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アデリッサの焦り3
しおりを挟む父とマティアスが戻ったと聞くなり、玄関ホールまで飛んで行った。上着を執事に預けていた父に真っ先に詰め寄った。
「お父様! あれ程マティアスを連れて行かないでとお願いしたのに!」
「おぉ、ごめんよアデリッサ。男爵に、あまりに人手が足りないと嘆かれてしまってね。魔法の研究は我が国では非常に重要なことなんだ。優秀な魔法使いであるアデリッサの従者を勝手に連れ出したことは謝るよ。今度、欲しい物があれば何でも言いなさい」
「物で釣らないでちょうだい! でも釣られてあげるわ。お父様、今度からはちゃんとわたくしを通してくださいね」
「ああ、勿論だよ」
マティアスを連れて部屋に戻った。
アデリッサは父に向けていた、怒った可愛い娘から一転、憤怒の形相でマティアスに詰め寄った。
「お父様に余計なことは言ってないわね!?」
「も、勿論です。誰にも話していません。公爵様に今一度確認されれば、分かります」
「あと、あなたの“魅了の魔法”不完全じゃない! レーヴ様はわたくしのお願いを聞いてくださらなかったのよ!?」
アデリッサが最も腹を立てているのがこれ。
父が勝手にマティアスを連れ出した以上に怒りが強い。
愛しの自分よりも、教会の面白くもない行事の話をするミルティーとヴェルデを優先した。愛しい自分がいたいと願っても、レーヴは快い承諾をくれなかった。優しく、幼い子供を諭す口調で退室を求められ際には、あまりの悲しさに演技も忘れ本気で涙を流した。走り去る自分を追い掛けてくれると信じていたのに、レーヴは、彼は来てくれなかった。シェリから奪い、愛される喜びに浸っていたのに。
「レーヴ様がわたくし以外のことを考えられないようにしなさい!!」
「そ、それでは殿下の意思がなくなってしまいますっ」
「わたくしのお願いを聞いてくれないなんて、そんな愛され方わたくしは嫌よ! いいこと!? 明日、殿下にこの前かけた“魅了の魔法”をより強力にしたのを作りなさい。命令よ、ライトカラー男爵令嬢を傷物にされたくないでしょう?」
「っ」
マティアスに有無を言わせず、従わせるのに最も最適な言葉。彼はマリーベルに惚れている。彼女を脅しの材料にすれば、どんな難題でも熟す。
俯いた彼が唇を噛み締めた。
暫く無言だったが、小さく掠れた声で「……畏まりました」と告げた。
アデリッサは鼻を鳴らすとベッドに腰掛けた。
「レーヴ様はわたくしの物よ、絶対に誰にも渡さない。見てなさい、シェリ」
――アデリッサの部屋の前で、術式を刻んだ掌を扉に当てていたアデリッサの父カール・ナイジェルは、深い失望の淵にいた。
「……ああ……どうして……こんな子に育ってしまったんだ。たとえ髪の色がああでも……真っ当な子に育って欲しかった……」
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