婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

文字の大きさ
4 / 79

自覚なし?


 あれ……と首を傾げた。婚約者のリエトから婚約破棄を突き付けられてから三日が過ぎた。いつアンナローロ家に父の怒声が響くのかと待っていても一向にやって来ない。母も兄も父も普段の嫌味を言うだけで婚約破棄の件を何も言わない。可能性があるとすれば、まだ父の耳に婚約破棄の件が入っていない事となる。
 アルジェントに紅茶のお代わりを注いでもらい、その事を話すとアルジェントもそういえばと訝しく思った。


「殿下がまだ父に話していないのは何故?」
「王様や王妃様の許可を得ているのが嘘とかね」
「実際に二人は知らないかもしれないのね……」

 けど、とベルティーナは続けた。


「殿下は嘘が嫌いよ。そんな人が嘘を吐くかしら」
「ベルティーナは嫌われてるから。嫌いな人に義を通す気はないんじゃない?」
「……確かに」


 説得力のある言葉に納得した。早く婚約破棄を父に伝えてほしい。ベルティーナはアルジェントと家を出る準備を終えている。後は父の絶縁宣言を貰えれば直ぐにでも出ていく。
 紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせると執事長がリエトからの手紙を届けに来た。
 疑問を多分に頭から放出しながらも手紙とペーパーナイフを受け取って封を切り手紙を読んだ。アルジェントに内容を訊ねられると脱力しそうになりながらも文面を見せた。


「お茶の呼び出し……?」
「何を考えてるのあの殿下は……婚約破棄を突き付けた相手をお茶に誘うなんて」


 指定の日時は十日後。定期的に行われるお茶会の日付に相違ない。


「どうする? 行くの?」
「行くわけないでしょう」

 婚約破棄を命じられたのなら、苦痛以外何も感じないお茶の席に等誰が座りたいか。近年はクラリッサを同席させて如何にクラリッサが可愛いか、べルティーナは可愛げがないかと語られた。自分よりリエトの方が父達に似ていると出かかった言葉はその場で呑み込みアルジェントには盛大に愚痴を零した。

 手紙を封筒に直し、返事を書く便箋とペンを持ってくるようアルジェントに指示した。
 言われた通りに運ばれた便箋とペンを受け取ったベルティーナは一言書いて終わった。


「何を書いたの?」便箋を覗いたアルジェントは軽快に笑った。
「手紙の届け先を間違えていませんか? か……はは、確かにね」
「婚約破棄を命じた相手にこんな手紙を送るなんてどうかしてるわ」
「若しくは、国王夫妻は真面目に知らないとかね」
「殿下の独断って事?」


 果たしてベルティーナ嫌いでリエトと言えど、国王や王妃に無断で婚約破棄をするだろうか。ましてやアンナローロ家はリエトを支援する家の中で最上位。嘗て国王の婚約者だった令嬢の家を抑えるにはアンナローロ家の力は不可欠で。同時に、ベルティーナとの婚約はより地位を盤石にするためのもの。
 うーんと頭を悩ませるも、三日前を思い出すと湧いて来る苛立ちから便箋を封筒に入れ、公爵家の封蝋を押してアルジェントに渡した。


「殿下宛に届けて」
「は~い」


 間延びした返事で手紙を受け取ったアルジェントが出て行くと一人になったベルティーナは天井を仰ぎ見た。
 好きになってもらおうと努力した、クラリッサのように可愛い女の子にもなろうとお洒落を頑張った、未来の王妃となるべく嫌な事も苦手な事も逃げずに真面目に取り組んだ。どれだけ努力したってリエトも家族もクラリッサを可愛がってベルティーナを見ようとしなかった。
 王妃になるのだから甘えるな、怠けるな、王太子に心を尽くせとばかり言われ続ければ……クラリッサを実の娘のように可愛がっている場面を見ていれば……ベルティーナの心の拠り所は数少ない。


「はあ……」


 疲れた。家族にもリエトにも。頼れるのはアルジェントだけだ。
 アルジェントが戻るまで同じ体勢でいたベルティーナだあった。

 ———翌日。またリエトから手紙が来た。


「何なのよ一体」


 苛立ちながらアルジェントから手紙とペーパーナイフを受け取り、手紙の文面を読んだ。


「は?」
「何が書いてるの?」


 固まったベルティーナの横から手紙を覗いたアルジェントは噴き出した。


「相手は間違えてない、ですって? しかもお決まりの言葉……」


 手紙は確かにベルティーナに宛ててあり、以降は可愛げがないだの、婚約破棄をしてもクラリッサを見習わないのかというお決まりの言葉に追加要素を見せてきた。脱力したベルティーナは手紙を丸めてゴミ箱に捨てた。


「行く?」
「行かない。殿下からお茶の招待が来ていると他は知らないでしょう?」
「ベルティーナにしか手紙の事は言ってないから」


 ただ、定期的にお茶の日が行われる日は毎月決まっているのでその日はアルジェントを連れて買い物に出掛けてしまえばいい。家族からどんな様子だったかを聞かれてもいつも通りだと言えば、どうせお決まりの言葉で嫌味を言ってくるだけ。耐えればいい。慣れた。

 時間はあっという間に過ぎ、今日はお茶の日当日。生憎の雨だがお出掛けは実行する。着替えまでアルジェントに任せる訳にはいかず、比較的親しい侍女にドレスを着せてもらい、帽子を被り傘を持って玄関へ。


「ベルティーナ」                                                                                                                                                                      


 ビアンコに呼ばれるが相手をするだけ無駄と知っているベルティーナは素通りをし、外へ出て傘を差した。「待てと言っているだろうが!」追い掛けてきたビアンコに肩を掴まれ振り向かされた時、心の底から軽蔑した目でやれば顔を青くされた。


「な……な、なんだその目は……」
「お兄様って私を嫌いなのに姿を見ると毎回絡んできますよね? 鬱陶しいんですよ」
「な、ぼ、僕は別に嫌ってなんか……」
「私は嫌いですよ。お父様お母様王太子殿下と揃って馬鹿みたいにクラリッサは可愛い可愛いと言われて。で? 私もクラリッサを可愛いと褒めれば良かったんですか? クラリッサを可愛いと思えない私が嫌いなんですか?」
「そういう訳じゃ……だ、だが、お前に可愛げがないのは事実で」
「なら、可愛げのない妹は放っておいては。もう一度言いますわ、鬱陶しいです」
「……」


 明確に、キッパリと拒絶の言葉を放つと今度こそ肩を離し、歩き出しても呼び止めなかった。ちらりとビアンコを見ると俯いて悲壮感を漂わせていた。


 ——……もしかして……私に嫌われていないと思っていたとか……?


 だとしたら、とんでもないお花畑だ。溜め息を吐いてアルジェントが手配した馬車に乗り込んだ。前に彼が座ると馬車を発車させた。
 憂鬱げに過行く外を眺めていれば「ベルティーナ、一度王宮へ行こうよ」と提案された。目を丸くすると本当に王太子がベルティーナとお茶をする気があるのか気になるのだとか。


「私はない」
「俺はある」
「……絶対、クラリッサがいるわ。まんまと行った私にこう言うでしょうね? なんだ本当に来たのか、って」
「そうならないように遠目から見よう。クラリッサがいなかったら、声だけでも掛けよう。お互い嫌い合うのは良いけど、ベルティーナが王太子を無視した事実が出来ちゃうじゃん」
「……そうね」


 お茶の手紙を貰った際、婚約破棄したくせいにと頭に血が上って冷静な判断能力を失っていた。向こうに付け入らせる隙を作らない為にもアルジェントの言い分は理に適っている。
 御者には既に王宮へ向かうようアルジェントが指示していて、無駄がないわねと頼りになる従者に安心した。

 ——一方、王宮内にあるサロンでは。王太子リエトがテーブルに多種類のスイーツがある席でジッと座っていた。

 
感想 345

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑) ※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。