか変化している最中なの」
「そこがよくわかんねぇな。加護ってーと、あれだろ?授かるとなんかすげぇってやつ?」
パーラの時もそうだったが、加護に関してはシペアも随分ざっくりとした認識だ。
最近の若い奴は、加護に対する反応もこんなもんなのか?
「そうそれ。そのせいでこうなってるんだけど、このままだと私は普人種になるか獣人種になるか、二つに一つで困ってるってわけ」
「へぇー……別にどっちでもよくね?」
「よくない!」
他人事なせいか、投げやりなことを口にするシペアにパーラが噛みつく勢いで言い放つ。
顔が狼寄りなせいで、犬歯むき出しになるパーラの顔は迫力がある。
「お、おう。そうか。よくないな、うん」
あの顔で吠えられては、ただの学生に過ぎないシペアもたじろぐ姿を見せる。
気持ちは分かるぞ。
怖いもんな、あれ。
「ま、そんなわけだから、パーラのこれを抑え込むために、封印術を使える人がいないかここまで来たんだ。ここなら人も多いし、ウォーダン先生なら色んな伝手もありそうだろ?」
少し頭がホットになったパーラに変わり、ここからの話は俺が引き継ぐ。
収まったと思っていたが、焦る思いはまだ燻っていたようで、それが鎮まるまでパーラにはちょっと下がっててもらう。
ほれ、この骨っこでも齧って落ち着け。
「そういうわけだったのか。それならそうと、昨日の手紙にも書いてくれりゃよかったのに」
「あれ?書いてなかったか?」
「一言も。書いてたのはディケットに来てることと、泊ってる宿の名前ぐらいだったぞ」
言われて思い返してみれば、結構あっさりとした内容の手紙だった気もする。
まぁ本命はウォーダンに会うことであって、シペア達に会うのはついでだったしな。
「しかしそうなると、お前らは来るのが少し遅かったな」
「遅いってどういう意味だ?」
「ウォーダン先生って、今学園にいねぇんだよ」
「…いない?なんで?」
「十日ぐらい前だったかな。学術研究会が開催されるからって、主都の方に行った。ほら、あの人って妖精関連で今じゃすげぇ有名だからさ」
シペアの言う学術研究会というのは、所謂学会というやつだ。
こっちの世界でも研究者達が、自分の研究内容を発表する場として、開かれる機会はそれなりにある。
妖精に関する論文で名前が売れたウォーダンなら、学会に招かれるぐらいはありそうだ。
「まじかよ。シペアお前、ウォーダン先生がいつ帰ってくるかわかるか?」
「さあ?俺はただの生徒だし、そこまではな。けど、今は主都が妙に騒がしいって噂だし、戻ってくるとしたら春ぐらいになるんじゃねぇの?」
主都からディケットまでは、直線距離でもそこそこ遠いが、さらに陸路での移動はかなり遠回りを強いられる地形が多いため、単騎で急いだとしてもその道行はあまりにも長い。
行って戻ってくるだけでもひと月はかかることもある。
学会の開催期間は分からないが、国中の研究者が集まるのだから、一日二日で終わるものではないはずだ。
加えて、人の出入りも厳しいであろう今の主都なら、滞在期間が延びることも考えられるため、シペアの見立てはそう間違ってはいないだろう。
しかし参ったな。
ウォーダンを頼りにやってきたというのに、本人がそもそもいなかったというのは想定外だ。
「ちょっとアンディ、どうすんの?ウォーダン先生いないってことは、封印術のあてもなくなっちゃったじゃん!」
「そうなるな。どうしたもんか…」
頼るべき人がいないことを知り、慌てるパーラに俺はかける言葉がない。
俺達が欲しているのはあくまでも封印術の方なので、ウォーダンが必ずしも必要というわけではないのだが、とはいえ一番太い伝手がなくなったことには困ってしまう。
パーラに残された時間を考えれば、あと八日以内に封印術の目途が欲しい。
「なぁ、お前らが今必要なのって、封印術師なんだよな?」
「そうだけど…もしかしてシペア!あんた知り合いにいたりするの!?」
「いや、流石に俺の知り合いにはいないって。生徒にそういうのがいるってのも聞いたことねぇしな」
一縷の望みのつもりだったのか、シペアの肩を掴んで迫るパーラに返されたのは無慈悲なものだった。
目に見えて落ち込むパーラに、どう慰めたものかと言葉を探す。
「知り合いじゃねーけど、封印術に関連する研究をしてる教師なら学園にいるな」
「いるんじゃないのさ!何勿体ぶってんの!?」
「いや、別に勿体ぶってないって。順序立てて話してるだけだろ」
確かに、今のパーラは少し先走って話を欲しがるところがある。
焦りからくるものだろうが、クールダウンが必要だ。
「落ち着け、パーラ。シペア、俺達はその教師に会いたい。どうにかならないか?」
「うーん、俺はその教師と接点はないからな。どうにかってのも…急ぎでか?」
「なるべく」
パーラの頭に生えている犬耳を注視しながら言うと、それにつられたシペアも犬耳を見つめた。
言ってはいなかったが、パーラのこの状態にはタイムリミットがあることを、暗にシペアも悟ったらしい。
短く息を吐いて頷くと、真剣な目がこちらを向く。
「なら、ゼビリフ先生に頼るか。あの人なら、アミズ先生に繋ぎをとってくれるはずだ」
「アミズってのが、その研究してるって人の名前か?」
音の響きは女性的な印象だが、この世界だとそのあたりはまちまちだし、思い込むのは禁物だ。
ゼビリフを頼るということは、アミズとは親しい仲か、他の教師以上の繋がりがあるとかなのだろうか。
「ああ。アミズ・チャーレっつって、古典魔術の研究者として有名らしいが、とにかく変わり者でな」
かなり昔でもレア中のレアだった封印術は、今や古典魔術の一つとして研究されていると、シェスカからは聞いていた。
何故か声を潜めて言うシペアだが、俺に言わせれば優秀であればあるほど変人になるのが研究者という人種だ。
接点のないシペアが知っているほどの変人なら、それだけ優秀なのかもしれない。
「古典魔術か。そういや、封印術は古典魔術に分類されるって話だったな」
「変わってようがなかろうが、私達の目的を果たせるならそれでいいよ。とにかく、シペアからゼビリフ先生に頼んでくれるんだよね?」
「ああ。学園に戻ったら頼んでおく…っていうか、お前らも一緒に来たらどうだ?連絡を待ってるのも退屈だろ。それとも、今日なんか用事とかあるのか?」
シペアが学園に戻って、ゼビリフを通してアミズと会えるようになったとする。
その後、また誰かが俺達のところにやってきて、学園に行くというのは無駄を感じる。
「いや、特に用事はないが…俺らって学園に入れると思うか?」
「アンディはいいでしょ。私なんてこれだよ?」
そう言って自分の頭の上を撫でるパーラ。
学園には基本的に部外者は入れない。
だが俺とパーラは学園から特別な許可を貰っており、教師の監視付ではあるが学園内へと入ることができる。
その権利は特に失効する期限もなく、いまだに有効ではあるが、見た目の種族が変わっているパーラは果たしてそのまま学園に入れるものなのか?
「…パーラの方は顔を隠してどうにかしよう。顔を怪我しているからって、ギルドカードで本人だと押し切るしかないな」
それで通るものなのかとも思うが、シペアの言う手が一番妥当か。
一応、噴射装置で空からこっそりと侵入するというのも考えたが、学園の壁は魔術で保護されていると聞いたし、警報ぐらいはありそうなのでやめておくべきだ。
「あ、そうだ。なぁシペア、学園の中で変わった手配書とか出回ってなかったか?」
懸念としてあった、学園内で俺が指名手配犯として扱われていないかということを尋ねてみる。
「手配書?学報板のとこにいくつかあったけど、変なのってどういうのだ?」
「ん…いや、気にならないならいいんだ」
怪訝そうな目を向けてくるシペアから、どうやら学園内で俺が指名手配されているということはないと思ってよさそうだ。
勿論、生徒には知らせていないということもあるが、ディケットの街中ですら俺の手配書がないくらいだ。
学園にもないという可能性は、シペアのこの反応でより高まった。
ますますもって、俺の指名手配はないものと思えてくるが、そうなると、あの性悪司教とイカれた聖鈴騎士が手を回していないということに不気味さを覚える。
謹慎処分を食らったから俺とも関わらないという、そんな殊勝な人間には思えないのだがな。
まぁ指名手配の心配がなくなり、動きやすくなったのはいいことだし、これで大手を振って学園に行ける。
…よもや、ここまでが実は全て策略で、学園に一歩足を踏み入れた瞬間に捕まるなんてことはないよな?
よそう、これ以上考えると怖い。
そうはならんやろと思おう。
「んじゃ、せっかくだし俺達も一緒に行くか。パーラの方はどうにもならなかったら、その時に考えよう」
「ま、どうせ暇だしね。もし止められたら、そこは私に任せて先に行って」
また雑な死亡フラグを口にする。
パーラに任せてどうなるというものでもないし、そうなったら一旦引くことも考えるとしよう。
「そういえばさ、スーリアって今どうしてんの?まだ召喚術の訓練を?」
学園に行くための準備をしていると、ふと思いついたようにパーラがシペアへと問いかけた。
パーラとスーリアはちょくちょく手紙でやり取りをしているが、最後に手紙をもらったのがもうずいぶん前のため、スーリアの最新情報はシペアから聞く方が確実だ。
「おう、頑張ってるぞ。最近は少し自由になる時間が増えて、ついこの前も俺と街で遊んだな」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ今日は?なんで一緒じゃないの?」
「ああ、それな。ほんとは一緒に来たがってたんだよ。けど、俺達って今日の授業は午後からでさ、スーリアがその準備の手伝いをする係なもんだから、俺だけが一人で来たってわけ」
「なんだ、そうだったの?それなら仕方ないか」
残念そうに言うパーラだが、今の姿で会うと、シペアにした説明をまた一からするというめんどくささもあることを忘れてはならない。
とはいえ、久々に友達と会うのだ。
その手間も敢えて受け入れて、再会を喜ぶというのも悪くはない。
どうせこれから学園に行くのだし、ちょっとした暇が出来たらスーリアとも会っておきたいものだ。
学園へ到着し、先にシペアが学園へと入ってゼビリフを呼んでくることになり、俺とパーラが門の前で待っていると、白が目立つ体色をもつ獣人がシペアとともにやってきた。
「やあ、久しぶりだね、二人とも。アンディ君と…パーラ君、でいいんだよね?」
穏やかな笑みのゼビリフが俺とパーラに声をかけるが、、フードを頭から被っているパーラにはやはり疑問符が付くようだ。
「どうも、ご無沙汰してます。ちょっと今は事情があって、パーラは顔を隠してますが、本人で間違いありません」
「ふむ、事情ね。よかったら聞かせてもらえるかな?」
「ええ、勿論です」
門から少し離れ、今の俺達の状況と目的をゼビリフに伝える。
多少後ろ暗いこともあるため、所々が欠けた説明となってしまったが、それでもおおよそは分かってもらえたようだ。
「…なんというか、ここ何年かで一番濃い、色々詰まった話だったかもしれない。加護を貰ったってのも凄いけど、それを封印するってのもとんでもない話だよ、これは。一応聞くけど、加護がどれくらい貴重で有用なのかは分かってるんだよね?」
「ええ、多少は。俺も加護の貴重さは教えられましたけど、何せ本人が困ってるものでして」
「まぁ加護を貰った人間で、こうなったっていうのは僕も初めて聞くがね。加護持ちもそう多くいないから、もしかしたらこういうのもあったかもしれないけど、それにしてもこの現象は中々興味深いよ」
知識の園と言っていい場所で働くゼビリフをして、聞いたこともない今のパーラの状態には、探求心が刺激されているのかもしれない。
普人種が獣人種に変わるというのは、それだけレアな現象なのだろう。
「僕としては、この状態のパーラ君を研究したいという思いはあるが、時間に限りがあるんだよね?」
「ええ。詳しい人の見立てだと約十日、今からだと八日後には普人種と獣人種のどちらかで固定されるとか」
「で、パーラ君は普人種の方がいいと?」
「うん。ここ二日ぐらいは獣人種の姿で暮らしてるんだけど、やっぱり元の体の方がいいって改めて思ってるもん」
「なるほどね……分かった。そういうことならアミズには僕から話を通そう。ただし、相応の対価は頂くことになるがいいかい?」
ゼビリフの言うことはもっともだ。
世の中というのは重要なものほど無償で与えられることはない。
これは十分に予想出来ていた。
「金ですか?」
「それも悪くないが、君達は冒険者だろう?その経験を生かして、あるものを探して欲しい」
「まぁ探し物は慣れてますから構いませんけど、どんなもので?」
もの探しとは、冒険者への頼み事としてはポピュラーではあるが、物によっては割に合わないということもあるので断るのも選択肢にある。
その場合、他の対価でどうにかしたいところだが、第二希望のネタで満足してくれるかは分からない。
「大したものじゃない。どこにあるかは分かっているし、手に入れて来いというわけじゃない。今も本当にあるかを確認してほしいんだ。まぁ、実物を手に入れてくれるなら最上ではあるがね。これ以上の情報は、君達が引き受けてくれたら教えるよ。どうかな?」
「アンディ…」
情報が不鮮明なまま依頼を受けるのはもっともやってはいけないことの一つだが、パーラの縋るような目を見てしまうと答えは決まった。
「わかりました。それを対価とすることを受諾します」
「そうか!よかった。いやぁ、実はこの件を誰に頼もうか困っていたんだ。白級で腕の立つ魔術師なら安心して任せられるよ。詳しい話は道すがら…はまずいか。先にアミズのところに行ってからだな。来たまえ」
そう言って歩き出したゼビリフに、俺とパーラも続こうとするが、それよりも一瞬早く、シペアが口を開いた。
「あ、ゼビリフ先生。俺は午後から授業があるんで、ここまでで」
シペアはここで離脱となった。
時刻的には昼まではまだ大分あるが、授業の準備なんかもあるだろうから、あまり長く一緒にはいられないか。
「おや、そうかい?ふむ、分かった。行ってきなさい」
「はい、失礼します。…てことだから二人とも、悪いが俺はここまでだ。後はゼビリフ先生がどうにかすると思うけど、結果だけは後で教えてくれ。じゃあな!」
「おう、どうなるかはわからんが、なんかで連絡する。そっちも勉強頑張れよ」
「スーリアには私のことはうまく言っといてね。あと、全部終わったらなんか食べに行こうってのも伝えて」
急ぎ足で立ち去っていくシペアにそう投げかけると、遠ざかる姿が手を振っていた。
見えてはいないだろうが、こちらも手を振り返しておく。
ゼビリフが俺達の身元を保証してくれたため、門の通行はあっさりと許されたのだが、顔を隠している怪しい奴を引き連れても特に止められることなく進んでいく様子に、学園における教師の信頼度の高さというのが垣間見えた。
「ゼビリフ先生、そのアミズという方とは親しいと聞きましたけど、教師同士の仲という以上の何かがあるんですか?」
久しぶりではあるが歩きなれた学園の道を歩きながら、暇を持て余しでもしたのかパーラがゼビリフとアミズの関係を尋ねた。
そう言えば、シペアからは親しいとしか聞いていないが、ただの教師仲間というだけならそういういい方はしないのではなかろうか。
「んん?まぁそうだね。僕とアミズは確かに教師としてよりも、ずっと強い絆があるのは確かだ」
「きゃっ!それってもしかして、男と女の!?」
急に興奮しだしたパーラの鼻息荒い言葉に、ゼビリフはこらえきれないといった風に笑いだしだ。
「あっはっはっはっは!まさか!僕と彼女はそういうのじゃないよ。アミズはね、僕の姉なんだよ。と言っても、義理のということになる。もともと幼馴染ってやつだったんだけど、彼女の姉と僕の兄が結婚してね」
「なーんだ、義理の姉弟か。つまんないの」
「こら、パーラ」
年頃の少女として、恋人同士のあれこれを知りたがったパーラだが、姉弟という答えを聞いて露骨にテンションを下げたのをたしなめる。
こちらから聞いておいて、その言い方はないだろうに。
「はっはっは、期待に応えられず申し訳ない」
パーラの失礼な言いようにも、特に気を悪くしないゼビリフは、恐らくこの手の質問を何度かされているのかもしれない。
義理とはいえ姉弟だ。
学園内で仲良くしているところを見て、興味を持った生徒が…というのは普通に予想できる。
「さあ、着いたよ。ここがアミズの研究室だ」
そうしているうちに目的地に着いたようで、ゼビリフが指さす先にはこじんまりとした石造りの建物があった。
ここは学園の敷地内でも奥まっており、あまり目立つような場所ではない。
学園にあるほかの研究棟とは違い、まるで隔離されたように感じるのが少し気になってしまう。
三階建ての外壁は窓も少ないし、蔦と苔がそこかしこに見える様子には、あまり手入れは行き届いていないようではある。
所々に茶色く焦げたような草も見えるが、ちょっとしたボヤでもあったのだろうか。
何かの遺跡だと言われれば納得できてしまう外観に、しばらく呆然としてしまうが、そんな俺達とは違ってゼビリフは勝手知ったるといった様子で扉へと向かい、軋む音を立てて頑丈そうな扉を開いていく。
「ぐくっ、また固くなったなぁ。この扉もその内手直しを…さ、入って入って」
最後に動物の唸り声を錯覚させる重い音を響かせて、完全に開かれた扉をくぐって室内へと入る。
中は明かりがないせいで薄暗いが、色々と散らかっているのだけはよく分かる。
様々な形態の書物に、何かの祭器のようなガラクタ一歩手前の金属の塊や、剣や弓に衣服といったものが散乱しているなか、食べかけのパンが地面に落ちている光景には流石に引いてしまう。
研究者らしいと言えばらしいが、これはあまりにもひどい。
そんな具合に周りを見ていると、突然室内に光が生まれた。
ゼビリフが灯したランプの光で、よく見えるようになった部屋の一番奥の方、布が大量に積み重なっているところに倒れこんでいる人影が見えた。
一瞬死体かとも思ったが、寝息を立てている様子から生きてはいるようだ。
見えている体つきから、女性だというのは分かる。
「ゼビリフ先生、あそこにいるのってもしかして」
「あぁっ、またあんなところで寝て…しょうがないな」
人影がアミズではないかと尋ねるが、それに答えるよりもまずゼビリフが近づいて行った。
肩を揺さぶったり声をかけるが、起きる気配がない。
「アミズ!こんなとこで寝たらだめじゃないか!ほら起きて!」
呼びかける名前から、どうやら彼女がアミズその人で間違いないらしい。
「…なんかだらしない人っぽいね」
「研究者ってのは大体こんなもんだろ」
「いや人によるでしょ。メイエルさんはこんなんじゃないし」
パーラに言われ、メイエルはどうだったか思い出そうとするが、そもそも俺はメイエルの部屋を知らないので比較はできない。
ただ、メイエルはメイエルで癖の強いところがあるので、パーラの知らない一面も持ち合わせているものだ。
シペアの言っていたアミズが変わり者だと言うのも、部屋のことを指しているとしたら十分許容範囲だが、俺の勘では致命的な何かを抱えてそうな気がしてならない。
「んー…何よーうるさいわねー。ゼビ坊、あんたもうちょっと穏やかに…」
ようやくゼビリフの呼びかけが効果を見せたのか、眠気を隠さない顔を持ち上げたアミズが、俺達を見てボケっとした目に変わる。
どうやら起き抜けに知らない人間が部屋にいることが不思議なのか、じっとこちらを見る目からは感情が読み取れない。
アミズはゼビリフと同じような狼系の獣人のようだが、赤茶の髪の毛が爆発したように全方位へと広がっている様子から、ハリネズミの獣人だと言われても信じてしまいそうだ。
寝巻替わりなのか、色あせたドレスローブから浮き上がるような体つきがやせ細って見えることから、不健康というほどではないが栄養は足りていないのではないだろうか。
顔つきは普人種のそれだが、クリっとした目がハスキー犬のような印象を抱かせる。
段々とアミズの視線が探るようなものに変わってきたため、これは挨拶をするべきかと思った次の瞬間、その場から全身のばねを使ってアミズが飛び上がって、5メートルはある距離を一瞬で詰めてパーラにしがみついてきた。
「う、うわぁあああ!なに!?なんなの!?」
「ちょっとちょっと!なにこれなにこれ!?普人種の体に人狼の因子が絡みついてるじゃない!こんなの初めて見るわ……面白い。ゼビリフ!人体実験よ!器具を準備なさい!」
予備動作のない飛び掛かりを食らって焦るパーラに、目をギラつかせたアミズが物騒なことを口にする。
なるほど、変わり者というのはこれを指しているのか。
俺が見てきた研究者という人種は比較的まともな人間ばかりだったようで、研究バカではあるが倫理観は持ち合わせていたと思う。
だがこのアミズは、出会ってすぐにパーラへ実験をしようとするなど、理性を欲求が蹴り飛ばしている恐ろしいタイプと見た。
しかし、優秀なのは何となくわかる。
一目見ただけでパーラが元々普人種であることと、狼の加護の一片を見抜いた眼力とでも言おうか、そういう能力か知識を持ち合わせているのは、研究者としては有能で有用だと言える。
封印術を求めて会いに来たわけだが、これは期待してもよさそうか?
まぁそれはともかく、まずは半べそ状態のパーラを助けるとしようか。
人体実験という言葉を聞いてからのパーラは、可愛そうになるほどにビビッている。
あの剣幕での迫り方には、生体の検証をすっ飛ばして解剖にいくぐらいの勢いがあったからな。
出会って即解剖とかは流石に俺が許さんから、そう不安そうな顔をするなよ。
とはいえ、学生以外の人間も当然いるわけで、学園の外では普通の住人による普通の生活が営まれていた。
就学前の子供が普通に街中を走り回っている光景なんかは、他の街とさほど変わらないほどだ。
その子供達も全部が学園に通えるわけではないが、目標とするものが明確に目に見える環境は、正しい成長には中々いいものではないだろうか。
そんなディケットの朝、俺達が泊まった宿の食堂では、これから街を出る商隊が大急ぎで朝食を摂っているところで、そこに同席してしまった俺達は、穏やかな朝とは程遠い時間を過ごしていた。
「ここは朝から活気があるねぇ」
「活気っつーか、慌てて準備してるって言った方がいいかもな」
食堂の隅のテーブルに陣取り、朝食をつつきながら暢気に言うパーラ。
昨日の夜に一度、人間の姿になっていたのだが、朝起きたらまた獣人姿へと戻っており、それで派手に落ち込んでいたが、食い気に引っ張られたか、今は機嫌がだいぶいい。
こうして落ち着いている俺達が別なだけで、商人に限らず、冒険者や傭兵に旅人といった、宿を離れる人は大抵朝からこういう喧騒を生み出すものだ。
味はともかく、量だけは満足が行く食事を漫然と口に運びながら、そんな光景をぼんやりと眺めていると、支度に動いていた若い商人の一人と目が合う。
向こうが口元に笑みを浮かべて片手を挙げたため、こちらも同じく片手を挙げて挨拶を返す。
「ん?アンディ、なにしてんの…あぁ、昨日の人?」
「おう。あの人も今日ここを離れるんだな」
この商人とは知り合いというほどではないが、昨日、彼には学園まで伝言と手紙を届けるという仕事を頼んだ仲ではある。
食堂で暇そうにしていたところに声をかけたら、駄賃程度で快く引き受けてくれたのはありがたかった。
彼も今日でここを離れるようで、傍には大きな荷物が置かれている。
しばらくすると、宿を後にする商隊に混じって他の客もいなくなり、食堂には俺とパーラだけが残った。
「なんかあっという間に静かになっちゃった…」
「朝の賑わいなんてこんなもんだろ。それより、この後の―」
「いらっしゃい。お?珍しいな。こんな朝早くから学生さんが来るなんて」
既に朝食を済ませ、今日はこれからどうするか相談しようと思っていると、宿の入り口に向けて宿の親父が声をかけたのに気付く。
新しい客かとも思ったが、学生という言葉に興味が引かれ、視線をそちらへ向けた。
「泊まりってわけじゃあねぇよな。今からここにいて、授業はいいのかい?」
「大丈夫。授業なら、今日は午後からなんだ。それよりちょっと聞きたいんだけど、ここにアンディとパーラって奴らは泊まってないか?」
この街ではよく見かける、学生の服装を身に纏った青年の口から、俺達の名前が飛び出したことでパーラも意識を入り口へと向け、そこに立つ人影を見て口を開く。
「あれ?ねぇアンディ。あそこにいるのってシペアじゃない?」
「だな。なんだあいつ、昨日の手紙で俺達に会いに来たのか」
学生の正体はシペアで、どうやら俺達に会いに宿まできたようだ。
手紙には泊まっている宿の名前は書いたが、わざわざ朝からやってくるとは、可愛いところがあるじゃないの。
「アンディとパーラねぇ…。うちで泊ってるのだと、あっちのテーブルにいる二人がそうだ。今宿にいるのもあの二人だけだしな。知り合いか?」
個人情報とも言える宿泊客を、あっさりと教えるのに少し驚くが、これがこの世界の感覚としておかしくはないのだろう。
それに、この街に暮らしている人間からしてみれば、学園の生徒と身元の不確かな宿泊客を比べたら、口が軽くなるのはどちらかなど考えるまでもない。
「ああ、友達だ。……あれ?」
宿の親父が俺達を指さすと、それを追ってシペアも体の向きを変えるが、俺とパーラを見て固まってしまった。
こちらを向いたその顔は、確かに俺達がよく知っているシペアのものだが、そこに浮かぶ表情には困惑が強く出ている。
とても久しぶりに会った友人に向けるものとは言えないものだ。
「…いや、悪い。人違いだった。他に泊ってるやつはいないんだよな?」
「ああ、大口の客は今朝方全部出てっちまったよ」
「そうか。仕方ない、また出直すよ」
そう言って身を翻して宿から出ていくシペアを、俺達はポカンと見送るだけだった。
なんだ、あいつ?
あの時、しっかり目もあったし、俺達がシペアだと気付いた以上、向こうも俺達に気付くはずだが…。
まさか、俺達と他人のふりをする事情があったとか?
「…あのさ、アンディ。今の私達って姿が違うから、シペアったら気付かなかったんじゃない?」
「……あ!」
妙に恐々とした様子でつぶやいたパーラの言葉で、一泊遅れて俺も気づかされる。
そうだった。
俺達は今、変装と変身という、本来の姿とは別のものになっていた。
だから、シペアは俺達を見ても覚えがなく、そのまま立ち去ってしまったのだろう。
「やべっ、そういうことか。パーラ、追いかけるぞ!」
すぐに宿の外へ飛び出して、シペアの姿を探す。
出て行ってからほとんど経っていないため、すぐに道を歩くシペアの背中を見つけることができた。
背後からもわかるほど首を傾げている様子に、色々と混乱させたことをすまないと思う。
「おーい!シペア!ちょっと待て!」
とりあえずその歩みを止めさせるため、往来での迷惑は一先ず脇に置いて大声で呼びかける。
とにかく俺達の事情を説明しなくては。
「なるほど、アンディの方はいい。前にそういう技があるって教えてくれたしな。けど、パーラに関しちゃ驚きしかねぇよ。もう一回聞くけど、ほんとにパーラなんだよな?」
「そうだって言ってんじゃん。ギルドカードも見せたでしょ」
「…まぁアンディが嘘を言う理由はねぇか」
再度パーラの正体を尋ねたシペアに、面倒くさそうに答えていた。
あの後、シペアを半ば強引に俺達が泊まる宿の部屋へと連れ込み、長々と説明してようやく今、九割の納得を得るようになった。
一割の納得をされていないのは、獣人になったパーラの姿に対する驚きが抜けきらないせいだろう。
それも仕方のないことだ。
俺は特殊メイクを剥がして素顔を見せることで分かってもらえたが、パーラは自在に元の姿に戻れない以上、本人と認めさせる材料が必要になる。
俺がそうだと言ってシペアを納得させるには、信頼がなくてはならない。
「で?その何とかって奴から加護を貰ったせいで、獣人種になったんだって?」
「転真体ね。なったって言うか、なるかどうか変化している最中なの」
「そこがよくわかんねぇな。加護ってーと、あれだろ?授かるとなんかすげぇってやつ?」
パーラの時もそうだったが、加護に関してはシペアも随分ざっくりとした認識だ。
最近の若い奴は、加護に対する反応もこんなもんなのか?
「そうそれ。そのせいでこうなってるんだけど、このままだと私は普人種になるか獣人種になるか、二つに一つで困ってるってわけ」
「へぇー……別にどっちでもよくね?」
「よくない!」
他人事なせいか、投げやりなことを口にするシペアにパーラが噛みつく勢いで言い放つ。
顔が狼寄りなせいで、犬歯むき出しになるパーラの顔は迫力がある。
「お、おう。そうか。よくないな、うん」
あの顔で吠えられては、ただの学生に過ぎないシペアもたじろぐ姿を見せる。
気持ちは分かるぞ。
怖いもんな、あれ。
「ま、そんなわけだから、パーラのこれを抑え込むために、封印術を使える人がいないかここまで来たんだ。ここなら人も多いし、ウォーダン先生なら色んな伝手もありそうだろ?」
少し頭がホットになったパーラに変わり、ここからの話は俺が引き継ぐ。
収まったと思っていたが、焦る思いはまだ燻っていたようで、それが鎮まるまでパーラにはちょっと下がっててもらう。
ほれ、この骨っこでも齧って落ち着け。
「そういうわけだったのか。それならそうと、昨日の手紙にも書いてくれりゃよかったのに」
「あれ?書いてなかったか?」
「一言も。書いてたのはディケットに来てることと、泊ってる宿の名前ぐらいだったぞ」
言われて思い返してみれば、結構あっさりとした内容の手紙だった気もする。
まぁ本命はウォーダンに会うことであって、シペア達に会うのはついでだったしな。
「しかしそうなると、お前らは来るのが少し遅かったな」
「遅いってどういう意味だ?」
「ウォーダン先生って、今学園にいねぇんだよ」
「…いない?なんで?」
「十日ぐらい前だったかな。学術研究会が開催されるからって、主都の方に行った。ほら、あの人って妖精関連で今じゃすげぇ有名だからさ」
シペアの言う学術研究会というのは、所謂学会というやつだ。
こっちの世界でも研究者達が、自分の研究内容を発表する場として、開かれる機会はそれなりにある。
妖精に関する論文で名前が売れたウォーダンなら、学会に招かれるぐらいはありそうだ。
「まじかよ。シペアお前、ウォーダン先生がいつ帰ってくるかわかるか?」
「さあ?俺はただの生徒だし、そこまではな。けど、今は主都が妙に騒がしいって噂だし、戻ってくるとしたら春ぐらいになるんじゃねぇの?」
主都からディケットまでは、直線距離でもそこそこ遠いが、さらに陸路での移動はかなり遠回りを強いられる地形が多いため、単騎で急いだとしてもその道行はあまりにも長い。
行って戻ってくるだけでもひと月はかかることもある。
学会の開催期間は分からないが、国中の研究者が集まるのだから、一日二日で終わるものではないはずだ。
加えて、人の出入りも厳しいであろう今の主都なら、滞在期間が延びることも考えられるため、シペアの見立てはそう間違ってはいないだろう。
しかし参ったな。
ウォーダンを頼りにやってきたというのに、本人がそもそもいなかったというのは想定外だ。
「ちょっとアンディ、どうすんの?ウォーダン先生いないってことは、封印術のあてもなくなっちゃったじゃん!」
「そうなるな。どうしたもんか…」
頼るべき人がいないことを知り、慌てるパーラに俺はかける言葉がない。
俺達が欲しているのはあくまでも封印術の方なので、ウォーダンが必ずしも必要というわけではないのだが、とはいえ一番太い伝手がなくなったことには困ってしまう。
パーラに残された時間を考えれば、あと八日以内に封印術の目途が欲しい。
「なぁ、お前らが今必要なのって、封印術師なんだよな?」
「そうだけど…もしかしてシペア!あんた知り合いにいたりするの!?」
「いや、流石に俺の知り合いにはいないって。生徒にそういうのがいるってのも聞いたことねぇしな」
一縷の望みのつもりだったのか、シペアの肩を掴んで迫るパーラに返されたのは無慈悲なものだった。
目に見えて落ち込むパーラに、どう慰めたものかと言葉を探す。
「知り合いじゃねーけど、封印術に関連する研究をしてる教師なら学園にいるな」
「いるんじゃないのさ!何勿体ぶってんの!?」
「いや、別に勿体ぶってないって。順序立てて話してるだけだろ」
確かに、今のパーラは少し先走って話を欲しがるところがある。
焦りからくるものだろうが、クールダウンが必要だ。
「落ち着け、パーラ。シペア、俺達はその教師に会いたい。どうにかならないか?」
「うーん、俺はその教師と接点はないからな。どうにかってのも…急ぎでか?」
「なるべく」
パーラの頭に生えている犬耳を注視しながら言うと、それにつられたシペアも犬耳を見つめた。
言ってはいなかったが、パーラのこの状態にはタイムリミットがあることを、暗にシペアも悟ったらしい。
短く息を吐いて頷くと、真剣な目がこちらを向く。
「なら、ゼビリフ先生に頼るか。あの人なら、アミズ先生に繋ぎをとってくれるはずだ」
「アミズってのが、その研究してるって人の名前か?」
音の響きは女性的な印象だが、この世界だとそのあたりはまちまちだし、思い込むのは禁物だ。
ゼビリフを頼るということは、アミズとは親しい仲か、他の教師以上の繋がりがあるとかなのだろうか。
「ああ。アミズ・チャーレっつって、古典魔術の研究者として有名らしいが、とにかく変わり者でな」
かなり昔でもレア中のレアだった封印術は、今や古典魔術の一つとして研究されていると、シェスカからは聞いていた。
何故か声を潜めて言うシペアだが、俺に言わせれば優秀であればあるほど変人になるのが研究者という人種だ。
接点のないシペアが知っているほどの変人なら、それだけ優秀なのかもしれない。
「古典魔術か。そういや、封印術は古典魔術に分類されるって話だったな」
「変わってようがなかろうが、私達の目的を果たせるならそれでいいよ。とにかく、シペアからゼビリフ先生に頼んでくれるんだよね?」
「ああ。学園に戻ったら頼んでおく…っていうか、お前らも一緒に来たらどうだ?連絡を待ってるのも退屈だろ。それとも、今日なんか用事とかあるのか?」
シペアが学園に戻って、ゼビリフを通してアミズと会えるようになったとする。
その後、また誰かが俺達のところにやってきて、学園に行くというのは無駄を感じる。
「いや、特に用事はないが…俺らって学園に入れると思うか?」
「アンディはいいでしょ。私なんてこれだよ?」
そう言って自分の頭の上を撫でるパーラ。
学園には基本的に部外者は入れない。
だが俺とパーラは学園から特別な許可を貰っており、教師の監視付ではあるが学園内へと入ることができる。
その権利は特に失効する期限もなく、いまだに有効ではあるが、見た目の種族が変わっているパーラは果たしてそのまま学園に入れるものなのか?
「…パーラの方は顔を隠してどうにかしよう。顔を怪我しているからって、ギルドカードで本人だと押し切るしかないな」
それで通るものなのかとも思うが、シペアの言う手が一番妥当か。
一応、噴射装置で空からこっそりと侵入するというのも考えたが、学園の壁は魔術で保護されていると聞いたし、警報ぐらいはありそうなのでやめておくべきだ。
「あ、そうだ。なぁシペア、学園の中で変わった手配書とか出回ってなかったか?」
懸念としてあった、学園内で俺が指名手配犯として扱われていないかということを尋ねてみる。
「手配書?学報板のとこにいくつかあったけど、変なのってどういうのだ?」
「ん…いや、気にならないならいいんだ」
怪訝そうな目を向けてくるシペアから、どうやら学園内で俺が指名手配されているということはないと思ってよさそうだ。
勿論、生徒には知らせていないということもあるが、ディケットの街中ですら俺の手配書がないくらいだ。
学園にもないという可能性は、シペアのこの反応でより高まった。
ますますもって、俺の指名手配はないものと思えてくるが、そうなると、あの性悪司教とイカれた聖鈴騎士が手を回していないということに不気味さを覚える。
謹慎処分を食らったから俺とも関わらないという、そんな殊勝な人間には思えないのだがな。
まぁ指名手配の心配がなくなり、動きやすくなったのはいいことだし、これで大手を振って学園に行ける。
…よもや、ここまでが実は全て策略で、学園に一歩足を踏み入れた瞬間に捕まるなんてことはないよな?
よそう、これ以上考えると怖い。
そうはならんやろと思おう。
「んじゃ、せっかくだし俺達も一緒に行くか。パーラの方はどうにもならなかったら、その時に考えよう」
「ま、どうせ暇だしね。もし止められたら、そこは私に任せて先に行って」
また雑な死亡フラグを口にする。
パーラに任せてどうなるというものでもないし、そうなったら一旦引くことも考えるとしよう。
「そういえばさ、スーリアって今どうしてんの?まだ召喚術の訓練を?」
学園に行くための準備をしていると、ふと思いついたようにパーラがシペアへと問いかけた。
パーラとスーリアはちょくちょく手紙でやり取りをしているが、最後に手紙をもらったのがもうずいぶん前のため、スーリアの最新情報はシペアから聞く方が確実だ。
「おう、頑張ってるぞ。最近は少し自由になる時間が増えて、ついこの前も俺と街で遊んだな」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ今日は?なんで一緒じゃないの?」
「ああ、それな。ほんとは一緒に来たがってたんだよ。けど、俺達って今日の授業は午後からでさ、スーリアがその準備の手伝いをする係なもんだから、俺だけが一人で来たってわけ」
「なんだ、そうだったの?それなら仕方ないか」
残念そうに言うパーラだが、今の姿で会うと、シペアにした説明をまた一からするというめんどくささもあることを忘れてはならない。
とはいえ、久々に友達と会うのだ。
その手間も敢えて受け入れて、再会を喜ぶというのも悪くはない。
どうせこれから学園に行くのだし、ちょっとした暇が出来たらスーリアとも会っておきたいものだ。
学園へ到着し、先にシペアが学園へと入ってゼビリフを呼んでくることになり、俺とパーラが門の前で待っていると、白が目立つ体色をもつ獣人がシペアとともにやってきた。
「やあ、久しぶりだね、二人とも。アンディ君と…パーラ君、でいいんだよね?」
穏やかな笑みのゼビリフが俺とパーラに声をかけるが、、フードを頭から被っているパーラにはやはり疑問符が付くようだ。
「どうも、ご無沙汰してます。ちょっと今は事情があって、パーラは顔を隠してますが、本人で間違いありません」
「ふむ、事情ね。よかったら聞かせてもらえるかな?」
「ええ、勿論です」
門から少し離れ、今の俺達の状況と目的をゼビリフに伝える。
多少後ろ暗いこともあるため、所々が欠けた説明となってしまったが、それでもおおよそは分かってもらえたようだ。
「…なんというか、ここ何年かで一番濃い、色々詰まった話だったかもしれない。加護を貰ったってのも凄いけど、それを封印するってのもとんでもない話だよ、これは。一応聞くけど、加護がどれくらい貴重で有用なのかは分かってるんだよね?」
「ええ、多少は。俺も加護の貴重さは教えられましたけど、何せ本人が困ってるものでして」
「まぁ加護を貰った人間で、こうなったっていうのは僕も初めて聞くがね。加護持ちもそう多くいないから、もしかしたらこういうのもあったかもしれないけど、それにしてもこの現象は中々興味深いよ」
知識の園と言っていい場所で働くゼビリフをして、聞いたこともない今のパーラの状態には、探求心が刺激されているのかもしれない。
普人種が獣人種に変わるというのは、それだけレアな現象なのだろう。
「僕としては、この状態のパーラ君を研究したいという思いはあるが、時間に限りがあるんだよね?」
「ええ。詳しい人の見立てだと約十日、今からだと八日後には普人種と獣人種のどちらかで固定されるとか」
「で、パーラ君は普人種の方がいいと?」
「うん。ここ二日ぐらいは獣人種の姿で暮らしてるんだけど、やっぱり元の体の方がいいって改めて思ってるもん」
「なるほどね……分かった。そういうことならアミズには僕から話を通そう。ただし、相応の対価は頂くことになるがいいかい?」
ゼビリフの言うことはもっともだ。
世の中というのは重要なものほど無償で与えられることはない。
これは十分に予想出来ていた。
「金ですか?」
「それも悪くないが、君達は冒険者だろう?その経験を生かして、あるものを探して欲しい」
「まぁ探し物は慣れてますから構いませんけど、どんなもので?」
もの探しとは、冒険者への頼み事としてはポピュラーではあるが、物によっては割に合わないということもあるので断るのも選択肢にある。
その場合、他の対価でどうにかしたいところだが、第二希望のネタで満足してくれるかは分からない。
「大したものじゃない。どこにあるかは分かっているし、手に入れて来いというわけじゃない。今も本当にあるかを確認してほしいんだ。まぁ、実物を手に入れてくれるなら最上ではあるがね。これ以上の情報は、君達が引き受けてくれたら教えるよ。どうかな?」
「アンディ…」
情報が不鮮明なまま依頼を受けるのはもっともやってはいけないことの一つだが、パーラの縋るような目を見てしまうと答えは決まった。
「わかりました。それを対価とすることを受諾します」
「そうか!よかった。いやぁ、実はこの件を誰に頼もうか困っていたんだ。白級で腕の立つ魔術師なら安心して任せられるよ。詳しい話は道すがら…はまずいか。先にアミズのところに行ってからだな。来たまえ」
そう言って歩き出したゼビリフに、俺とパーラも続こうとするが、それよりも一瞬早く、シペアが口を開いた。
「あ、ゼビリフ先生。俺は午後から授業があるんで、ここまでで」
シペアはここで離脱となった。
時刻的には昼まではまだ大分あるが、授業の準備なんかもあるだろうから、あまり長く一緒にはいられないか。
「おや、そうかい?ふむ、分かった。行ってきなさい」
「はい、失礼します。…てことだから二人とも、悪いが俺はここまでだ。後はゼビリフ先生がどうにかすると思うけど、結果だけは後で教えてくれ。じゃあな!」
「おう、どうなるかはわからんが、なんかで連絡する。そっちも勉強頑張れよ」
「スーリアには私のことはうまく言っといてね。あと、全部終わったらなんか食べに行こうってのも伝えて」
急ぎ足で立ち去っていくシペアにそう投げかけると、遠ざかる姿が手を振っていた。
見えてはいないだろうが、こちらも手を振り返しておく。
ゼビリフが俺達の身元を保証してくれたため、門の通行はあっさりと許されたのだが、顔を隠している怪しい奴を引き連れても特に止められることなく進んでいく様子に、学園における教師の信頼度の高さというのが垣間見えた。
「ゼビリフ先生、そのアミズという方とは親しいと聞きましたけど、教師同士の仲という以上の何かがあるんですか?」
久しぶりではあるが歩きなれた学園の道を歩きながら、暇を持て余しでもしたのかパーラがゼビリフとアミズの関係を尋ねた。
そう言えば、シペアからは親しいとしか聞いていないが、ただの教師仲間というだけならそういういい方はしないのではなかろうか。
「んん?まぁそうだね。僕とアミズは確かに教師としてよりも、ずっと強い絆があるのは確かだ」
「きゃっ!それってもしかして、男と女の!?」
急に興奮しだしたパーラの鼻息荒い言葉に、ゼビリフはこらえきれないといった風に笑いだしだ。
「あっはっはっはっは!まさか!僕と彼女はそういうのじゃないよ。アミズはね、僕の姉なんだよ。と言っても、義理のということになる。もともと幼馴染ってやつだったんだけど、彼女の姉と僕の兄が結婚してね」
「なーんだ、義理の姉弟か。つまんないの」
「こら、パーラ」
年頃の少女として、恋人同士のあれこれを知りたがったパーラだが、姉弟という答えを聞いて露骨にテンションを下げたのをたしなめる。
こちらから聞いておいて、その言い方はないだろうに。
「はっはっは、期待に応えられず申し訳ない」
パーラの失礼な言いようにも、特に気を悪くしないゼビリフは、恐らくこの手の質問を何度かされているのかもしれない。
義理とはいえ姉弟だ。
学園内で仲良くしているところを見て、興味を持った生徒が…というのは普通に予想できる。
「さあ、着いたよ。ここがアミズの研究室だ」
そうしているうちに目的地に着いたようで、ゼビリフが指さす先にはこじんまりとした石造りの建物があった。
ここは学園の敷地内でも奥まっており、あまり目立つような場所ではない。
学園にあるほかの研究棟とは違い、まるで隔離されたように感じるのが少し気になってしまう。
三階建ての外壁は窓も少ないし、蔦と苔がそこかしこに見える様子には、あまり手入れは行き届いていないようではある。
所々に茶色く焦げたような草も見えるが、ちょっとしたボヤでもあったのだろうか。
何かの遺跡だと言われれば納得できてしまう外観に、しばらく呆然としてしまうが、そんな俺達とは違ってゼビリフは勝手知ったるといった様子で扉へと向かい、軋む音を立てて頑丈そうな扉を開いていく。
「ぐくっ、また固くなったなぁ。この扉もその内手直しを…さ、入って入って」
最後に動物の唸り声を錯覚させる重い音を響かせて、完全に開かれた扉をくぐって室内へと入る。
中は明かりがないせいで薄暗いが、色々と散らかっているのだけはよく分かる。
様々な形態の書物に、何かの祭器のようなガラクタ一歩手前の金属の塊や、剣や弓に衣服といったものが散乱しているなか、食べかけのパンが地面に落ちている光景には流石に引いてしまう。
研究者らしいと言えばらしいが、これはあまりにもひどい。
そんな具合に周りを見ていると、突然室内に光が生まれた。
ゼビリフが灯したランプの光で、よく見えるようになった部屋の一番奥の方、布が大量に積み重なっているところに倒れこんでいる人影が見えた。
一瞬死体かとも思ったが、寝息を立てている様子から生きてはいるようだ。
見えている体つきから、女性だというのは分かる。
「ゼビリフ先生、あそこにいるのってもしかして」
「あぁっ、またあんなところで寝て…しょうがないな」
人影がアミズではないかと尋ねるが、それに答えるよりもまずゼビリフが近づいて行った。
肩を揺さぶったり声をかけるが、起きる気配がない。
「アミズ!こんなとこで寝たらだめじゃないか!ほら起きて!」
呼びかける名前から、どうやら彼女がアミズその人で間違いないらしい。
「…なんかだらしない人っぽいね」
「研究者ってのは大体こんなもんだろ」
「いや人によるでしょ。メイエルさんはこんなんじゃないし」
パーラに言われ、メイエルはどうだったか思い出そうとするが、そもそも俺はメイエルの部屋を知らないので比較はできない。
ただ、メイエルはメイエルで癖の強いところがあるので、パーラの知らない一面も持ち合わせているものだ。
シペアの言っていたアミズが変わり者だと言うのも、部屋のことを指しているとしたら十分許容範囲だが、俺の勘では致命的な何かを抱えてそうな気がしてならない。
「んー…何よーうるさいわねー。ゼビ坊、あんたもうちょっと穏やかに…」
ようやくゼビリフの呼びかけが効果を見せたのか、眠気を隠さない顔を持ち上げたアミズが、俺達を見てボケっとした目に変わる。
どうやら起き抜けに知らない人間が部屋にいることが不思議なのか、じっとこちらを見る目からは感情が読み取れない。
アミズはゼビリフと同じような狼系の獣人のようだが、赤茶の髪の毛が爆発したように全方位へと広がっている様子から、ハリネズミの獣人だと言われても信じてしまいそうだ。
寝巻替わりなのか、色あせたドレスローブから浮き上がるような体つきがやせ細って見えることから、不健康というほどではないが栄養は足りていないのではないだろうか。
顔つきは普人種のそれだが、クリっとした目がハスキー犬のような印象を抱かせる。
段々とアミズの視線が探るようなものに変わってきたため、これは挨拶をするべきかと思った次の瞬間、その場から全身のばねを使ってアミズが飛び上がって、5メートルはある距離を一瞬で詰めてパーラにしがみついてきた。
「う、うわぁあああ!なに!?なんなの!?」
「ちょっとちょっと!なにこれなにこれ!?普人種の体に人狼の因子が絡みついてるじゃない!こんなの初めて見るわ……面白い。ゼビリフ!人体実験よ!器具を準備なさい!」
予備動作のない飛び掛かりを食らって焦るパーラに、目をギラつかせたアミズが物騒なことを口にする。
なるほど、変わり者というのはこれを指しているのか。
俺が見てきた研究者という人種は比較的まともな人間ばかりだったようで、研究バカではあるが倫理観は持ち合わせていたと思う。
だがこのアミズは、出会ってすぐにパーラへ実験をしようとするなど、理性を欲求が蹴り飛ばしている恐ろしいタイプと見た。
しかし、優秀なのは何となくわかる。
一目見ただけでパーラが元々普人種であることと、狼の加護の一片を見抜いた眼力とでも言おうか、そういう能力か知識を持ち合わせているのは、研究者としては有能で有用だと言える。
封印術を求めて会いに来たわけだが、これは期待してもよさそうか?
まぁそれはともかく、まずは半べそ状態のパーラを助けるとしようか。
人体実験という言葉を聞いてからのパーラは、可愛そうになるほどにビビッている。
あの剣幕での迫り方には、生体の検証をすっ飛ばして解剖にいくぐらいの勢いがあったからな。
出会って即解剖とかは流石に俺が許さんから、そう不安そうな顔をするなよ。
応援ありがとうございます!
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