転生したけどモブ奴隷だったので、悪役王子を更生させようと思います

寿司

文字の大きさ
44 / 46

第44話 ステラの選択

しおりを挟む

 私の選択、それはーー。

 マザーの言葉を無視し、飛びかかる! グレンが傷つけられるその前に、彼を助け出せば良いのだ!

 「なっ……!? 」

 不意を突かれたマザー。私はその隙を見逃すことなく、ナイフを弾き出す。そして未だに眠りこけているグレンの服をくわえて、端にぶん投げる。

 ……まったく世話の焼けるやつだ。

「……これで一対一ね。どうする? 」

 完全に有利に立った私は出入り口を塞ぐようにしてマザーの前に立つ。
 うん、でかい図体が役に立った。

「ちっ……」

 先程までの優しい顔立ちとは打って代わり、焦りを見せる彼女。

「もう一度言う。別に私は貴女たちを壊滅させたい訳じゃない。ただアステルを狙ったのは誰なのか知りたいの」

「……」

 静寂。

「このまま黙っていても良いけど。私はいつでも貴女を食い殺すことが出来る」

「あらそう? でも私を殺したら依頼者の話は聞けないわよ」

「まあそうね。でも少なくとも統制を失った暗殺者集団はアステル暗殺からは手を引くでしょう。それならそれで構わないね」

 怯えにも似たような顔を歪めるマザー。

 そしてしばらく私の目をじっと見ていた彼女は懐から一枚の契約書を取り出した。

「……負けたわ」

 と言いながら私にそれを投げる。

 咄嗟にキャッチする私。そしてそれを見ると、契約した人物の名前は……。

「リィン、か」

 うすうす分かってはいたけどそういうことね。

「言っとくけど契約書を紛失してしまったから私はもうそいつと無関係よ。書類は野良犬に食われちゃったんだもの」

「そうね、お気の毒だわ」

「ふふ、確かに莫大なお金は魅力的だけど命には代えられないわ。ケルベロスに地獄に落とされるにはまだ早いのよ」

 ケルベロスって私のこと……?
 まあ良いけど。

「じゃあね番犬さん。私はもうこのことに関与しない。ああ、私の息子は好きにして良いわよ」

 そして彼女はしばらく考え込むとこう言う。

「あら、でも貴女はもう番がいるみたいね。匂いがそういう匂いだもの」

 は?

 番?

「……一体何の話? 」

「あら貴女知らないの? 獣人というものは番を作る生き物よ」

 いやそれは知ってるけど……。
 思い当たる節がまったくないのですが……。

 硬直している私をクスクスと笑った後、マザーは踵を返す。

「じゃあね、勇敢な番犬さん。もう会わないことを願っているわ」

 ……マザーの言葉が頭に入ってこない。

 私が!?!

 番?!!?

 このことで頭がいっぱいなのであった。

 何かもう今日は色々なことが起きすぎて疲れた……。一先ずまだすやすや寝ているグレンを連れて町まで戻ろう……。

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...