通りすがりの日常。

花房山

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その傍らでは。

秘密のお茶会 -六堂 悠 と 十ヶ鬼 伶-

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放課後の時間

まだ学生が部活に励み友と語らう為、
校舎内外には沢山の人影があった。

校舎の最上階南側にある回廊を渡るしか行くことの出来ない
学徒特別棟。
そこは生徒による生徒のための棟。
最下階から最上階すべてが生徒のみで使用できる特別室になっている。
会議室や調査室、資料室、闘技室、はたまた調理室や裁断室など
様々な部屋がある。
簡易な申請のみで気軽に使用できるとあって
人気を博している。
まぁその分身にかかる責任と言うものは中途半端なものじゃぁないが。

だがその中で唯一人の寄り付かない閑散とした場所がある。
学徒特別棟の最上階のその一番奥。
アンティーク調の大きな両開きの扉。
その扉の上にはこれまたアンティーク調の額縁が
飾られており、中の半紙にはやけに達筆な字で「生徒会室」と
墨で書かれている。

今期の生徒会が発足しまだ1ヶ月。
生徒たちの間に流れる噂と言う名の事実。
それこそが人が寄り付かない原因である。

ーーーどうやら生徒会長は『変人』らしい。




「おやおやおや」

日当たりのあまり良くない窓から下を眺めてみたら、
見覚えのあるツンツン頭が元気に動いていた。

「いやはや、元気が良すぎるのも難儀かな」

南にあたる窓側は、校舎のおおよそ裏の「開放区分」に
面している。
開放区分とはその名の通り誰でも自由に使える場所だ。
芝生の植わった広い空間の周りは生け垣で囲われた小さな休憩所が
幾つか点在している。
傍を流れる佐来川の脇には川床をつくり、人工的な河原にはBBQ設備がある。
まるでちょっとしたキャンプ地のようだ。
理事長の新しい遊び心が発展し今年やっと完成したとか。

話は逸れたが、自由な空間であるからこそ
目下芝生の上で伸びている所謂不良さんたちも
自由に使えるわけで。
両開き窓を開け、枠に頬杖をつき見下ろす。
微かな蝶番の軋む音に気がついたのか、
唯一地を踏みしめているツンツン頭が此方を仰ぎ見る。
どれだけ地獄耳なのだ彼奴は。
ひらひらと笑顔もつけて手を降ってやれば
遠目でもわかるほどに顔を顰め、逸らす。
そして近くに倒れている不良その1の頭を
容赦なく蹴り飛ばしそこから立ち去る。

「可哀想になぁ。ま、自由には責任が付き物さね」

窓から離れ、自分の使用している机の隅にある
無線機のボタンを押し要件のみ伝える。

「ーー裏の掃除を頼む」

さてさて。
今頃不本意な表情をしながら廊下を踏み鳴らしてるだろうから
ご褒美を用意しなくてはいけないな。

机の引き出しからピンクの上品で可愛らしいテーブルクロスを出し、
いつもはテーブルランナーのみの応接机に掛ける。
給湯室の棚から白い陶器に淡い花模様の描かれたティーセットを用意し、
お茶の準備をする。
有名所から取り寄せたガトーショコラとベリームースケーキを
ティーセットと同様のメーカーの小皿に乗せ、金色のケーキフォークを添える。
それらを全てトレーに乗せ応接机まで運ぶ。
最後に母から昨日送られてきた手作りのテディベアを
定位置の椅子に持たれ掛けさせたら準備は整った。

そろそろか。

少々乱暴に生徒会室の扉が開かれる。
そこには先程のツンツン頭、こと十ヶ鬼 伶が人一人殺せそうな
極悪ヅラで立っていた。

「やぁ、ご苦労だったな」

労りの言葉を掛けると、
表情は変わらずに近づいてくる。
きっと一般の生徒ならば失神して現実逃避をしていただろうが、
そんな事態にはならない。
そもそもこれはそうじゃぁない。
それはーーー

「おい」
「ん?なんだ?」
「届いたかよ」
「あぁ、そこに座っているだろう」

ほれ、とどうやら周りが見えていなかったらしい十ヶ鬼に
椅子を示してやればより一層凄みのました顔で見つめる。

テディベアを。

たっぷり10秒凝視した後、
大きくゴツい手でテディベアをそっと持ち上げると、
代わりに座った自分の膝の上に置き抱きしめた。

なんとも奇妙な光景ではあるが、
こいつは何を隠そう、「可愛いもの」と「甘いもの」が大好きである。
そして基本感情と顔がミスマッチだ。
こいつの恐い顔の裏側は期待と喜びである。
今は花まで飛ばしそうな勢いだ。

きっちり蒸らした紅茶とともにケーキを差し出せば、
鋭くなる眼光。
大きい手で小さなフォークを器用に使い、
ケーキを食べ始める。

「…うまい」
「お前さんが言っていた店のものだ」
「!…なんだと」
「いやなに、母がたまたま出張で出向いた先にあったそうでな」
「…礼を言っておけ」
「あぁ、次はお前さんの好きなパウンドケーキを送るそうだ」

花が舞ったな。

「さて、先程の事は報告してもらえるだろうか」
「…1年G組の奴らだった」
「ほう、新入生か、まぁそうだよな、
 お前さんに喧嘩売るやつなんざめっきり減ったからな」
「いまじゃ顔見ただけで失神しやがる」
「大半の生徒はそうだろう、お前さんの顔は些か夢見に悪いからな」
「…」
「はは、そう睨むな」
「…ちっ」

紅茶を飲み、一息つく。
解放区分にはまだ遅咲きの桜がその美しさを様々と見せつけるように咲き誇っている。
発足して一ヶ月の内に様々な事があった。
それは賞賛されるものもあれば、人目に決して触れてはならないものもある。
生徒会役員たちは振り回されながらも、着いてきている。むしろ先立って動くものが居るくらいだ。
それは、此奴にも当てはまる。

「これからもよろしく頼むぞ、十ヶ鬼」
「なんだ急に」

嫌そうに顔を歪める様はまさに悪鬼の如く。
しかしそれも見慣れれば、愛嬌のある顔に見えるから不思議なものだ。
(後日、役員たちから奇異の眼で見られた)

「それにしてもだな、のう十ヶ鬼」
「あ?」
「もっと気軽に遊びに来てくれても良いのだぞ?」
「あぁ?!行く訳ねぇだろうが」
「次はな、フルーツタルトを母に頼もうかと思ってな」
「!」
「あと、ティーセットも新しいのが届く予定でな」
「!!」
「あぁそうだ、母が今は親子のテディベアを製作中で」「行く」

そんな「しまった!」みたいな顔をしても遅いぞ。


「そうかそうか!いやぁ楽しみだなぁ!」
「~~っくそ」


こうして秘密のお茶会はひっそりと開催されている。

「生徒会長は番長がお気に入り」なんて噂が流れるのもそう遠くはない。


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