26 / 81
敵の魔の手はすぐそこまで……2
しおりを挟むクロレンス王立学院に着いて早々、教室ではなく裏庭へ行った。
そして、回れ右をした。
相手が自分に気付かないのを願って。
うるさい心臓を抱えながら図書室に逃げ込んだシェリは隅っこの席に着席しーー突っ伏した。
人がいないから出来る行い。
「び、びっくりした」
見間違える筈がない。
青みがかった銀髪、陽光を受けてきらきらと輝く青の宝石眼。
壁に凭れて雑草を眺めていたのはレーヴだった。
一目見た瞬間回れ右をしたのでシェリには気付いていない筈。
心臓に悪い。大きく高鳴った。何度冷たくされても嫌いになれない彼がそこにいた。
駆け寄って、傍に行きたい衝動を無理矢理抑え込んで図書室に来て正解だった。
うるさいくらい鳴る心臓の音は平常に戻り、顔の熱さも通常の温度に戻ったのを見計らい、シェリは深呼吸をしてから図書室を出た。
気になっていた新刊は昼休憩の時司書に確認するか。
教室へと向かっていると「オーンジュ嬢?」とヴェルデの声が。
「おはようございます、ヴェルデ様」
「はい、おはようございます。……あの、1人ですか?」
「? そうですが……」
「……真っ直ぐ、教室に来たのですか?」
……ひょっとして。
「……あの、ヴェルデ様。殿下が裏庭にいると知っているのですか?」
「はい……、多分、昨日の今日なのでオーンジュ嬢なら裏庭に来ると思い」
なんてことだ。レーヴのいる原因はヴェルデだった。
「殿下がいると知っているということは……逃げたのですか?」
「う……はい」
「あの……まあ……なんといいますか……」
お気の毒に……と呟かれた対象は、来ると言われて待ち続けているレーヴだろう。
今から戻った方がいいのか? だが時間的にレーヴも諦めて既にいない気がしてならない。
微妙な空気を流しつつ、2人はこれ以上何も言わずにそれぞれの教室に入って行った。
自分の席に着いたシェリは鞄を机に置いて突っ伏したくなったが、図書室と違ってチラホラと人がいるので止めた。
(どうしてヴェルデ様は殿下に……いいえ、そもそも殿下は何故……)
婚約解消を嫌がったことといい、謎が多い。
(よし!)
もしも、今度レーヴがいたら逃げずに会って見よう。今なら話せるかもしれない。
気持ちを切り替えたシェリは鞄の中から教材を出していった。
……一方で、不穏な行いを画策する者が1人いる。
「ふふ……今に見てなさいシェリ。レーヴ様の妻になるのはわたくしよ」
淡い光を放つ銀の鍵を持つアデリッサが妖しげに微笑み、想い人の姿を強く脳裏に描いた。
「レーヴ様……あなたの憂いはわたくしが払ってみせます」
シェリが強気でいられるのは今だけ。
これから彼女には“想い人に憎悪される生き地獄”が待ち受けているのだから……。
86
あなたにおすすめの小説
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
砂糖漬けの日々~元侯爵令嬢は第二王子に溺愛されてます~
棗
恋愛
魔界の第二王子ヨハンの妃となった侯爵令嬢エウフェミア。
母が死んですぐに後妻と異母妹を迎え入れた父から、異母妹最優先の生活を強いられる。父から冷遇され続け、肩身の狭い生活を過ごす事一年……。
魔王の息子の権力を最大限使用してヨハンがエウフェミアを侯爵家から引き剥がした。
母や使用人達にしか愛情を得られなかった令嬢が砂糖のように甘い愛を与えられる生活が始まって十年が過ぎた時のこと。
定期的に開かれる夜会に第二王子妃として出席すると――そこには元家族がいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる