ローランの歌

N2

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ー供養ー

224.

朝がやって来た。一日の気が満ち、夜が終わりを迎えたとき、シャルル王はお目覚めになった。聖なる守護天使ガブリエルが手をあげ、十字をきって天に去ってゆく。王は安全を確信し、ようやく鎧を脱いで脇に置かれたのだった。これを見た兵士たちもすぐさま倣って武装を解く。

いそぎロンスヴォーに戻らねばならない。素早く騎乗し、もと来た道をひた走る。長い小径、広い街道をいくつも駆け抜けた先に、悲惨な戦場の跡が姿をあらわした。


225.

一同はロンスヴォーに到着した。累々たる亡き骸の列に、帝の涙がふりかかる。

「諸将に願う、馬の歩みを遅らせて参れ。どこかに甥ローランのむくろがあるはず、わしひとり先頭にたって、この目で見つけてやりたいのだ。――あれはいつの冬だったか、エックスの宮廷で年に一度の祭りの日だったわ。大将どもが集まって、合戦や槍試合の武功自慢をし合うところへローランが入ってきて、こう言いおるのじゃ『俺は異国の地でむざむざ死ぬ気はない。だがもし武運つたなき場合には、諸君らより一歩でも二歩でも踏み込んで、敵方さして頭をもたげ、征服者のような顔をして死んでやるつもりだ』と――」

帝は先を進んでローランをお探しになる。野を行き、やがて小高い丘に登られた。その後ろ、ちょうど投げ放った杖が届くほどの間をあけて諸将がつき従った。


226.

ローランを探してこなた彼方と彷徨ううちに、王は茂みに咲く真っ赤な花を見出だし給うた。いや!さにあらず、本来白い花びらがすべて血汐を浴びて紅く染まっていたのだった。思わずあふれる憐れみの涙――さらに上へ登ったところ、二本の大樹の側に標石が姿を見せる。石は鋭く斬り穿うがたれ、尋常のことでは説明はつかぬ。ちょうどその脇、青草の上にローランの亡き骸が横たわっていた。

王は狂わんばかりに悲しまれた。急いで下馬され、駆け寄って伯を腕に抱きかかえると、そのまま気を失ってしまわれた。後ゆく一同はあらためてそのお嘆きの深さを知ったのである。


227.

すぐさまお側に駆け寄ったのはネーム公にアスラン伯、高貴なるアンジュー公ジョフロワ、そして王弟アンリ殿だった。王はまもなく正気に復されたが、一同は玉体を援け起こして松の木蔭に引いてゆく。されど王は横たわるローランから視線を外さず、優しい口調で悔やみごとを述べられた。

「神よ、わが友ローランの魂を守りたまえ。戦場で敵を打ちひしぐ事にかけて、すべての者に勝る騎士なれば!無念じゃ、わが身の栄華も、もうこれまでだわ!」

こう仰るなり絶望のあまりお体を支えられず、ふたたび卒倒なされてしまった。


228.

王が目を覚まされたとき、御手を握っていたのはさきの四将であった。甥の姿を見やれば、体躯は冷たく硬く生色は失われ、両の目は虚ろで暗かった。愛情深き間柄ゆえ、シャルル王のお嘆きはひとかたではない。

「ローラン、わが愛すべき者よ。朕がスペインに連れ出したばかりに、かくまで無残な目に遭わせてしもうた。せめて楽園なるそなたの魂に、神の祝福と永遠の安らぎあらんことを。今日ほどすべてを奪われた日はないわ、誇りも、名誉も、強き騎士もうしなった。二度と手に入らぬものを!一門眷族けんぞくはおろか、天の下にさえそなたほどの友はおらぬ。いったいこれから誰を頼りにすればよいのか!」

こう仰せつつ、両手で白髭をしごかれ給う。フランク軍を哀しみの連鎖が貫いた。気づけば十万の男たちが、涙のなかに包まれていた。


229.

「おおローラン、国元の者どもに何のかんばせあってまみえようか。ランの街に帰りついたらば、さっそく各地の諸侯が訪ね来てこう言うはずじゃ『甥御のローラン伯はいずこに?』朕はそのたび胸を掻きむしりながら答えねばならん『スペインの土の下で冷とうなっておるわ』と!もうわが治世に喜びはない、これから毎日涙を流して生きゆくことになろう!」


230.

「御堂麗しきエックスに帰着いたさば、皆ひとこぞって朕の話しを聴きたがるだろう。ああ、一体どんな物語を語ればよいのか?美しきローランか、勇敢なるローランか、そなたはもはやこの世の人ならず、赫赫かくかくたる栄光も虚しいだけよ!そなたの死を知りせば、サクソン人どもは叛旗を翻すだろう、ブルガールとハンガリーもいつ蜂起するか分からん。ローマやアプリアの離反も怖い。遠くパレルモやアフリカからも来寇らいこうあるやも知れぬ。恐れていた事が起きてしもうた。いったい誰に兵をつけて、この事態に当たらせばよい?最高の将を失ったばかりだというに!ああ、もはやフランスは神に見捨てられたか。かくなる上は死よ、我が身に来たれ!悲しみに苛まれたまま、一刻たりとも生きていたくないわ!」

こう仰せながら、白髪も白髭も振り乱し給う。十万のフランク兵もまた、気絶する者、立ち尽くす者様々で、その心中たるや、到底言葉にできるものではない。


231.

「ローラン、楽園で待っていよ。ああ、これが人の運命なのか。朕はいまでも承服できぬ。そなたを死なせたのは誰か、一門の者を殺したのは誰か、フランスに災いをもたらしたのは誰か?すべて朕ではないのか!?こうも苦しゅうては生きては居られぬ!聖マリアの神子みこよ、お願いもうす!ふたたびシーザの峠を越すよりも先に、どうかわが魂を運び去ってもらいたい。死んで行った者たちと同じところに行きたいのだ、この身体は此処でみなと一緒に塵にかえしてもらいたい!」

帝の嗚咽は続き、しきりに白髭をきむしり給う。大公ネームが言う「まことに、まことに痛ましゅうござる」


232.

「陛下に申し上げます」と、アンジュー公ジョフロワの言葉。

「お嘆きもっともとは存じまするが、これ以上の悲しみは、ご叡慮を狂わせる元になりましょう。死者はローラン殿ひとりにあらず。さ、急ぎ全軍に下知され、スペイン勢に討たれしお味方を探されませ。皆のむくろを一つところに集め、弔いをせねばなりません」

帝の仰せには、「よう申したり。すぐに角笛を吹くが良かろう!」


233.

ジョフロワ公が角笛を鳴らせば、フランク兵は次々に馬を下りる。無数の亡き骸から戦友たちを見つけて運び出し、墓穴はかあなに降ろして横たえた。この間、司祭や修道院長、修道士に剃髪済みの聖職者たちの祈りが絶えることはない。

「神の御名において告ぐ、死者の罪は清められよ!祝福を与えしめよ!」ついで没薬もつやくと乳香をたっぷり焚きしめ、すべての者を勇士として葬った。

――かくて名誉ある塚が築かれた。敵地にあって、それが出来うる限りの弔いだった。戦士たちは友を残して去ってゆく。


234.

しかしローラン、オリヴィエ、そしてチュルパン殿は埋葬されなかった。王が故郷へ帰してやりたいと願われたからである。三人の胸が開かれ、心臓が取り出された。心臓は絹の薄布にくるまれて、白い大理石の壺に封じられた。フランク兵は遺体を鹿の皮で厳重に包み、香油と葡萄酒を注いで防腐処理をほどこす。

王は御手をかざしてミロ卿を、ついでティボー、オトゥン、ジェボワンを召し出され、柩を載せた三台の車馬を護送するよう命じられた。出立を待つ柩はどれもガラザの絹布で覆われていた。
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