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レーヴの謎行動2
しおりを挟む目の前にいる相手の本物偽物説は置いておき。今になってシェリに会いに来たレーヴの思惑を推理してみた。
結果――完敗である。そもそも、推理をする材料が無さすぎた。
交流はシェリが一方的に会いに行って、常に嫌そうな顔をされても返事をされなくてもめげずに話し続けただけ。役割として誕生日プレゼントや定期的なプレゼントは贈られても、彼本人の心の籠ったプレゼントは予想するまでもなく1度もない。
嫌われてると自覚しながらも、恋はいつか実ると信じた。恋愛小説に夢を抱き過ぎていた。現実は物語の世界と違う。物語は読者が満足するよう、主人公とヒロインは必ず結ばれハッピーエンドとなる。自分のようなお邪魔虫は馬に蹴られて死ねと罵られるだけ。
好きで悪役に生まれた訳じゃないのに。幸運なのは、我儘だった娘を見捨てず溢れんばかりの愛情を注いでくれた父がいてくれたこと、優しい使用人達に囲まれていたこと。たった1つでも欠けていたら、人としてもシェリは終わっていた。
今やるべきはこの場をどう乗り切るべきか、である。
他人行儀に接せられてショックを受けて呆然としているレーヴ。
あれ? とシェリは内心首を傾げた。
(これ、チャンスでは……)
レーヴの謎の衝撃は解釈のしようがないが逃げるなら今が絶好の機会。試しに顔の前で手を振ってもレーヴはピクリともしない。
考えるよりも最優先事項は体を動かし、裏庭からの逃亡――否、レーヴの前から消えること。
「……これ以上お話がないようであれば、わたしは失礼致しますわ」
完璧な淑女の礼を見せると彼が我に返る前に素早く逃げ出した。
走らず、だが急いで、次は図書室へ向かう。追い掛けて来る気配がない。彼は一体何をしに裏庭へ来たのか。
……何故、今更になってシェリの名前を紡いだのか。
「……っ」
正直に明かそう。
心が破裂せんばかりに嬉しかった。初めて名前を呼んでもらえて。身嗜みには気を遣う彼が髪を乱してまで探す相手はミルティー以外いない。
隅っこへ移動したシェリは読みもしない本を取ってページを開いた。読んでいる振りをしながら、ゆっくりと思考していく。
シェリの前にレーヴがそうまでして現れたのは、ミルティー絡み。シェリが大きく関係しているから、今回嫌々ながら探しに来たと推理出来た。我ながら完璧な推理だと鼻が高くなった。
……激しく落ち込んだのは言うまでもない。
机に顔を突っ伏したシェリ。周囲に誰もいなくて良かった。
「……仮にミルティー様絡みだとしても、どんな用件だったのかしら。
昼食でのやり取りを見ていた? なら、食事中に注意をしてくるわね。それとも、わたしが食堂を出るのを狙って待っていた? ああ……これが1番しっくり来るわ」
婚約解消の話しは当然シェリの耳にも入っていると知るレーヴが想い人であり、新たな婚約者となったミルティーの心配をしない筈がなく、彼女を害する可能性が最も高い相手に危険を抱くのも道理。
「はあ……」
分かっている。分かっていても辛い。
どんな悪意からも守りたくなる庇護欲のそそられる、純粋で可憐な少女になりたかった。生まれたかったは決して言わない。産んでくれた母に失礼である。
母譲りの波打つシルバーブロンドはシェリの誇りだ。幼い頃から毎日手入れは欠かさない。侍女達のお陰で傷みも癖もない美しい髪。
容姿が良いのは自分自身知っていた。中身が駄目なら、せめて見た目だけでも好印象を持たれようと思い付いたのが始まり。
結果はお察しだ。
お昼を食べた後、ぽかぽかな陽気、丁度良い高さの本が枕代わり――。
昼寝をするには持ってこいの条件が重なったてしまい、押し寄せた眠気に逆らえずシェリは重たい瞼を抵抗なく閉じた。
規則正しい寝息を立てて眠ったシェリの元に近付く人。
「おやおや……風邪を引いてしまいますよ」
日光に当てられ自然の色を彷彿とさせる緑の瞳に若干の呆れを宿しつつ、制服の上着を脱いだヴェルデは華奢な体にそっとそれを掛けた。
凄艶な寝顔を欲の制御出来ない男が見たら、無防備なせいであっという間に美味しく頂かれてしまう。
詳しい経緯は全く聞かされてないが、恐らくだがシェリとレーヴの婚約解消は後者に原因がある。
向かい側の席に座ったヴェルデは、頬杖をついて無防備な寝顔を眺めた。
「殿下の異常な意地っ張りの原因は何だったのでしょうか」
それを知っていたら、彼の友人であるヴェルデでも少しは手伝えたかもしれないのに。
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