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ごー
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いつから、そうしていたのか。
俺は魂が抜けた様に、壁にもたれかかっていた。動く気にもならないし、力なんて入らなかった。俺の心は、弟に盗られてしまったみたいだ。
目頭が熱くて、頬に熱い液体が絶えず流れ続けて、俺は壊れたガラクタの様にずっとそこにいた。瞬きをするたびに、目から涙がこぼれてく。
俺は、本当に壊れてしまったのか。
しばらくしてから、とん、とん、とん、と丁寧にドアを叩く音が聞こえた。
「天志君、天志君。僕だよ。悠太。入っていい?」
ドアの向こうから、悠太の弾む声が聞こえる。頭の奥で、悠太の顔が浮かぶ。あまり、弟には似ていない、むしろ、漠さんによく似た、優しい顔の悠太。
「ゆうた」
思わず名前を呼んだその声は、自分でも驚くほど小さくて、弱かった。糸屑のように脆くて、何もできない弱い俺そのものだった。俺の心は石ころになって、深く深く暗い何処かに沈んでいくみたいだった。元々、この世界が、俺の世界だったんだ。
でも、また、あの時みたいに、光が、
「天志君?」
暗い部屋をふわりと照らすのは、月の光とそれを背にした悠太だった。まだ何も知らない。まだ、何もわからない、小さな悠太。子供。俺は、悠太が酷く羨ましくなった。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
少し、戸惑ったようなその言葉に俺はいきなり現実に戻ってくる。今まで動かなかった体が、いとも簡単に動き、今まで石ころだった心に熱さが戻ってくる。
「見るな!!」
「天志く…」
「俺を見るな!!出てけ!!俺の事なんかほっといてくれ!!」
恥ずかしい。一番弱いところを、こんな情けない姿を子供に見られるなんて。悠太が何か言っているが、何も聞かなかった。耳を塞いで身を縮め、このまま消えてしまいたかった。
もう何もみたくない。俺の姿に絶望する悠太も、この世界も。何もかも。
「ゆうた…たのむ…俺の事なんて…ほっといてくれ…」
悠太が出て行くのを待っていると、いきなりぎゅうっと頭を抱きしめられた。
「な」
「天志君。僕が、天志君を守ってあげる」
俺を抱きしめる力が強くなる。俺が、緩くそれを解こうとすれば悠太はまだ強く俺を抱きしめる。
「はっ…放せ…俺は…俺は…違う。違うんだ。お前にそんなこと思ってもらうほどの人間じゃ」
「ぼくは、天志くんが好きだよ」
迷いない声だった。子供の声だとは思えないほどの。まっすぐな迷いのない。凛とした。
「ゆうた…」
「…僕が守ってあげたら、天志君は外も平気になるでしょう?いっぱい、きれいなものを見られるし、いっぱい僕と遊べる」
「ゆうた…おまえ…」
「だから、泣かないで」
優しい言葉が俺に降り注ぐ、優しい手が俺の頭を撫でる。優しい笑顔が、ぼろクズのような俺を包む。
「僕がずっと天志君を守るから」
俺は、悠太をうらやましいと思った俺を恥じた。こんなにも人を思いやってやれる子に、まだ小さな子供に、こんなことを言わせる自分にも。
抱きしめられたまま、俺は悠太の髪を撫でる。
「ありがとう。悠太…」
久しぶりに、本当に久しぶりに、心の底から笑えた気がした。
俺は魂が抜けた様に、壁にもたれかかっていた。動く気にもならないし、力なんて入らなかった。俺の心は、弟に盗られてしまったみたいだ。
目頭が熱くて、頬に熱い液体が絶えず流れ続けて、俺は壊れたガラクタの様にずっとそこにいた。瞬きをするたびに、目から涙がこぼれてく。
俺は、本当に壊れてしまったのか。
しばらくしてから、とん、とん、とん、と丁寧にドアを叩く音が聞こえた。
「天志君、天志君。僕だよ。悠太。入っていい?」
ドアの向こうから、悠太の弾む声が聞こえる。頭の奥で、悠太の顔が浮かぶ。あまり、弟には似ていない、むしろ、漠さんによく似た、優しい顔の悠太。
「ゆうた」
思わず名前を呼んだその声は、自分でも驚くほど小さくて、弱かった。糸屑のように脆くて、何もできない弱い俺そのものだった。俺の心は石ころになって、深く深く暗い何処かに沈んでいくみたいだった。元々、この世界が、俺の世界だったんだ。
でも、また、あの時みたいに、光が、
「天志君?」
暗い部屋をふわりと照らすのは、月の光とそれを背にした悠太だった。まだ何も知らない。まだ、何もわからない、小さな悠太。子供。俺は、悠太が酷く羨ましくなった。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
少し、戸惑ったようなその言葉に俺はいきなり現実に戻ってくる。今まで動かなかった体が、いとも簡単に動き、今まで石ころだった心に熱さが戻ってくる。
「見るな!!」
「天志く…」
「俺を見るな!!出てけ!!俺の事なんかほっといてくれ!!」
恥ずかしい。一番弱いところを、こんな情けない姿を子供に見られるなんて。悠太が何か言っているが、何も聞かなかった。耳を塞いで身を縮め、このまま消えてしまいたかった。
もう何もみたくない。俺の姿に絶望する悠太も、この世界も。何もかも。
「ゆうた…たのむ…俺の事なんて…ほっといてくれ…」
悠太が出て行くのを待っていると、いきなりぎゅうっと頭を抱きしめられた。
「な」
「天志君。僕が、天志君を守ってあげる」
俺を抱きしめる力が強くなる。俺が、緩くそれを解こうとすれば悠太はまだ強く俺を抱きしめる。
「はっ…放せ…俺は…俺は…違う。違うんだ。お前にそんなこと思ってもらうほどの人間じゃ」
「ぼくは、天志くんが好きだよ」
迷いない声だった。子供の声だとは思えないほどの。まっすぐな迷いのない。凛とした。
「ゆうた…」
「…僕が守ってあげたら、天志君は外も平気になるでしょう?いっぱい、きれいなものを見られるし、いっぱい僕と遊べる」
「ゆうた…おまえ…」
「だから、泣かないで」
優しい言葉が俺に降り注ぐ、優しい手が俺の頭を撫でる。優しい笑顔が、ぼろクズのような俺を包む。
「僕がずっと天志君を守るから」
俺は、悠太をうらやましいと思った俺を恥じた。こんなにも人を思いやってやれる子に、まだ小さな子供に、こんなことを言わせる自分にも。
抱きしめられたまま、俺は悠太の髪を撫でる。
「ありがとう。悠太…」
久しぶりに、本当に久しぶりに、心の底から笑えた気がした。
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