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第十二話 定番モンスター、の巻
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この世界に来て初めて出会った『魔物』は、正直予想以上にしょうもなかった。
森に入って一分。前足が異常に発達した蛙みたいな生き物が出てきたのだが、それが魔物であったらしい。
でも大きさは子犬程度だし、動きもゆっくりで鈍かったのだ。その上、出てきた瞬間スピカちゃんの大斧がドーン。木っ端微塵である。
「ああ、やっちゃいましたっ。スマイルフロッグは前足を持ち帰らないと倒した証明にならないのに……どうしましょうご主人様!」
「別に良いんじゃないの。どうせ1Gとかでしょ」
拍子抜けしつつも森の奥へ。
その間も、出てくる魔物をスピカちゃんの豪腕が次々と粉砕していく。
まるでソシャゲの一面に鍛え上げた最高レアを連れて来た気分だ。狼みたいな魔物とか、細木に擬態した魔物とか色々出てきたけど、全部一発で完全粉砕。
(強過ぎでしょ。破壊力が高過ぎて稼げないのが欠点だけど……)
要らないとはいえ、勿体無いとは思うのだ。中流家庭で育った男の貧乏性である。
そうして無双ゲームもかくやという速度で進むこと二十分。眠そうにふらふらするククナを引っ張りながら歩いていれば、徐々に周囲の景色が変わってくる。
「ご主人様、この辺りは何かおかしいです。木々が妙に枯れていて……あれだけ足元を覆っていた雑草もほとんどありません」
「歩きやすくて良いけどね、俺は。けど……これは当たりだな。おっぱいさんから聞いた、目当ての魔物の特徴と一致する」
この異常を追って行けば、その先に目当ての魔物が居るはずだ。
「気を抜かずに進もう。視界は開けてるけど、巧みに隠れてるかもしれないしな。……ほら、いい加減起きませい! 標的は近いぞ!」
寄り掛かって来るククナを激しくシェイク。
不満気に喉を鳴らす彼女を引き摺り、更に先へ。
その途中、スピカちゃんが周囲を警戒しながら訊いて来る。
「ところでご主人様。その目当ての魔物はどんな姿をしているんですか? まだ、その魔物についての情報をほとんど聞かされていないんですけど……」
「あー、そうだっけ。ええっと……胴体は像。脚は麒麟。尻尾は鰐。体表に鋼のように硬く、妖しい紫色に光る鱗を持ち、糞みたいなバランスの癖に俊敏に動く」
「え? え? きょ、脅威度は低いんじゃあ……?」
「それから肝心なのは顔だな。顔は、賭博で全てを失って絶望のまま帰路につく中年男性と、土から引き抜かれたマンドラゴラを足して二で割らずに、禿げ鷹を加えたような顔だそうだ。そう、あんな感じに」
「え……?」
指差せば、スピカちゃんが油の切れたブリキの玩具のように首を動かす。
その先に、一軒家にも匹敵する巨体があった。像と麒麟と鰐とその他諸々を足したような、失敗したキメラみたいな不気味な魔物。
下呂吐くような奇怪な遠吠えが響き渡る。どうやらあちらさんも俺達に気付いたらしい。
「あれが討伐目標の魔物。『クッチャラベンツツァー!』だ。感嘆符まで含めて名前だから間違えないようにな、人の名前を間違えるなんて失礼だぞ」
「いえ、そんな事を言ってる場合じゃ……って早い! ご主人様、何時の間にそんなに遠くに!?」
「俺はこの木の陰から二人の健闘を見守ってるよ。必要な素材は頭部に少しだけ生えてるピンクの毛だから。それだけ傷つけないように、あとはガンバ☆」
「えぇっ、そんな行き成り……あーもう、行くよお姉ちゃん!」
「……ガンバ、妹」
「ご主人様と一緒に隠れないで! ほら、お姉ちゃんも戦うの!」
えー、と言いながらも渋々出て行くククナ。
戦いは直ぐに始まった。スピカちゃんが大斧を担ぎ先行し、その後ろをショートソードを両手に持ったククナが音も無く追随する。
迫る敵手を前に、クッチャラベンツツァー! はもう一度遠吠え。枯れ木の間を軽々と跳躍し二人を見事に翻弄していく。
「さて。こっちも準備しましょうかね」
動き回る魔物を相手に二人が右往左往している間に、俺は胸ポケットからとある機械を取り出した。
みーんな知ってる便利な現代機械。俺がこの世界に転移……というか落とされた時も同じ場所に入っていて、一緒にやって来た我が相棒。
「ててててー。スマ~トフォン~」
某狸みたいに言いながら、俺はスマホの電源を入れた。
この時点で皆、あれ? と思った事だろう。異世界に来てから二ヶ月以上も経ってるのに、どうしてスマホの電源が保つんだよ、と。
その理由は簡単だ。この二ヵ月半の間に、近隣の魔法使いさんと協力し、電気の魔法による充電を成功させていたからである。
と言ってもこれは、単に賭けが成功したに過ぎない。どうせこのままじゃ使い物にならないし、駄目で元々。壊れても良いからやってみよう! と充電してみた所、偶然上手くいったのだ。
ま、スマホが起動出来たところで大した事も出来ないんですけどね。ネットに繋がる事は当然無いし。これを媒介に魔法を、何て超展開も当然無い。
じゃ、俺がどうしてこのスマホを今起動したのかだが。
「いや~、動画撮影するなんて久々だなぁ。えっと、此処をタップして……これで良いんだよな?」
準備完了。さぁ、何時でもバッチ来い!
「きゃー!? ご、ご主人様!?」
タイミングを計ったように響く少女の悲鳴。
スマホ越しにその声の元へ視線を向ければ、
「ふ、服が! この魔物、服を溶かしてきます~!」
あられもない姿になったスピカちゃんの姿があったのです。
いやー、定番だよね。服を溶かすモンスター。実際この目で見ると、何処か清々しい気持ちになるよ。
スマホで動画を取りながら、涙目のスピカちゃんにサムズアップ。
「頑張れー。大丈夫、そいつ体液を飛ばして服を溶かす以外、攻撃はしてこないから。命の危険は皆無よー」
「い、いえ、命の危険は皆無でも人としての尊厳はピンチなんですが!? うあっ!? そ、そこは駄目です~!」
話している間に、魔物が口から飛ばした体液がスピカちゃんに直撃。
見事に胸部の服が溶けて消え去る。いかんいかん、早くアップにしないと。
「じ~……」
「み、見ないで下さいご主人様!? 後ろ向いててくださいっ!」
そう言われても。一応魔物と戦ってるわけだし、戦場に背は向けられないって。
と、そうこうしている間に今度はククナだ。素早い身のこなしで体液を避けていた彼女だが、遂に被弾。散弾のように放たれた体液を受け、黒いワンピースがあっという間に穴あきチーズに。
「うーむ。何時もベッドで見る下着姿に比べ、露出は少ないはずだが……ぼろぼろになった服って、不思議な背徳感がありますのう」
しっかり録画。あ、ちょこちょこ動くなっ。上手く撮れないでしょーが!
「しかしあの魔物も大したもんだな。二人を相手にして未だに無傷とか。デカイ図体のくせに素早しっこ過ぎるぞ」
そりゃ、そこ等の冒険者じゃ手に負えませんわ。これで体当たりの一つもしてきたら普通に強くね? 変態の癖に平和主義者でよかったよ。
「ふふふふ、どんどん二人があられもない姿になっていくぞ~。……っておい。こっち来るなー!」
「こうなったらご、ご主人様も脱がされてしまえ良いんですぅ~!」
此方に走って逃げてくるスピカちゃん。それを追いかけるクッチャラベンツツァー!。
俺に気付いた奴の口が開き、そこから体液が迸る。あれを喰らえば俺もあられもない姿に……!
「却下だ却下! 俺の裸など誰に需要があるものかぁあああ!」
気合で避ける。次々と体液が降り注ぐが、蛇のようにくねくねとした動きで避け続けるっ。
「嘘っ!? ご主人様ってそんな強かったんですか!?」
「強くはなーい! しかしな、これでも異世界に来て二ヶ月。実はちょこちょこ身体を鍛えたりしてたのだ! こんな事もあろうかとなっ!」
ま、武器は何一つ扱えないし、実質戦闘力はゼロですが。
その代わり体力はついたし、妄想の仮想的と戦い続けた事で回避能力だけは爆上がりした。おかげでこうして、動画を撮影しながら回避する余裕まである。
「ふははははは、俺を嵌めようたってそうはいかんぞ。さあ、戦え! 服を犠牲に奴を倒すのだ!」
見事体液を回避しきった俺は、ダッシュでその場から離れると再度木陰に身を隠した。
無駄だと悟ったのだろう。スピカちゃんも諦めたように魔物に立ち向かっていく。丸出しのお尻がなんともセクシー。
「……スピカ。私が動きを止める。その間に仕留めて」
「お、お姉ちゃん……。うん、分かった。一撃で叩き潰すよ!」
物騒なやり取りをし、二人が同時に駆け出す。
あのー、気合を入れるのは良いんですけど気をつけてね? 素材はちゃんと確保してよ?
「……シャドウ・クロック。『セカンド』」
あれ、俺の目がおかしいのかな。ククナが二人居るように見えるぞ……?
ショートソードを一本ずつ持った二人のククナが、魔物の周囲を跳ね回る。行き成り増えた敵に魔物が驚いている間に彼女が駆け抜ければ、いつの間にか奴の身体には黒い糸のような影が絡み付いていた。
「……アビス・ストリングス。スピカ、今」
「うん。こんなに恥ずかしい思いをさせて……絶対許さないから!」
魔物の正面に立ったスピカちゃんが、力強く地を踏み締め大斧を肩に担ぐ。
その身体からは何か知らんけどオーラみたいなものが勢い良く立ち昇っていた。多分魔力なんだろうけど、激しすぎて怖いです。乙女の怒りがそのまま形になったみたい。
捻られる体。握り締められる両手。地が罅割れ、大気が震える。
「お、おい、本当に大丈夫だよな? また跡形もなく消し飛んだりしないよな?」
俺の心配を余所に、目の前の脅威にびびったのだろう。クッチャラベンツツァー! の口が開き、一際大量の体液をスピカちゃんへと浴びせかける。
が、何とスピカちゃんこれを無視。体液を喰らいながら右脚を前に出し、大斧を思いっきり振りかぶる。
「セレスティアルザンバー!」
眩い光が、大斧から解き放たれた。
袈裟懸けに振り下ろされた斧に従って、光の斬撃が迸る。その巨大な光刃は身動きの取れない魔物を容易く両断し、体躯の六割を消し飛ばす。
後に残ったのは、支えるモノを失った四つの脚と、胴体を失ってぼとりと落ちた悲壮な頭部だけだった。
いや、良かった。頭部が残って。これで素材は無事持って帰れそうだ。
「……ふぅ……」
ところでさ。斧を振り下ろした体勢のまま、格好良く残身してるのは良いんだけどさ。
スピカちゃん。真っ裸だよ?
(まぁ……このまま撮影してるのも良いか)
スピカちゃんが自分の格好に気付いて悲鳴を上げるまで、俺は動画撮影を続行しました。思い出作りって大切だよね。
森に入って一分。前足が異常に発達した蛙みたいな生き物が出てきたのだが、それが魔物であったらしい。
でも大きさは子犬程度だし、動きもゆっくりで鈍かったのだ。その上、出てきた瞬間スピカちゃんの大斧がドーン。木っ端微塵である。
「ああ、やっちゃいましたっ。スマイルフロッグは前足を持ち帰らないと倒した証明にならないのに……どうしましょうご主人様!」
「別に良いんじゃないの。どうせ1Gとかでしょ」
拍子抜けしつつも森の奥へ。
その間も、出てくる魔物をスピカちゃんの豪腕が次々と粉砕していく。
まるでソシャゲの一面に鍛え上げた最高レアを連れて来た気分だ。狼みたいな魔物とか、細木に擬態した魔物とか色々出てきたけど、全部一発で完全粉砕。
(強過ぎでしょ。破壊力が高過ぎて稼げないのが欠点だけど……)
要らないとはいえ、勿体無いとは思うのだ。中流家庭で育った男の貧乏性である。
そうして無双ゲームもかくやという速度で進むこと二十分。眠そうにふらふらするククナを引っ張りながら歩いていれば、徐々に周囲の景色が変わってくる。
「ご主人様、この辺りは何かおかしいです。木々が妙に枯れていて……あれだけ足元を覆っていた雑草もほとんどありません」
「歩きやすくて良いけどね、俺は。けど……これは当たりだな。おっぱいさんから聞いた、目当ての魔物の特徴と一致する」
この異常を追って行けば、その先に目当ての魔物が居るはずだ。
「気を抜かずに進もう。視界は開けてるけど、巧みに隠れてるかもしれないしな。……ほら、いい加減起きませい! 標的は近いぞ!」
寄り掛かって来るククナを激しくシェイク。
不満気に喉を鳴らす彼女を引き摺り、更に先へ。
その途中、スピカちゃんが周囲を警戒しながら訊いて来る。
「ところでご主人様。その目当ての魔物はどんな姿をしているんですか? まだ、その魔物についての情報をほとんど聞かされていないんですけど……」
「あー、そうだっけ。ええっと……胴体は像。脚は麒麟。尻尾は鰐。体表に鋼のように硬く、妖しい紫色に光る鱗を持ち、糞みたいなバランスの癖に俊敏に動く」
「え? え? きょ、脅威度は低いんじゃあ……?」
「それから肝心なのは顔だな。顔は、賭博で全てを失って絶望のまま帰路につく中年男性と、土から引き抜かれたマンドラゴラを足して二で割らずに、禿げ鷹を加えたような顔だそうだ。そう、あんな感じに」
「え……?」
指差せば、スピカちゃんが油の切れたブリキの玩具のように首を動かす。
その先に、一軒家にも匹敵する巨体があった。像と麒麟と鰐とその他諸々を足したような、失敗したキメラみたいな不気味な魔物。
下呂吐くような奇怪な遠吠えが響き渡る。どうやらあちらさんも俺達に気付いたらしい。
「あれが討伐目標の魔物。『クッチャラベンツツァー!』だ。感嘆符まで含めて名前だから間違えないようにな、人の名前を間違えるなんて失礼だぞ」
「いえ、そんな事を言ってる場合じゃ……って早い! ご主人様、何時の間にそんなに遠くに!?」
「俺はこの木の陰から二人の健闘を見守ってるよ。必要な素材は頭部に少しだけ生えてるピンクの毛だから。それだけ傷つけないように、あとはガンバ☆」
「えぇっ、そんな行き成り……あーもう、行くよお姉ちゃん!」
「……ガンバ、妹」
「ご主人様と一緒に隠れないで! ほら、お姉ちゃんも戦うの!」
えー、と言いながらも渋々出て行くククナ。
戦いは直ぐに始まった。スピカちゃんが大斧を担ぎ先行し、その後ろをショートソードを両手に持ったククナが音も無く追随する。
迫る敵手を前に、クッチャラベンツツァー! はもう一度遠吠え。枯れ木の間を軽々と跳躍し二人を見事に翻弄していく。
「さて。こっちも準備しましょうかね」
動き回る魔物を相手に二人が右往左往している間に、俺は胸ポケットからとある機械を取り出した。
みーんな知ってる便利な現代機械。俺がこの世界に転移……というか落とされた時も同じ場所に入っていて、一緒にやって来た我が相棒。
「ててててー。スマ~トフォン~」
某狸みたいに言いながら、俺はスマホの電源を入れた。
この時点で皆、あれ? と思った事だろう。異世界に来てから二ヶ月以上も経ってるのに、どうしてスマホの電源が保つんだよ、と。
その理由は簡単だ。この二ヵ月半の間に、近隣の魔法使いさんと協力し、電気の魔法による充電を成功させていたからである。
と言ってもこれは、単に賭けが成功したに過ぎない。どうせこのままじゃ使い物にならないし、駄目で元々。壊れても良いからやってみよう! と充電してみた所、偶然上手くいったのだ。
ま、スマホが起動出来たところで大した事も出来ないんですけどね。ネットに繋がる事は当然無いし。これを媒介に魔法を、何て超展開も当然無い。
じゃ、俺がどうしてこのスマホを今起動したのかだが。
「いや~、動画撮影するなんて久々だなぁ。えっと、此処をタップして……これで良いんだよな?」
準備完了。さぁ、何時でもバッチ来い!
「きゃー!? ご、ご主人様!?」
タイミングを計ったように響く少女の悲鳴。
スマホ越しにその声の元へ視線を向ければ、
「ふ、服が! この魔物、服を溶かしてきます~!」
あられもない姿になったスピカちゃんの姿があったのです。
いやー、定番だよね。服を溶かすモンスター。実際この目で見ると、何処か清々しい気持ちになるよ。
スマホで動画を取りながら、涙目のスピカちゃんにサムズアップ。
「頑張れー。大丈夫、そいつ体液を飛ばして服を溶かす以外、攻撃はしてこないから。命の危険は皆無よー」
「い、いえ、命の危険は皆無でも人としての尊厳はピンチなんですが!? うあっ!? そ、そこは駄目です~!」
話している間に、魔物が口から飛ばした体液がスピカちゃんに直撃。
見事に胸部の服が溶けて消え去る。いかんいかん、早くアップにしないと。
「じ~……」
「み、見ないで下さいご主人様!? 後ろ向いててくださいっ!」
そう言われても。一応魔物と戦ってるわけだし、戦場に背は向けられないって。
と、そうこうしている間に今度はククナだ。素早い身のこなしで体液を避けていた彼女だが、遂に被弾。散弾のように放たれた体液を受け、黒いワンピースがあっという間に穴あきチーズに。
「うーむ。何時もベッドで見る下着姿に比べ、露出は少ないはずだが……ぼろぼろになった服って、不思議な背徳感がありますのう」
しっかり録画。あ、ちょこちょこ動くなっ。上手く撮れないでしょーが!
「しかしあの魔物も大したもんだな。二人を相手にして未だに無傷とか。デカイ図体のくせに素早しっこ過ぎるぞ」
そりゃ、そこ等の冒険者じゃ手に負えませんわ。これで体当たりの一つもしてきたら普通に強くね? 変態の癖に平和主義者でよかったよ。
「ふふふふ、どんどん二人があられもない姿になっていくぞ~。……っておい。こっち来るなー!」
「こうなったらご、ご主人様も脱がされてしまえ良いんですぅ~!」
此方に走って逃げてくるスピカちゃん。それを追いかけるクッチャラベンツツァー!。
俺に気付いた奴の口が開き、そこから体液が迸る。あれを喰らえば俺もあられもない姿に……!
「却下だ却下! 俺の裸など誰に需要があるものかぁあああ!」
気合で避ける。次々と体液が降り注ぐが、蛇のようにくねくねとした動きで避け続けるっ。
「嘘っ!? ご主人様ってそんな強かったんですか!?」
「強くはなーい! しかしな、これでも異世界に来て二ヶ月。実はちょこちょこ身体を鍛えたりしてたのだ! こんな事もあろうかとなっ!」
ま、武器は何一つ扱えないし、実質戦闘力はゼロですが。
その代わり体力はついたし、妄想の仮想的と戦い続けた事で回避能力だけは爆上がりした。おかげでこうして、動画を撮影しながら回避する余裕まである。
「ふははははは、俺を嵌めようたってそうはいかんぞ。さあ、戦え! 服を犠牲に奴を倒すのだ!」
見事体液を回避しきった俺は、ダッシュでその場から離れると再度木陰に身を隠した。
無駄だと悟ったのだろう。スピカちゃんも諦めたように魔物に立ち向かっていく。丸出しのお尻がなんともセクシー。
「……スピカ。私が動きを止める。その間に仕留めて」
「お、お姉ちゃん……。うん、分かった。一撃で叩き潰すよ!」
物騒なやり取りをし、二人が同時に駆け出す。
あのー、気合を入れるのは良いんですけど気をつけてね? 素材はちゃんと確保してよ?
「……シャドウ・クロック。『セカンド』」
あれ、俺の目がおかしいのかな。ククナが二人居るように見えるぞ……?
ショートソードを一本ずつ持った二人のククナが、魔物の周囲を跳ね回る。行き成り増えた敵に魔物が驚いている間に彼女が駆け抜ければ、いつの間にか奴の身体には黒い糸のような影が絡み付いていた。
「……アビス・ストリングス。スピカ、今」
「うん。こんなに恥ずかしい思いをさせて……絶対許さないから!」
魔物の正面に立ったスピカちゃんが、力強く地を踏み締め大斧を肩に担ぐ。
その身体からは何か知らんけどオーラみたいなものが勢い良く立ち昇っていた。多分魔力なんだろうけど、激しすぎて怖いです。乙女の怒りがそのまま形になったみたい。
捻られる体。握り締められる両手。地が罅割れ、大気が震える。
「お、おい、本当に大丈夫だよな? また跡形もなく消し飛んだりしないよな?」
俺の心配を余所に、目の前の脅威にびびったのだろう。クッチャラベンツツァー! の口が開き、一際大量の体液をスピカちゃんへと浴びせかける。
が、何とスピカちゃんこれを無視。体液を喰らいながら右脚を前に出し、大斧を思いっきり振りかぶる。
「セレスティアルザンバー!」
眩い光が、大斧から解き放たれた。
袈裟懸けに振り下ろされた斧に従って、光の斬撃が迸る。その巨大な光刃は身動きの取れない魔物を容易く両断し、体躯の六割を消し飛ばす。
後に残ったのは、支えるモノを失った四つの脚と、胴体を失ってぼとりと落ちた悲壮な頭部だけだった。
いや、良かった。頭部が残って。これで素材は無事持って帰れそうだ。
「……ふぅ……」
ところでさ。斧を振り下ろした体勢のまま、格好良く残身してるのは良いんだけどさ。
スピカちゃん。真っ裸だよ?
(まぁ……このまま撮影してるのも良いか)
スピカちゃんが自分の格好に気付いて悲鳴を上げるまで、俺は動画撮影を続行しました。思い出作りって大切だよね。
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