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第15話 夜
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たらふく腹ごしらえを終えた俺たちはすぐに眠りにつくことにした。
今日は色々起きた1日だったので、早めに寝てしまおう。
小さい家なのでベッドは一つしかないが、シエルをそこに寝かせることにした。
俺はソファーをベッド代わりにして、すやすやと眠りに落ちる。……なんだが社畜時代に、会社のソファーでこうして仮眠を取っていたことを思い出すな。丸1週間帰れない日もあったっけ。
あれだけ頑張ってたのに給料はほとんど貰えないなんてやっぱりあの会社はおかしかったんだ。
今頃どうなってるだろうか。俺が自殺したことで倒産してたりしないだろうか?
うーん、そもそも俺は元の世界でどんな扱いなのだろう、ただの失踪者として扱われているのだろうか。
なんてどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。
カタン
しかし深夜を回った頃、物音で目が覚めた。
「誰だ……? 」
シエルだろうか?
いや、それにしては声をかけないのはおかしい。
俺は慌てて飛び起きようとしたが、すぐそばに人の気配を感じた。
「だ、誰だ? 」
俺は近くにあった蝋燭に火をつけた。そしてそこに照らされたのは……。
「ヨリ……」
俺の名前を小さく呼ぶ、シエルの姿だった。
しかし衣服を脱ぎ捨てた彼女の真っ白な体が蝋燭に照らされて滑らかに映る。
「な、な、な、な、どうしたんだ!? 早く服を着ろ! 風邪引くぞ! 」
少女の豊満な胸を見てはいけないと、俺は必死にあらぬ方向を見る。
「ヨリ、抱いて下さい」
「は? 」
「……私習いました。男の人にお礼をするときは自分の体を差し出すと。それが最大の礼の仕方だって」
なんだその随分偏った方法は……。
「ヨリには感謝しています。だから私はお礼がしたくて……。あ、もちろん経験はないので上手く出来るかは分かりませんが……」
「あのな、それは大間違いだ。間違った知識だぞ」
え、と顔色を変えるシエル。
「お前はもう奴隷なんかじゃない。俺にそんなことをしなくて良い」
「そ、そうなのですか? 」
困惑した表情でシエルは固まっている。自分の常識が覆されたのだ、まあ無理はない。
「それに、そういうことは好きな男とするべきだ。誰彼構わずするもんじゃない」
「好きな男……? 私はヨリのことが好きですよ」
「そういうことじゃない。えーっと何というか、その好きと俺が言ってる好きは別ってことだ」
「……すいません、よく分かりません」
彼女いない暦=年齢の俺が無理矢理絞り出した理屈だ。正直俺にもよく分からない。
「まあともかく! そういう人が現れるまで無闇に裸を晒すなってことだ」
俺は毛布をシエルにかける。
毛布を被って背を向けた彼女。しかしそのとき、不思議なものが俺の目に止まった。
「何だこれ……? 」
彼女の白い肌に、くっきりと火傷のような痕があった。それは何かのエンブレムのようにも見える。
「あ、だ、駄目です! 」
それに気が付いたシエルが慌ててその痣を隠した。この狼狽ぶりから見るに、よっぽと見られたくないものらしい。
「あ、ごめん。見ちゃいけないものだったか? 」
「……」
シエルはうつ向き、しばらく何かを考えるかのように目をキョロキョロさせていたが、不意に口を開いた。
「……これは奴隷の証です」
「奴隷の証? 」
「はい、奴隷として売られた者に押される家畜の烙印。一生消えることのない呪いです」
「そういうことか……」
このエンブレム、確かにオークション会場で見掛けた記憶がある。2匹の蛇が絡まり合っているような醜悪なデザインだ。
「首輪や拘束具がなくなっても、私たちには自由なんてありません。いつも鏡を見るたびに思うのです。私は奴隷だ、家畜なんだ、と」
いつの間にかシエルの大きな瞳からは、ポロポロと涙が流れ始めた。
「ご、ごめんなさい。みっともない姿を晒してしまって」
「じゃあその痣を消せるような薬を明日買いに行こうか、もうシエルが嫌なことを思い出さないように」
ふふ、とシエルは少し笑った。
「面白いことを言いますね。でも、無理です。特殊な魔法で焼いているので並の薬は効きません」
だけど嬉しいです、ありがとうございます。とシエルは笑った。
「並の薬じゃなきゃ消せるかもしれないだろ? 」
そう答えるとシエルは少し悲しそうに笑うのだった。
今日は色々起きた1日だったので、早めに寝てしまおう。
小さい家なのでベッドは一つしかないが、シエルをそこに寝かせることにした。
俺はソファーをベッド代わりにして、すやすやと眠りに落ちる。……なんだが社畜時代に、会社のソファーでこうして仮眠を取っていたことを思い出すな。丸1週間帰れない日もあったっけ。
あれだけ頑張ってたのに給料はほとんど貰えないなんてやっぱりあの会社はおかしかったんだ。
今頃どうなってるだろうか。俺が自殺したことで倒産してたりしないだろうか?
うーん、そもそも俺は元の世界でどんな扱いなのだろう、ただの失踪者として扱われているのだろうか。
なんてどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。
カタン
しかし深夜を回った頃、物音で目が覚めた。
「誰だ……? 」
シエルだろうか?
いや、それにしては声をかけないのはおかしい。
俺は慌てて飛び起きようとしたが、すぐそばに人の気配を感じた。
「だ、誰だ? 」
俺は近くにあった蝋燭に火をつけた。そしてそこに照らされたのは……。
「ヨリ……」
俺の名前を小さく呼ぶ、シエルの姿だった。
しかし衣服を脱ぎ捨てた彼女の真っ白な体が蝋燭に照らされて滑らかに映る。
「な、な、な、な、どうしたんだ!? 早く服を着ろ! 風邪引くぞ! 」
少女の豊満な胸を見てはいけないと、俺は必死にあらぬ方向を見る。
「ヨリ、抱いて下さい」
「は? 」
「……私習いました。男の人にお礼をするときは自分の体を差し出すと。それが最大の礼の仕方だって」
なんだその随分偏った方法は……。
「ヨリには感謝しています。だから私はお礼がしたくて……。あ、もちろん経験はないので上手く出来るかは分かりませんが……」
「あのな、それは大間違いだ。間違った知識だぞ」
え、と顔色を変えるシエル。
「お前はもう奴隷なんかじゃない。俺にそんなことをしなくて良い」
「そ、そうなのですか? 」
困惑した表情でシエルは固まっている。自分の常識が覆されたのだ、まあ無理はない。
「それに、そういうことは好きな男とするべきだ。誰彼構わずするもんじゃない」
「好きな男……? 私はヨリのことが好きですよ」
「そういうことじゃない。えーっと何というか、その好きと俺が言ってる好きは別ってことだ」
「……すいません、よく分かりません」
彼女いない暦=年齢の俺が無理矢理絞り出した理屈だ。正直俺にもよく分からない。
「まあともかく! そういう人が現れるまで無闇に裸を晒すなってことだ」
俺は毛布をシエルにかける。
毛布を被って背を向けた彼女。しかしそのとき、不思議なものが俺の目に止まった。
「何だこれ……? 」
彼女の白い肌に、くっきりと火傷のような痕があった。それは何かのエンブレムのようにも見える。
「あ、だ、駄目です! 」
それに気が付いたシエルが慌ててその痣を隠した。この狼狽ぶりから見るに、よっぽと見られたくないものらしい。
「あ、ごめん。見ちゃいけないものだったか? 」
「……」
シエルはうつ向き、しばらく何かを考えるかのように目をキョロキョロさせていたが、不意に口を開いた。
「……これは奴隷の証です」
「奴隷の証? 」
「はい、奴隷として売られた者に押される家畜の烙印。一生消えることのない呪いです」
「そういうことか……」
このエンブレム、確かにオークション会場で見掛けた記憶がある。2匹の蛇が絡まり合っているような醜悪なデザインだ。
「首輪や拘束具がなくなっても、私たちには自由なんてありません。いつも鏡を見るたびに思うのです。私は奴隷だ、家畜なんだ、と」
いつの間にかシエルの大きな瞳からは、ポロポロと涙が流れ始めた。
「ご、ごめんなさい。みっともない姿を晒してしまって」
「じゃあその痣を消せるような薬を明日買いに行こうか、もうシエルが嫌なことを思い出さないように」
ふふ、とシエルは少し笑った。
「面白いことを言いますね。でも、無理です。特殊な魔法で焼いているので並の薬は効きません」
だけど嬉しいです、ありがとうございます。とシエルは笑った。
「並の薬じゃなきゃ消せるかもしれないだろ? 」
そう答えるとシエルは少し悲しそうに笑うのだった。
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