うちの息子はモンスター

島村春穂

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息子の夜這い

【1】

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 その日の夜、床に就いてからというもの芙美子の頭のなかは息子のことでいっぱいであった。あれから海斗は芙美子を避けるかのようにして夕飯を黙々と食べ、こちら側が気を使って話しかけてもそっけない相槌をうつばかりでまともに口すら利いてくれない。


 継母ままははとなってからというものこうした態度は一貫して変わることがなく、頑固といったらよいのやら、偏屈とでもいうべきなのか彼の性格をよく表してしたし、平素にあっては海斗が芙美子に顔を向けるときには常に視線が口許にあった。


 芙美子は天井の壁紙をただ見つめ、唇が隠れるまで薄手の毛布を引っ張った。ちょうどこの真上にあの海斗の部屋があるのだ。


 考えてみてもどうなるものではなく、芙美子は早く眠りのなかに逃げ込みたかった。寝室の照明を消した。が、どたどたと上で足音がするたび、芙美子は閉じかけた瞼を薄く開けた。時間は一二時半。


 まだ寝るには早いけれど、それでもうるさい。どうやら音楽を聴いているようだ。深夜はパソコンにスピーカーを繋がないでってお願いしてもぜんぜん言うことを聞いてくれやしない。あのボカロだとか、アニソンだとかアイドルとかで頭がまるでキチガイじみてくる。


 芙美子がこの吉川家に来てからというもの、まともに寝付けたことがほとんどといっていいほどなかった。


「……毎晩、毎晩、毎晩、毎晩、もういや!」
 いまさっき掛けたばかりの毛布をぞんざいに捲りあげて飛び起きた。


 立て付けの悪い化粧台の引き出しにアタりながら力任せにこじ開ける。中には旦那の処方箋が入っていてそのひとつに頓服薬があった。


 芙美子はミネラルウォーターの入ったペットボトルに口をつけてから、他の薬と較べ五倍はあろうかという大きな一錠を腹に流し込んだ。なぜペットボトルが都合よく寝室に置いてあるのかといえば、二階から降りてきた海斗とばったり顔を合わせないためであった。


 飲み慣れた薬のせいか、じきに睡魔が襲ってきた。天井で振動しているキチガイじみた音楽すら心地よく感じられるほどに。ふと眠りに落ちかけたその瞬間、辺りが急に静まり返った気がした。ピタリと音楽がやんだようなそんな気配が――。


 寝室にある時計の、その秒針を刻む音が聞こえるくらい部屋中が深夜に包まれた。


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