私のこと好きだったの?

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実はな話

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「度が過ぎますぞ。名ばかりの部隊長でしかない君の方こそ、口の利き方がなっていない」
「なっ、私を侮辱するのか!」
「事実ですよ。君だけじゃない、後ろにいる彼等もそう」


 能力も経験もなく、かと言って、他にやる居場所もない令息達を押し込める第三部隊に騎士として期待する人は誰もいない。気のせいか公爵が発する冷気が床や壁、空気を凍り付かせ息をすると肺までその冷たさが届く。冷たい空気を吸っているのは私だけじゃない、第三部隊も同じ。段々顔色が悪くなっていく彼等を視界に収める薄紫の瞳もまた氷と同じ。


「マルティーナ様はルチアーノ様の一人娘。ぼくも最初、子供ができたと聞いた時はルチアーノ様のことすぐに飽きると思っていました。ですが予想に反してルチアーノ様は、マルティーナ様にとって良き親になろうとし、周囲の目から見ても分かる通り大切にしていらっしゃる。そんな大切な一人娘を勝手に、それもルチアーノ様の不在を狙って連れ出したらどうなるか……」


 先の言葉を言わずとも分かるだろうと言いたげに公爵は微笑む。一番冷気を浴びているであろう部隊長は口を震わせ、みっともなく鼻水を垂らしていた。後ろの人達も鼻を啜ってる辺り出てるね……。


「トリスタン殿。もう一度言いましょう。王妃殿下には、後でぼくが言っておきます。ルチアーノ様の耳に入る前に、速やかに帰りなさい」


 口調は淡々としながら声色に乗せられた圧にとうとう屈した第三部隊は身体を震わせながら屋敷を出て行った。お陰で公爵が放っていた冷気も綺麗に消え、凍える冷たさはなくなった。寒かった…冗談抜きで。


「公爵」


 私が呼ぶとお互いの視線が重なった。



「あの人達、素直に帰りますか?」
「帰るでしょう。引き返す度胸があるなら、少しは見直してもいい」
「王妃殿下も役に立たない第三部隊じゃなく、別の部隊を使おうと思わなかったのかな」
「南方へ遠征に行って不在の第一、第二部隊を除いた全部隊の隊長は陛下の招集によって集められています。第三部隊が呼ばれないのは王妃殿下とて承知のこと。故に彼等を動かしたのですよ」
「他の誰かにバレるって心配もしなかったとか?」
「ええ」


 うわあ……能力がないと誰からも見向きもされないってちょっと嫌だな。前世でいう窓際なんだろうけど、第三部隊の場合は全員漏れなく顔だけはいい。そこだけが違う。


「王妃殿下が私兵として使ったなら、それもそれで問題なんじゃ」
「大きな問題になられてもぼくが面倒なのでその辺りは割愛させてもらいます。そろそろ第三部隊をどうにかする議論でも考えておきましょう」
「お、お願いします」


 今回は公爵がいたお陰で追い帰せたものの、またお父様が不在の時に来られて公爵もいないと今度は連れて行かれる。テノールさんやマリンでは身分の壁があって手荒な真似は使えない。かと言って私が追い帰そうにも、攻撃魔法はまだ習っておらず、思い付きで実行しようにも一定以上の魔力はお父様によって使えなくされている。万が一、側にお父様がいない状況で魔力暴走が起きた際被害を最小限に抑える為だ。私の魔力はお父様譲りといって過言じゃない。


「ぼくは外を見て来ます。マルティーナ様は部屋にいてください」
「もしかして隠れて機会を窺ってる……?」
「彼等も大馬鹿ではないでしょうが……念には念をということで」
「は、はい」


 第三部隊はしっかり帰ったか確認をするべく屋敷の外へ行った公爵を見送り、私は温室で採取した薬草を目にするとトレーを持ち上げ、マリンとテノールさんに向いた。


「公爵が戻るのを待つ間、採取した薬草を綺麗にしたいの。テノールさんは薬草を包む布を持ってきて。マリンは私と薬草を洗おう」
「分かりました!」


 テノールさんと分かれ、マリンと一緒に向かうのは温室。温室には水場があり、採取した薬草などを洗ったり手を洗ったり等する。マリンは厨房を借りようと言ってくれたが昼食の仕込みをしている料理人の邪魔をしたくなく、温室にしてもらった。マリンが大きな盥に水を汲んでいる間、私は温室の出入り口付近に置かれている布を二枚用意した。これで洗った薬草を拭く。
 水を溜めた盥へトレーに置いていた薬草を全て投下。韮みたいに一枚一枚細長く、時間がかかろうと綺麗にしようと水の中で薬草を綺麗にしていく。一枚を綺麗にしたら布で拭いて代わりのトレーに置いていく。地味だけど綺麗にすると嬉しい。黙々と作業をしながら、ふと気になったことがあってマリンに聞いてみた。


「ねえマリン。第三部隊の隊長が言ってた公爵はお父様のお気に入りってどういう意味なんだろうね」
「あれですか……」


 子供の私には言い辛いらしく言葉を迷っているマリン。


「お嬢様は、ルチアーノ様にモーティマー公爵との関係を聞いたことは?」
「ないよ」


 面倒くさそうに相手をするけど王族の人達と違って邪険にしない。公爵の方もお父様の扱いをよく分かっていて雑に対応されても慣れている節がある。


「公爵は幼い頃誘拐されたことがあります」
「え!?」


 予想外な内容に素っ頓狂な声が出た。私達しかいなくて良かった……。


「公爵家の人なのに?」
「先代公爵夫妻は絵に描いたような仮面夫婦でお互いに愛人を持ち、嫡男たる公爵に見向きもしませんでした」


 跡継ぎの男の子が一人いればいいと先代夫妻はお互い愛人に夢中だった。幼少の頃より孤独に過ごしていた公爵が誘拐されたのは、先代夫人と共に招待されたお茶会に参加した時。一人になったところを誘拐された公爵を偶々通り掛ったお父様が助けたのだ。ただ、通り掛った場所が問題だらけだったとか。詳しく聞けば誘拐犯は公爵を黒魔法を崇拝する団体に売り飛ばした。前世では漫画やゲーム、アニメで聞き慣れた単語だけれどこっちの世界では初めて聞いた。非人道的な魔法を研究する団体で組織の規模や詳細はまるで分かっていない。団体はよく身寄りのない子供を攫っては黒魔法の実験を行い、使われた子供は皆死んでしまう。
 お父様が通り掛ったのは団体が拠点としていた屋敷に理由があった。元の持ち主が亡くなり、所有者不明と化していた屋敷を団体は違法に占拠し、邸内には団体が収集した魔法具や密猟された希少動物、更には盗品等多くの物が眠っていた。それらを探していたお父様からすると公爵を助けたのはただの偶然、公爵以外にも誘拐された子供はいたけど……その子達は皆殺された後だった。運良く公爵に手が伸ばされた時にお父様が来たお陰で助けられたのだ。
 そんな過去があったなんて露程も予想していなかった私は次の言葉が見つけられなかった。


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