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第33話 ヘタレのエスコート

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「て、ことで二人のデートを影から尾行しようと思います」

「何でヴァイスがここにいるんですか……」

 いつの間にか湧いて出てきたヴァイスがノリノリで準備をしている。

「こんな面白そうなこと、僕が聞き逃すはずないだろ」

 そーですか……。
 おっと、そうこうしている内に二人が移動を始めてしまった。

 まず最初は城下町をぶらりだ。
 勿論何か危険なことかあれば私が飛び出すつもりだ。それに変装も完璧なのでそうそうバレることはないだろう。

 するとヴァイスが私の背中を突っつく。

「おい、犬っころ。何か話してるようだが……僕には聞こえん」

「その長い耳は飾りなんですか? えーっとですね……」

 距離はあるが私の耳にはしっかり二人の会話が届いている。

「ちょっとアステル様! 私の後ろばかり着いてないで先に行ってくださいませ! 」

「え、ご、ごめん!? 」

「もう! 女性をエスコートするのは大事ですわよ! 」

 あちゃー……。
 私は思わず頭を抱えた。いつもは私が行きたいところにアステルを引きずり回しているので受け身になる癖がついてしまったのかもしれない。

「……どうやらアステル様のエスコートにロゼッタ様が怒っていらっしゃるみたいですね」

「あー……」

 ヴァイスも何かを察したように声をあげる。

「あ、カフェに入るみたいですね」

 二人はお洒落なカフェに入ろうとしているところだった。ノリノリなロゼッタとは対照的に、アステルの表情は固い。
 
「おいおいアステルのやつ、あんな場所入ったことあるのか? 」

「あるわけないと思いますよ……」

 彼はそもそもこういうお洒落な場所を苦手にしている。
 しかしロゼッタに押しきられたのか、渋々店内に消えていった。

 流石に店内に入るわけにはいかないのでここで待機だ。
 路地裏に身を潜めた私たちは二人が出てくるのをひたすらに待つことになった。

「……僕、もう不安しかないな」

「珍しく意見が合いましたね」

 アステルは一人で大丈夫だろうか……もし彼女にとんでもないことやらかして処刑なんてなったら……。

 ぞっと背筋が凍るような気持ちがした。

「ところで、犬っころは良いのか? 」

「良いのか? え? どういう意味です? 」

 呆れたように息を吐くヴァイス。

「だから、アステルが別の女と仲良くしてて良いのかよってこと」

「そりゃ別に良いと思いますが……むしろ社交性が高まって好ましいことでは? 」

 だーー!!! とヴァイスが声をあげ、自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。

「だーかーら! 嫉妬とかしないのかってことだよ! アステルを他の女に盗られるかもしれないだろ? 」

 ああ、そういうことね。と私は理解した。

「あのですね、私とアステルはういう関係ではないのですよ。主人と奴隷。それだけです」

 大体アステルが荒っぽい獣人なんて好きになるわけないだろ……。

「……まじで気がついてないのか」

「気がついてない……? 」

 ん? 何にだ?

 そのときだった。
 キャーという甲高い悲鳴が路地裏で響き渡った。
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