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第2章 出会いの訪れ
意外な一面
しおりを挟む6月に入ると外は雨ばかりになった。梅雨の時期だ。女子達は湿度に文句を放ち、濡れる事や髪の手入れの会話が増えて行く。そんな中でも私は変わらず完璧。明るい笑顔と綺麗な髪、蒸し暑さなど感じ取れない程の涼し気な雰囲気を身にまとって、今日も学校へ向かった。
「おはよッ!」
「おはよう結衣!」
「おはよ、朝から雨ヤバくない?」
「だね、バスの人大丈夫かな?」
「道混んでたし遅刻だろうね」
「そうだ結衣、今度髪の手入れ教えてよ!もうベタつくし跳ねるし大変なの」
「ならこれ使う?」
「トリートメント持ち歩いてるの!?」
「うん、この時期は特にね」
鞄の中から静かに取り出したのは、手のひらにすっぽり収まる細長いチューブだった。蓋をきゅっと閉めたまま、それをそっと彼女に差し出す。
「え、いいの?」
目を丸くして受け取った彼女は、すぐ頬を緩め嬉しそうに話し始めた。それをきっかけにどこで買ったのか、他にどんな香りがあるのか…そんな他愛もない話が、朝の空気のなかでふわふわと広がっていった。
ざわめきが教室に馴染み始めたころ、チャイムの音で会話は途切れ、生徒は席へと戻っていく。いつものように授業が始まり、黒板の文字を追いながら緩やかに時間は進み始めた。
昼休みになると、自然と優たちのもとへ足が向かう。決まったように輪になって弁当の蓋を開けると、手作りの味を分け合いながら、くだらない話題に笑い合う日々を私は楽しみになっていた。
無口だった未羽も、最近では少しずつ変わり始めていた。最初は目を伏せて黙っていることが多かったが、今では登校時や食事のとき、小さな声で「あ…おはよう」や「ありがとう」と、確かに言葉を返してくれる。
そんな中、今日は今月行われる文化祭について話を始めた。
「優のクラスは文化祭って何するの?」
「僕の所は展示だよ。それぞれ思い描くミニチュアの建物を教室に並べて、街にするんだ。僕はバスケットコートにしたよ」
「思い描くって事は自由で良いんだろ?普通のコートにすんの?」
「コート自体は思い浮かばないけど、壁や床をデザインしようかなって」
「デザイン出来るの?凄い!」
「ははっ、素人だけどね」
話す度に新しい発見を見せてくれる優。運動は苦手だと言っていたけど、聞けば聞くほど多彩な彼に私は素直に感心した。自分にも彼ほどに胸を張れる物はあっただろうか?少し考えたけど、やっぱり微塵も思い付かない。
「駿と未羽のクラスは?」
「俺らは巨大迷路!張り切って作るから絶対来いよ?」
「迷路かぁ、僕苦手なんだよな…結衣は?」
「私は行ってみようかな、せっかくだし」
「おぉ、来い来い!なんならこの苦手アピール凄い男子も連れて来て」
「アピールじゃない、本当に…」
「優、一緒に行こうよ!私がゴール目指せば問題無いでしょ?」
「え?あー…うん、じゃあお願いしようかな。結衣頼のしいし」
恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた優だけど、コレって文化祭を一緒に回るのと同じじゃない?そう思ったら途端に、何とも思って無かった文化祭が楽しみになって来た。
「結衣のクラスは何すんの?」
「私のとこはカフェだよ。なんかドレスとか着て、ちょっとしたお菓子出すみたい」
「それ楽しそうだね」
「未羽絶対行こーぜ!」
「うん」
「結衣は午前と午後どっちが担当?」
「午前だよ」
「よし、なら行ける!俺ら午後は教室居るから絶対来いよ!?」
「分かった分かった」
こうして文化祭当日の行動が決まった私達は互いに、出し物の準備に追われる日々が始まった。
ーーーー駿side
文化祭の準備に追われた俺はこの一週間、未羽と教室で昼休みを過ごした。理由はこの細かい作業のせいだ。俺は今、未羽と一緒にダンボールに小さな部品を取り付けている。
「くそぉぉ終わらねぇ…」
「あと少しだよ、頑張って駿」
「この模様って必要か?」
「要る。茶色だけの壁なんてつまらないよ」
「凹凸あっても茶色だろ?」
「ラメ塗りたいの」
「はぁぁ、了解」
と、まぁ半分は未羽のこだわりに付き合ってる状態。別に嫌じゃねぇよ?未羽が「出来た」って笑顔見せるとこ見たいし。何より俺の推しが彼女だしな。悔いは無いけど、ただひとつ言えるのは、俺が細かい作業苦手だって事だ。
ダンボールを1センチの正方形に切って綺麗に並べるのが既に20個…俺、頑張ったよな
「ねぇ駿ってば」
「んー?」
「んー?じゃ無くて、優が来た」
未羽に肩を叩かれて顔を上げると、昼食を終えた幼なじみ優が作業を手伝いに来てくれてた。
「今日もやる事ねぇの?」
「うん、僕のはもう作り終えたから」
「早くね?」
「そうかな?」
「結衣のところは行かなくて良いの?」
「へっ?」
目を丸くした優は少し間を置いて照れくさそうに笑った。保育園の頃から一緒にいる俺は断言できる。きっとコイツは結衣が好きなんだ。色恋に興味の無さげな優がこんな風に特定の女の子の名前に動揺するのは、幼稚園の頃に初恋の子に振られた時以来だ。
海外から帰って来たコイツは、転入初日に女の子の話を聞かせてくれた。公園のベンチで知り合った子が結衣だと知った優は初め一人で昼飯に誘う勇気もなく、俺に頼み込んできた。
「仲良くなりたい」って言うから優を連れてクラスに顔出たのが始まりだよな。
「ほら、結衣のところは個人じゃないから迷惑掛けちゃうよ」
「とか言って、見かける度に眺めるだけって逆に変な人だよ?」
「そ、そうかな?」
「結衣が好きなんだろ?アピールしねぇと他の男に取られるぞ?結構明るくて可愛い子だし」
「…それは嫌だけど、けど結衣はもっと男らしい子が好きかも」
「それ結衣が言ってたの?」
「そうじゃないけど、そういうものだろ?」
「さぁ?」
こういうトコロだよな…優がバスケ下手な理由。
もっと自信持てば良いのにな。
「あっ見掛けたと言えば。この前の日曜日、優の家の近くのモールで結衣見掛けたよ」
「僕の家に来た時?」
「うん、駿と買い物してたから見たよね?」
「あぁ。けど…」
「けど??」
俺はこの先の言葉を言うべきか躊躇った。なぜなら、俺が見た光景は結衣の万引き姿だったからだ…その時は、優の気持ちに水を指したくないから黙ってたが、未羽は話すべきだと思ったらしい。
「結衣が化粧品を万引き?」
「うん、見間違いかと思ったけど確かにそうだよ」
「…」
「結衣の事だし何か事情があったんじゃね?」
「万引きしなきゃいけない事情って?」
「友達とか先輩に脅されたとか?」
「結衣めっちゃムードメーカーなのに?」
「んー、そっかそうだよな」
俺が考え込む様子を見せると、優しい優しい未羽が俺を元気づけてくれるからマジ天使!
「でも何かあったって私も思うよ駿」
「未羽が優しくて俺泣きそう」
「優しいとかじゃなくて、結衣ってたまに暗い時あるなぁって思うの」
「え?そう?優は感じる?」
「ううん。でも何か抱えてる気はするかな」
「公園であった時のイメージ?」
「うん、確かに元気そうだったけど、儚げというより寂しげに感じた」
「そうそう、なんか無理してる気がするの。ほら私がそうだったじゃん。お母さんが会社クビになってヒステリー起こしてた時」
「あったあった、未だに顔合わせると謝ってくるもんな」
「お母さんすごく気にしてるもん」
「まぁ、もし結衣が未羽と同じ様に悩んでるなら何とかしてやろうぜ!優の初カノになるかも知れない子だしな!」
「だから違うって」
「そうだよ駿、友達だから力になるんでしょ」
「どっちも同じだろ?」
「「全然違う」」
こうして結衣の事を少し様子見することにした俺ら。二人の言う違和感なんて俺には分からなかったけど、二人が言うならなにかあるに違いない。そう感じた俺は、今まで以上に優のサポートする事に決めた。
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