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第44話 ステラの選択
しおりを挟む私の選択、それはーー。
マザーの言葉を無視し、飛びかかる! グレンが傷つけられるその前に、彼を助け出せば良いのだ!
「なっ……!? 」
不意を突かれたマザー。私はその隙を見逃すことなく、ナイフを弾き出す。そして未だに眠りこけているグレンの服をくわえて、端にぶん投げる。
……まったく世話の焼けるやつだ。
「……これで一対一ね。どうする? 」
完全に有利に立った私は出入り口を塞ぐようにしてマザーの前に立つ。
うん、でかい図体が役に立った。
「ちっ……」
先程までの優しい顔立ちとは打って代わり、焦りを見せる彼女。
「もう一度言う。別に私は貴女たちを壊滅させたい訳じゃない。ただアステルを狙ったのは誰なのか知りたいの」
「……」
静寂。
「このまま黙っていても良いけど。私はいつでも貴女を食い殺すことが出来る」
「あらそう? でも私を殺したら依頼者の話は聞けないわよ」
「まあそうね。でも少なくとも統制を失った暗殺者集団はアステル暗殺からは手を引くでしょう。それならそれで構わないね」
怯えにも似たような顔を歪めるマザー。
そしてしばらく私の目をじっと見ていた彼女は懐から一枚の契約書を取り出した。
「……負けたわ」
と言いながら私にそれを投げる。
咄嗟にキャッチする私。そしてそれを見ると、契約した人物の名前は……。
「リィン、か」
うすうす分かってはいたけどそういうことね。
「言っとくけど契約書を紛失してしまったから私はもうそいつと無関係よ。書類は野良犬に食われちゃったんだもの」
「そうね、お気の毒だわ」
「ふふ、確かに莫大なお金は魅力的だけど命には代えられないわ。ケルベロスに地獄に落とされるにはまだ早いのよ」
ケルベロスって私のこと……?
まあ良いけど。
「じゃあね番犬さん。私はもうこのことに関与しない。ああ、私の息子は好きにして良いわよ」
そして彼女はしばらく考え込むとこう言う。
「あら、でも貴女はもう番がいるみたいね。匂いがそういう匂いだもの」
は?
番?
「……一体何の話? 」
「あら貴女知らないの? 獣人というものは番を作る生き物よ」
いやそれは知ってるけど……。
思い当たる節がまったくないのですが……。
硬直している私をクスクスと笑った後、マザーは踵を返す。
「じゃあね、勇敢な番犬さん。もう会わないことを願っているわ」
……マザーの言葉が頭に入ってこない。
私が!?!
番?!!?
このことで頭がいっぱいなのであった。
何かもう今日は色々なことが起きすぎて疲れた……。一先ずまだすやすや寝ているグレンを連れて町まで戻ろう……。
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