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第54話 結末
しおりを挟む『ふむ、ここからは辛いかもしれませんな』
ルークが口を開いた。
「だ、大丈夫……」
そう答えるルーナだったが、顔色はあまり良くない。
今にも倒れてもおかしくないぐらいだ。
「無理はするな」
俺が肩を支えると、ルーナはふるふると首を横に振る。
「平気、私がちゃんとこの目で見ないと。パパが遺してくれたこの記憶を」
「……分かった」
ルーナが無理やりだから口許に笑顔を作る。それを見た俺は彼女のことを止める権利はないことに気が付き、ルークに向き直る。
「続きを見せてくれ」
『承知しました』
するとルークが首を大きく振ると、場面が一気に移り変わった。そこに映っていたのはベルグさんとサクヤ。そして大量の瓦礫の山に、夥しい数の遺体。辺りは竜の吐いた炎に焼き付けされたのかプスプスと嫌な音を立てている。
「あ……あ……」
サクヤがガクリと膝をついた。
ベルグさんもただ呆然と変わってしまった街を眺めている。
「こんな……」
サクヤが声を大きくあげた。
「セイヤー!! お母さんー!!」
しかし返事はない。
業を煮やしたサクヤが駆け出した。瓦礫の山を登り下り、探し始める。
「あ、サクヤちゃん! 一人で行動するのは危ない! 」
ベルグさんが慌てて彼女の後を追い始めた。
そして何やら魔法を唱えると、魔方陣と共にルークの姿が現れた。
「ルーク、彼女を追ってくれ」
『承知』
軽い身のこなしでサクヤを追い始めるルーク。やはり彼はベルグさんの使い魔だったらしい。
そのとき、サクヤの甲高い悲鳴が響き渡った。
「サクヤちゃん……!! 」
後から追い付いたベルグさんが見たのは二人の人間の死体だ。女性が子どもを抱えるようにして絶命している。
「お母さん……!! セイヤ……!! 」
その亡骸にすがり付いて泣きわめくサクヤ。自分の顔が汚れるのも構わずに、ただすがり付く。
「大巫女様……セイヤくん……」
ベルグさんも彼らに残された僅かな衣服の燃えカスから全てを察したようだ。
隣にいるルーナも静かに涙を流していた。
「……ベルグさん、うち、どうしたらええんかなあ……」
「サクヤちゃん…… 」
「皆、皆、死んでしもうた。うちら、何か悪いことしたんかな? 竜の逆鱗に触れるようなこと、してしまったんか……? 」
「サクヤちゃん……!! 」
「もうどうしたら良いのか分からん。うちも一緒に死にたかった……」
顔を手で覆い、泣き続けるサクヤ。
そんな彼女をベルグさんがそっと肩に手を載せた。
「僕と一緒に行かないか? 僕の家族と一緒に暮らそう、君と同じぐらいの年齢の娘がいるんだ。だから……」
「……」
しかしサクヤはそれを良しとはしない、そんな顔をした。
「それは素敵やんな。ベルグさんの娘さんに会ってみたいわ。でも、うちはこの場所を捨てるのは……考えられん……」
「でも、それじゃあ……」
「ベルグさんは危ないからもう国に帰った方がええ。後はうちが何とかする」
「そんな、君を一人置いていく訳にはいかない! 」
サクヤは柔らかく微笑んだが、その口許は辛そうに歪んでいる。
「ベルグさんには家族がおる。優先順位を間違えちゃいかんよ」
「でも……」
「よくよく考えたらお母さんはベルグさんを生かそうとした。これには何か意味がある気がするんや。ね、だから……」
「そうだ、僕は君のお母さんに言伝てを……」
サクヤはゆるゆると首を横に振る。
「それを今聞く気になれん……。そうや、うちがベルグさんに会いに行くわ。だからそのときに教えてくれや」
「……分かったよ」
「約束よ? うちは絶対ベルグさんに会いに行く。そしてお母さんの話を聞かせてくれや」
「ああ約束だ。何としてもこのことは守ってみせる。だから絶対に会いに来てくれ」
「うん」
すると、ぷつんと映像が途切れた。
その途端に真っ黒になる周辺。
『以上で終わりです』
ルークの淡々とした声が響き渡る。
「これが……パパとサクヤさんの出会い……」
「サクヤがここに来たのもこういう経緯があったのか……」
俺は思わず唇を噛み締めた。
そう考えると彼女の煙に巻いたような態度は本心を隠すためのものだったのだろう。
しかも彼女は約束のベルグさんに会うことは出来なかったのだ。
『ベルグはおそらく自分が狙われていることを知っていた。だから私をここに封じ、番人として守らせたのだ』
「狙われる……? 」
ルーナが怪訝そうに聞いた。
『これは私の妄想でしかないが、ベルグは帝国に狙われていたのだろう。イースを滅ぼしたのは帝国、その真実を知っているのはベルグだけだ』
「やっぱり……パパは殺されて……」
『残酷だが、そうなのだろうな』
そのときぐらりと世界が歪み始めた。
「な、なんだ!? 」
『まずい、あいつの干渉だ』
「あいつ? 」
ルークは珍しく慌てた様子で俺たちに叫んだ。
『早く、早く元の世界に戻るんだ! そうしないとこの世界ごと壊されてしまう』
「そんなこと言っても……俺たちは帰り方を知らないんだ! 」
『しまった、帰り道を閉ざされていたのか……』
「怖い……何、これ……」
ルーナが俺の腕にしがみつく。
そうこうしていく内に、ドンドン世界が崩壊していく。
『すまない、これは私の力不足だ……。取り込まれる……!』
「くっ、何か方法はないのか!? 」
禁呪が使えるのか? いやそんなもの唱えている暇はない。
考えろ考えろ考えろ
皆が生き残る方法を、この事実をサクヤに伝えなければ。
そのとき、目映い光が俺たちを覆い尽くしたのだった。
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