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敵の魔の手はすぐそこまで……2

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    クロレンス王立学院に着いて早々、教室ではなく裏庭へ行った。
 そして、回れ右をした。
 相手が自分に気付かないのを願って。
 うるさい心臓を抱えながら図書室に逃げ込んだシェリは隅っこの席に着席しーー突っ伏した。
 人がいないから出来る行い。

 
「び、びっくりした」

 
 見間違える筈がない。
 青みがかった銀髪、陽光を受けてきらきらと輝く青の宝石眼。
 壁に凭れて雑草を眺めていたのはレーヴだった。
 一目見た瞬間回れ右をしたのでシェリには気付いていない筈。
 心臓に悪い。大きく高鳴った。何度冷たくされても嫌いになれない彼がそこにいた。
 駆け寄って、傍に行きたい衝動を無理矢理抑え込んで図書室に来て正解だった。
 うるさいくらい鳴る心臓の音は平常に戻り、顔の熱さも通常の温度に戻ったのを見計らい、シェリは深呼吸をしてから図書室を出た。
 気になっていた新刊は昼休憩の時司書に確認するか。

 教室へと向かっていると「オーンジュ嬢?」とヴェルデの声が。

 
「おはようございます、ヴェルデ様」
「はい、おはようございます。……あの、1人ですか?」
「? そうですが……」
「……真っ直ぐ、教室に来たのですか?」

 
 ……ひょっとして。

 
「……あの、ヴェルデ様。殿下が裏庭にいると知っているのですか?」
「はい……、多分、昨日の今日なのでオーンジュ嬢なら裏庭に来ると思い」

 
 なんてことだ。レーヴのいる原因はヴェルデだった。

 
「殿下がいると知っているということは……逃げたのですか?」
「う……はい」
「あの……まあ……なんといいますか……」

 
 お気の毒に……と呟かれた対象は、来ると言われて待ち続けているレーヴだろう。
 今から戻った方がいいのか? だが時間的にレーヴも諦めて既にいない気がしてならない。
 微妙な空気を流しつつ、2人はこれ以上何も言わずにそれぞれの教室に入って行った。

 自分の席に着いたシェリは鞄を机に置いて突っ伏したくなったが、図書室と違ってチラホラと人がいるので止めた。

 
(どうしてヴェルデ様は殿下に……いいえ、そもそも殿下は何故……)

 
 婚約解消を嫌がったことといい、謎が多い。

 
(よし!)

 
 もしも、今度レーヴがいたら逃げずに会って見よう。今なら話せるかもしれない。
 気持ちを切り替えたシェリは鞄の中から教材を出していった。

 ……一方で、不穏な行いを画策する者が1人いる。

 
「ふふ……今に見てなさいシェリ。レーヴ様の妻になるのはわたくしよ」

 
 淡い光を放つ銀の鍵を持つアデリッサが妖しげに微笑み、想い人の姿を強く脳裏に描いた。

 
「レーヴ様……あなたの憂いはわたくしが払ってみせます」

 
 シェリが強気でいられるのは今だけ。
 これから彼女には“想い人に憎悪される生き地獄”が待ち受けているのだから……。

 

 
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