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第34話 禁呪を使う
しおりを挟む「お帰り……」
家に帰ると、丁度目が覚めたらしいシエルが眠い目を擦りながら出迎えてくれた。
「ああただいま」
「どうしたんですか……? 変な顔して」
「いやちょっとな……昔の知り合いに遭ってしまった」
昔の知り合い? とシエルが首をかしげる。
「ま、どうでもいいことだけどな。お腹空いただろ? 夕飯にするか」
「うん! 」
夕飯の準備をしようと言ったはいいものの、どうしても彼らの異様な姿が頭から離れない。
泣き叫ぶアズサに、狂ってしまったタクトとカナ。
こうも短時間で人間は変わるものなのだろうか?
彼らが口を揃えて言っていた"テゼス様"
それに何か秘密があるような気がする。
「そういや、ここがルーナの父の書斎なら……何か本があるかもしれないな」
サクヤの言っていたベルグ=レイモンド。彼がその人ならここには資料があるはずだ。
「シエルごめん、俺やることあるから先食べててくれるか? ご飯は炊いてあるし鍋の中に煮込みハンバーグがあるから」
「分かりました。……何か心配事ですか? 私も手伝いますよ! 」
「いや、大丈夫だ。ただの調べものだから」
「そうですか……」
ちょっとしゅんとなったシエルを慌ててフォローする。
「直ぐに終わるから。ごめんな」
くしゃりと頭を撫でると、シエルは嬉しそうに顔を緩ませた。
「早く来て下さいね! 」
そうして彼女がリビングの方に消えたのを見届けると、俺はさて、と一人呟いた。
◇◇◇
ここに住み始めてから気にしたことがなかったが、大量の本がパンパンに棚に詰め込まれている。
ジャンルも何もかもがバラバラで欲しい本を探すのも一苦労だ。
「えーっとこれは料理の本で……」
「こっちは……魔法の本か? 」
俺が探しているのはこの世界の神話の本なのだが……。
「ん? これ日本語だ」
俺が見つけた一冊の本は明らかに日本語で書かれていた。ああ、一応俺はこの世界の言語で読み書きが出来る。が、別に日本語を忘れた訳ではないのでバイリンガルという訳だ。
「メモが貼られているな……」
その日本語の本はやたら分厚く、かなり古いもののようだ。そしてそのメモはどうやらルーナの父が書き記したものらしい。
『異界の言語か? 入手したもののまったく読めず』
「異界の言語……まあ確かに」
この世界の人からしたら日本語なんてものは異界の未知の言語だろうな。
この世界の人に読めないように書かれているとは、怪しいな。
俺は意を決してその本を開いている。
「時空の狭間の深淵を引き込む禁呪……? なんだこれ」
どうやら魔法の詠唱方法を記した魔導書であるらしい。
しかしそこに載っているのはどれも中二臭いというかスケールが大きいものばかりだ。
空間を渡り歩く禁呪ーー
万物の穢れを払う禁呪ーー
千の刃を従える禁呪ーー
全てに禁呪という言葉がついているようだ。
何か……そう表現されるとおどろおどろしいな。
「これ何だ……? 生命を作り出し、使役する禁呪?」
何を思ったか俺は、この魔法を試してみようという気になってしまった。
「大いなる神よ 我の罪を許したまえ、生命創成禁呪! 」
ダラダラとした詠唱があり凄く恥ずかしい。
魔法使いってのはこんなことをしなくちゃいけないのか……?
そして直ぐに何とも言えない息苦しさが俺を襲った。
全身が痛い、気持ち悪い。
「ゴホッ……」
喉に引っ掛かったものを吐き出すと、それは大きな血の塊だった。
何だこれ……!? まさか俺、死ぬのか……!?
あ、そうだ。そもそも俺は魔力が著しく低い。
それなのにこんな禁呪なんてものを使っては俺の魔力じゃ賄えない。
リュイが言っていたなそういえば……魔力欠乏症とは垂れ流してしまう魔力を補うために体力を消費する病気だと。
つまり一気に魔力がぶっ飛んだ俺は、体力を消耗しているのだ多分。
「やばいやばいやばい……」
このままでは体力が0になって死ぬ。
俺はカバンからずーっと前に買ってそのまま放置していた妖精羽の雫を取り出すと、飲み込んだ。
何とも苦い味が口の中に広がるが、体は少しだけ楽になった。
……と思ったのだが。
「うっ!? 」
直ぐにまたあの体調不良に襲われる。
1つ程度じゃ俺の魔力不足を補うことは出来ないようだ。
俺はそのアイテムを一気に50本ほど飲み干した。すると流石にその体調不良が治まり、俺はようやく一息つくことが出来たのだった。
「し、死ぬかと思った」
もう迂闊に魔法なんて唱えるもんか。
もし回復アイテムを持っていなかったら死ぬところだった……。
「ん? 」
すると俺の右の手のひらに、光の塊のようなものが現れる。そしてそれは、ぐにぐにと粘土のように姿を変え、ついには一羽の黒い小鳥になった。
「わ! 」
俺はその鳥を慌てて手に載せた。
そうか、魔力が足りたから魔法が発動したのか。
俺が創り出した小鳥は、手の中でチュンチュンと泣き続けている。
「す、すげえな……」
命を創り出す禁呪、これは嘘ではなかったのだ。
そして驚いたことに、俺はその小鳥と感覚を共有しているようだ。
鳥の見ているもの、聞いているものが俺にも伝わる。つまり俺の分身とも言える。
「そ、そうだ! 」
俺は窓辺からその小鳥を放す。
「リュイを探そう。俺は彼に近づけないが、この小鳥なら怪しまれないはず」
チュン! と小鳥が返事をすると、一気に飛び立ち、その黒い体は夜の闇に溶けた。
「ヨリー、ご飯出来たよ! 」
丁度そのとき、シエルが俺を呼びに来たが、回復アイテムの飲み過ぎでお腹がぽちゃぽちゃしている俺はもう他のものを食べる気にはなれないのだった。
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