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第42話 幻惑の薬

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「まぁ、人を探していてここまで? 」

 何だかんだとテーブルに座らされたグレン。あぁ、私はあくまでも飼い犬の体なので床で寝そべっている。

「そ、そうなんですよ。ははは……」

 グレンのやつ何だかさっきから様子がおかしい。頬も赤いし、まるで熱に浮かされているみたいだ。

 ……うっすらではあるがこの部屋、媚薬のような何かが散布されている気がする。
 あまり吸い込むのは良くなさそうだ。

「ワンワン! 」

 犬のふりをして辺りの散策を始める私。

「まぁ、ワンちゃんったら腕白さんね」

 よしよし、女も疑ってはいないようだ。
 ……でも大したものは見つからないな。人が住んでいれば持っているであろう物ばかりで、正直怪しいものはない。

「ああこら、すいません」

「良いんですよ。私、犬派なんです。従順で可愛いですもんね」

 ああそうだ、と女が一度言葉を止める。

「私の名前はセーラと言います。ふふ、自己紹介が遅れてしまいましたね」

「俺はグレンでこっちの犬は……チョコです」

 誰がチョコだよ!!!
 グレン、名前をつけるセンスはないんだな……。

「チョコちゃん! 可愛いお名前ね」

 眩しい笑顔を浮かべるセーラだが……何だろうこの脳髄を揺さぶるような匂いは。

「さあ、冷めてしまう前に食べて食べて。私料理には自信があるの」

 私たちの前に出されたのは野菜がたっぷり入ったクリームシチュー。
 少し鼻先を近付けただけで分かる。
 凄まじい薬の臭い。こんなもの口に含んだらどんなことになるやら。

「い、いただきます! 」

 ってグレンのやつ!
 気にすることなくスプーンでスープをすくい、口に運ぼうとしている。

 咄嗟にスプーンを弾こうとした私だが……いや、ここはグレンには実験台になって貰った方が良いのかもしれない。

「美味しいです」

「ほんと? 良かったわ」

 柔らかい笑みを浮かべるセーラ。

「こんな美味しいもの……久しぶりに……食べ……」

……次の瞬間、グレンがこっくりと眠りに落ちた。
 まるで糸が切れたマリオネットのようだ。

 ……やはり、即効性の眠り薬でも入っていたのだろう。

 グレンが眠ったことを確認したセーラはこちらに向き直る。

「ふふ、ご主人様は眠ってしまったわね。どうする? ワンちゃん? 」

 ただ唸る私。

「ああ、私が犬が好きなのは本当よ。主人に従順で頭が良くて、素晴らしい下僕だわ」

「どうする? ご主人様を置いて逃げるというなら見逃してあげても良いわよ」

 馬鹿馬鹿しい。

「逃げるわけがないだろう。お前の喉笛を食いちぎってやるよ」

 ああ~! やっと喋れた!
 今までワン! とかグルルル! としか言えなかったから辛かった~。

 喋る狼に驚いたのか、セーラは一瞬困惑したように後ろに下がった。

 そこに更に追い討ちにかける私。

「別に私はお前を食い殺しに来たわけではない。教えろ、お前を雇った人間の名前を」

 そうすれば命は助けてやる、と悪役みたいなことを私は言うのだった。
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