家出を決行した結果

文字の大きさ
11 / 27

11話 叶わないのか

 


 帝都にある大教会と比べると北の教会支部は当然だが小さい。見上げてやっと天辺が見える大教会と同じ建物が幾つもあったらそれはそれですごく、質素だが清潔に保たれている中をオルドーに案内される。


「地方の教会の運営を支えるに当たって貴族の支援は大きい。特にアリアージュ公爵家が多額の寄付金をしていると君は知っているな」
「はい」


 未来の公爵夫人になるよう育てられたフィービーはよく知っている。ミゲルの母と幾つかの教会支部、孤児院、修道院を回った。資金が潤沢な施設はどこも人の活気に溢れ、皆前を向いて生活を送っている。特に子供達の純粋無垢な笑顔は疲弊していたフィービーの心を癒してくれた。


「まあ、公爵家の誰かが来るようなことは滅多にないから安心してくれ。帝都と違ってこの地域に住む貴族は少なく、帝都の事情に詳しい者もあまりいない」


 ピンクがかった銀の髪、青の瞳という目立つ容姿を持つフィービーを一目見てウェリタース侯爵令嬢と見抜く貴族と接触する可能性も限りなく低く、居場所を知られる心配性はない。フィデスは単にフィービーを北の教会支部へ送ったのではないと改めて知った。


「オルドー様は、さっきフィデス司祭をあまり信用し過ぎないようにと私に言いましたが私には怖い人とは思えません」
「それはそうだろう。神を祀る教会の責任者が他者を怖がらせる真似は決してしない。叔父上は、人の好さそうな顔をして懐に入り込むのが上手い」


 フィービーの悩みを聞き、逃げ場所を提供したフィデスに思惑がなかったとは断言しない。何かしらの利益があってフィービーをオルドーのいる此処に送り込んだのだ。


「だとしても、やっぱり私はフィデス司祭に感謝をしています」
「……一つ聞いて良いか」
「なんでしょう」


 立ち止まり、振り向いたオルドーを真っ直ぐ見上げ、彼の問いを待つ。
 一向に訊ねないオルドーを段々と不思議そうに見ているとふいっと視線を逸らされた。


「……いや、すまない。なんでもない」
「そう、ですか」


 フィービーは深く突っ込まず、施設内の案内が再開されると黙って後ろを付いて歩いた。


「……」


 自身の前に誰もいないのをいいことにオルドーはじっとフィービーを見つめて得た気持ちに何処か納得したような面持ちをした。ピンクがかった銀の髪といい、青い瞳といい、過去の記憶を照らし合わせても納得せざるを得ない。時折、オルドーに会いに此処へ来るフィデスが言っていた通りだ。
 瓜二つと言っていい程、フィービーは亡くなった前侯爵夫人によく似ている。声もかなり似ている。


「……そういうことか」
「どうしました?」
「いや、なんでも」


 心の中で呟いたつもりが声に出ていたらしく、フィービーを誤魔化したのだった。

  
 ——礼拝堂、オルドーの執務室、食堂、休憩部屋、神官や職員の部屋の案内が終わると前を向いていたオルドーがくるりと振り向いた。


「フィービー嬢、アズエラ嬢共に本格的な業務は二日後からしてもらう。アズエラ嬢は神官として、フィービー嬢には職員として働いてもらう」
「分かりました」
「具体的な業務内容は二日後に説明をする。君の部屋へ案内する」


 今日と明日はゆっくり体を休め、明後日には仕事が始まる。ずっと貴族の令嬢として育てられたフィービーが初めて仕事をする。不安がない訳ではないがやらない限り何が出来る、出来ないがあるか分からない。
 フィービーの使用する部屋に入れてもらう。寝台とテーブルと椅子、小さなクローゼットが置かれていた。


「他に必要な物があれば各自で用意してくれ。帝都程には揃っていないが、この町もまあまあに大きい。欲を出さなければ良い物を見つけられるだろう」
「家具を一つ増やしても大丈夫ですか?」
「構わないが大物になるなら店の者に頼んで運んでもらうといい。ついでだが何を買うんだ」
「鏡台を購入しようかと」


 部屋には姿見もなく、身形を整えるには鏡は必要で。あまり家具を増やしても部屋が狭くなる為、化粧品を仕舞うのにも便利な鏡台を選んだのだ。
 言われて察したオルドーは「ああ、そういえば鏡は共用スペースのところにしかなかったか」と納得し、貴族出身の職員も自分で購入していたなと思い出した。


「明日、此処の出身者に君とアズエラ嬢を案内させる。その時家具を見に行きなさい」
「はい。ありがとうございます」


 説明は終わり、困ったことがあれば言うようにと言い残しオルドーは部屋を出て行った。一人になったフィービーは旅行鞄をテーブルに置き、中身を開いた。クローゼットに持って来ていたワンピース、帽子を仕舞い、小物類は一旦旅行鞄に入れたままにした。旅行鞄もクローゼットに入れると扉を閉めた。
 日当たりの好い場所を与えられた。カーテンの隙間から差し込む太陽の光が眩しい。思い切ってカーテンを開き窓を開けた。

 目の前に広がるのは自然の景色。頬を撫でる風が心地よく、爽やかな香りを運んだ。


「綺麗な場所……とても落ち着く」


 人もいない、緑に溢れただけの景色は疲れ切ったフィービーの心をゆっくりと癒してくれる。今頃ミゲルはどうしているのか、と考えないようにしているのに気を抜くと考えてしまう。


「私がいなくなったところでミゲルが変わる筈ないのに……何を考えているのだか……」


 馬鹿みたいだ。

 一番の馬鹿は、ミゲルの心がダイアナにしか傾いていないのに何時か自分の方へ向いてくれると未だに信じているフィービー自身だ。フィービーが熱を出してデートが出来なくなった時、事前に行けなくなる旨の手紙をミゲルに送った。ダイアナと違ってミゲルは見舞いに来なかった。見舞いの品を贈られただけ。
 手紙にお見舞いに来てほしいとは書かなかった。風邪を引いてしまっていたので移ってはいけないと思って。


「お見舞いに来てって手紙に書いていたら、誰かを向かわせて伝えてもらっていたら、貴方は来てくれた……? ミゲル……」


 フィービーはダイアナじゃない。ダイアナじゃないフィービーだったら、ミゲルは来ていない。自問自答したら浮かぶ答えは何時だってこれだけだ。
 しんどいことばかり印象に強いが嬉しいことだってあった。風邪が移ったらいけないからと治るまでフィービーの部屋に入らないよう言い付けられていたジゼルがこっそりとやって来た。熱で重い体を起こそうとしたフィービーを寝かせ、額に載った乾き始めたタオルを冷たい水に浸し、再び額に載せてくれた。絞りが甘かったせいで水が垂れていたがあの時の——


『ねえ様! 早く元気になってね。ジゼル、ねえ様が治るのずっと待ってるよ』


 無邪気で純粋な天使の優しさに思わず泣いてしまった。父や兄は、義母を快く思っていないフィービーがジゼルに危害を加えると警戒し、滅多に二人きりにしなかった。もしもあの時、あの場に父や兄がいたらフィービーは絶対泣かなかった。抑々ジゼルを部屋に入れなかった。
 泣いてしまったフィービーにあたふたとするジゼルが可愛くて義母に結ってもらった自慢の髪を撫でてあげたら、ジゼルは落ち着きを取り戻しまた笑ってくれた。


「……」


 此処と帝都は遠く離れている。最初ハンナと約束した頻度では手紙は送れない。そのことについてはちゃんと明記してある。
 お詫びの品を何か贈りたいが大きい物だと他者に不審がられる。なるべく小さい物にしたいが明日町を回る際、良い物があればと願う。




 ○●○●○●


 帝都の第二の象徴たる大教会の横、花壇が並んだ道で勝手に自分で設置した長椅子に座って休憩しているフィデスは突然やって来ては死にそうな顔をしているミゲルの相手をしていた。婚約者のフィービーがいなくなって半月以上が経過した。
 行方は依然と掴めないまま、捜索の手を広めてもピンクがかった銀の髪をした女性の目撃情報がどこからも上がらないとミゲルは憔悴した声で漏らした。フィービーを極秘に北の教会支部へ逃がした張本人が隣にいるとも知らず。


「ウェリタース侯爵家はなんと言っているんだい」
「……侯爵やミリアン殿はフィービーの捜索で倒れてしまい、現在は休養しています。侯爵夫人はフィービーの居場所が分かり次第、アリアージュ家に伝えるとだけ」
「なんだか素っ気ないね、侯爵夫人。それとも話した相手がミゲルだから素っ気ないのかな」
「っ……」


 フィービーの居場所を半月何度も訊ね、その度に対応したのは執事や侯爵夫人。どちらも非常に淡々とミゲルに対応した。二日前、侯爵夫人エイヴァが先触れを出してアリアージュ公爵夫妻と面会した。フィービーに絡んだ内容だというそんな時にローウェル公爵家の使者がダイアナがまた熱を出してミゲルに来てほしいと伝えに来た。どうしていつもフィービーが絡むとタイミングよくダイアナの具合が悪くなるのか。以前から、屋敷にミゲルの行動をローウェル家に流す内通者がいるとは把握しているのに誰かがまだ分かっていない。
 冷たく見据えてくる瞳の温度の無さに絶句したミゲルを横目にエイヴァは淡々とダイアナの許へ行ってくださいと述べた。

 今までと同じように。


「で、結局行ったの?」
「行ってません。無理矢理追い返しました」
「そう。もしも、行ったなんて言っていたら、さすがの私も呆れ果てていたかな」
「……きっと……侯爵夫人も同じ気持ちを持っていたでしょう」


 ダイアナ様がと縋る使者を無理矢理追い返したミゲルを視界に収めるエイヴァの瞳は冷たいままだったが、微かに驚きが宿され……次に落胆の色が見て取れた。
 強く拒否出来るなら、どうして今までしてこなかったのか。こう思われたに違いない。
 行方の片鱗が掴めないフィービーの捜索と今後について話し合い、婚約関係をどうするかとなった時。
『ミゲル様とフィービーの婚約の継続は、フィービーが見つからない限り維持するのは難しいとなると婚約破棄が』とエイヴァが言い掛け、咄嗟にミゲルが待ったを掛けた。声を上げ、エイヴァの前で深く頭を下げ婚約破棄だけは待ってほしいと頼み込んだ。冷ややかな視線を注がれていると肌で感じてもミゲルは言わずにはいられなかった。罵倒されようと今更だと突き放されようと唯一の繋がりを断たれたら二度とフィービーと会えなくなってしまう。
 懇願し続けている時にダイアナとダイアナの兄ジェイドが来たと知らされた。ミゲルが来ないとダイアナ自身が乗り込んで来たのは何度目になるか。ジェイドの同伴も一度や二度じゃない。瞬間的に苛立ちが湧いた直後、ミゲルの父アリアージュ公爵がローウェル兄妹を追い払いに出向いた。その際に言われたのがフィービーとの婚約破棄が嫌ならエイヴァを納得させてみろというものだった。


「で、納得させられたの?」
「保留にしていただきました……」
「ローウェル公爵が後から乗り込んで来そうだね」


 城で会った際嫌味を言われたアリアージュ公爵は逆にダイアナとジェイドを非難し、子供の教育がなってないとローウェル公爵のことも非難した。怒気を込めた目で睨まれようとアリアージュ公爵は現役の騎士。武力で比べると圧倒的に弱いローウェル公爵は唇を噛み締め去って行った。


「やれやれ」


 項垂れるミゲルを慰め励ましつつフィデスは心の中で呆れた。

 誰に? それは……。

  
感想 16

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

知らない結婚

鈴木葵
恋愛
親が決めた相手と11歳の時に結婚した伯爵令嬢、エマ。しかし16歳になっても、いまだに一度も夫に会った事がない。よほど妻に興味がないのか、例えそうだとしても社交界へデビューする日にはエスコートしてくれるはずだと思った。けれど他の女性をエスコートするからと断られてしまう。それに耐えかねて夫の領地まで会いに行けば、宿屋の軒先で女の人と揉めている夫とばったり出会ってしまい……。

「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」 この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。 選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。 そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。 クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。 しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。 ※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。 何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。 困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。 このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。 それだけは御免だ。 結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。 そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。 その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。 「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。